第102話 真実は一つ? ③
クロウさんたちが去っていき、丁度入れ替わりで師匠が帰って来た。
『ただいま~』
『おかえりなさい~。今日も遅かったですね。お疲れ様です~』
今日インしてたのは私だけだ。ギルドチャットに返事を返しすと、お店を占めて師匠の家へと飛んだ。
「ふあああ、コヒナさんおはよう~」
「おはようございます。今日も遅かったですね~。お疲れ様です~」
このところ師匠は以前にも増して帰りが遅い。お仕事が忙しくてお疲れらしい。リアルでしているであろうあくびをこっちでも再現してくる。
「仕事もそうだけど、今朝変な夢繰り返して見ちゃってさ~。上手く寝付けなかったんだよね」
私は先日タロット以外にも何かできることがないかと思って夢占いの勉強を始めたところだ。だけど今の所よくわかってない。夢を解釈するというのはわかるとしても、そこから占いに、未来を見ることにに繋げるというのがいまいちピンとこないのである。
前に師匠にもこのお話をしたのでネタを持ってきてくれたのだろう。ありがたく練習させていただくことにする。
「どんな夢ですか~?」
「車で職場に向かってるんだけど、急がなきゃいけないのに道が穴だらけな夢。んで俺、すごい焦っちゃってるの。ああ夢か、って起きるんだけど、気が付いたらまた同じ夢見てるんだよね」
ふむふむ。人の夢の解釈は難しいけれど、これなら解ける気がするぞ。
「師匠、夢は願望を現すんです~」
「ええっ、俺、穴ぼこの道見て焦りたいと思ってるってこと!?」
そうじゃないです。それどんな願望だ。
「いえ~。多分疲れていてお仕事に行きたくない夢だと思います~。お仕事にはいかなくてはいけないけれど、穴が開いていて行くことが出来ない。つまり仕事に向かうのを邪魔されたいんだと思います~。当たっているかはわかんないので話半分に聞いてくださいね~」
「なるほど、そっちが願望になるのか。でもそれなら素直にさぼって休んでる夢にしてくれたらいいのにねえ」
全くその通りだと思う。夢の解釈は難しい。ストレートに見たいものを見せてくれるなんてことは無いのだ。
これだってこのところ師匠がお仕事でお疲れだったのを知っているから出てくる解釈だ。そしてこんな風に夢の解釈を「当たっている」と言って貰ったとしてもそれは占いではない。
ただの夢の解釈だ。
まあ、「疲れているから休め」というアドバイスと解釈することはできるかな?
「無理しないで、今日はお休みになりますか?」
師匠と遊んで貰えないのは残念だが身体を壊されるのは困る。この先には大事な予定も控えているのだ。
「んにゃ、お仕事終わったら元気だからだいじょぶ。明日遅いし。でもハードなとこじゃない方がありがたい、かな?」
師匠がこんなことを言うのはめずらしい。本当に大分お疲れのようだ。
「大丈夫ですか? お休みになった方がいいのでは」
「ん~、多分今寝ても寝られないんだよね。少しネオデやって頭ほぐさないと」
「じゃあ、羊さんの毛を狩りながらお話しましょう~。私が護衛してあげます~」
「え、それは助かるけど。いいの?」
「はい~。聞いて欲しいお話もありますし~。それで眠れそうになったらお休みになってください~」
「ん、そっか。じゃあありがたく」
ロッシー君の背中に乗せて貰って羊さんの群を探す。私のナンテーくんは今日はお留守番だ。ロッシー君の操作を師匠に任せながら、私は今日浮かんだ疑問を師匠にぶつけてみる。
占い師なので相談の内容や占いの結果は他人に言ってはいけない。たとえそれがオープンチャットで冗談交じりに話された内容でも。
だから、私は自分が疑問に思ったことだけを言葉にした。
「師匠は、ゲーム内での恋愛はどう思いますか?」
「どうというと?」
「ネオデの中で好きな人ができたとします。その好きは本物でしょうか?顔も知らない人に惹かれるのは、恋愛じゃなくて恋愛ごっこなんでしょうか?」
「難しいね。ダイレクトに答えを返すなら、『その人達次第』なんだろうけど」
それはまあ、その通りだろう。
師匠は丘の上にある大きな木の下でロッシー君を止めると、いつものようにその場で二人分の椅子を作ってくれた。ありがたく座らせていただく。眼下には雄大な湖が見える。ノドス湖だ。先日あそこに住んでいるヒドラにソロで挑み、手痛い敗北を喫した。いつかリベンジしなくてはならない。
「前提もいろいろだからねえ。まずネットの中、ゲームの中で完結するかどうかと言うのがあるよね。お互いがネットだけの関係と言う認識でいたら、少なくとも二人の間では問題ないよね?」
「うーん、はい」
ちょっと納得がいかない部分もある。もしその片方、あるいは両方にリアルのパートナーがいたなら、それは浮気だと思うからだ。ゲームだと言っても携帯端末でやる恋愛シュミレーションと同じと言うわけにはいかない。
でも、当の二人の間でと限定するなら、不服ながら問題はない。
「じゃあ、色んなゲームをやっていて、それぞれのゲームに恋人がいる人がいたとして、それはどう思う?」
「むむむ」
どうなんだろう。先の例に従えば問題なし、とすべきな気もするけど。感覚的になんか嫌だな。そもそも感覚で行ったらさっきのも良しとはしたくないけど。
「あるいは、ネオデだけをやっていて、でもキャラが五人いて……」
うわあ。
「師匠、よくそんなこと思いつきますね。密かに愛人とか作ってるんですか?」
「なんでだよっ! たとえ話だよ、たとえ話!」
たとえ話にしても酷い。まあ、師匠にはそんなことできないだろうけどさ。
「そうなってくると、恋愛と呼んでいいのかどうか怪しいですね」
「相手の方もそれを承知で付き合ってるとしたら?」
「むむう」
さすがに恋愛とは認めたくないなあ。でもその人たちにそれは恋愛ごっこですよ!なんて言っても仕方ないのは私にもわかる。その人たちに自覚があるにしてもないにしても不毛な論争だ。
「この例はそれこそ恋愛ごっこなんだろうけどね。でもさあ。遊びのつもりで本気になっちゃうのって、リアルでもよく聞く話じゃない?」
「むう。確かに」
実感としては「知らんけど」なんだけどよく聞く話と言えばその通りだ。本気になってしまった方は自分だけを見て欲しくなる。
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