第101話 真実は一つ? ②
「お待たせいたしました~。結果をお伝えします~」
「お、キタキタ。待ってました!」
答えたのはフラウスさんだった。当のクロウさんははいよ、と軽く返事をするだけ。やっぱりさほど興味がないのかもしれない。
「一枚目に出ていますのは
「あ~、そうだな。そう言うのは確かに今はいいかな。なんかごめんな?つまんない結果で」
ちょっと申し訳なさげにクロウさんが答えた。
クロウさんはきっと本当に興味がないんだろう。フラウスさんとネロさん、それにギルドの方々への話題提供がメインなんだろう。
クロウさんは仲間の人たちが面白がっているのなら、興味がなくても話題を提供するのは苦にならないのかもしれない。
「二枚目のカードは
「あ、さっきので終わりじゃないんだ」
「三枚で見るって、コヒナさん最初に言った」
「そうだっけ?」
クロウさんさてはほんとに興味ないな。恋愛にも占いにも。お付き合いありがとうございます。そしてネロさんは割と興味津々ですね。今後とも是非ご贔屓に。
「
「あ~、当たってるわ。ほんとつまらなくてゴメンな?」
クロウさんはすまなそうにする。なんだか私にも責任があるような気がしてきてしまう。当たってるのにねえ。
「三枚目のカードは
「そうだな。仕事も忙しいし、ネオデも忙しいしなあ」
そこでネオデが出てくるんだ。
なるほどなあ。クロウさんにとって大事なのはネオデで遊ぶことと、一緒に遊ぶ仲間たちなのだろう。だから来たばかりの私に声を掛けてくれたのだし、一緒に楽しめるようにと気を使ってくれたのだ。
「むう、つまらん。だがネオデで忙しいなら仕方ない。許してやる」
ネロさんがうんうんと頷く。
「そうか、ありがとう。ってなんで上からなんだよ。気になるなら自分で見て貰えばいいだろ」
「クロウがやって怖くなさそうなら見て貰おうと思った。マスターはギルドの為に体を張るべき」
「なんでだよ!」
なんでだよ、とか言っておきながら実際にはやってしまうあたり、クロウさんの人徳がしのばれる。メンバーからも慕われているのだろう。
もし一番最初に会ったのがうちの師匠じゃなくてクロウさんたちだったなら、私もそっちに一緒にいたのかもしれない。そしてきっと、楽しくゲームをしていたのだろう。
要は出会い方とタイミングなのだ。タロットカードのアルカナのように。
「結果をまとめてみますと、ご本人はあまり恋愛に興味がない、と言う結果ですね~。でもクロウさんの周りにはクロウさんのことを気にしている人がいるかもです~」
おお、とネロさんとフラウスさんが異口同音に声を発した。
「え、そうなの?」
お、今度はクロウさんもちょっと気になるようだ。
「二枚目のカード、
「クロウ、罪な男」
ふう、とため息をつきながらネロさんが首を振る。
「いや、ねーよ。周りに女の子いないし。ガチで全然」
「女の子とは限らないかもですよ~?」
「マジかよそれなら心当たりあるわ、っていやいや」
「!!」
フラウスさんが頭の上にビックリマークのエフェクトを出す。
「恋愛に興味がないって、そういう!?」
「何処に反応してんだよ!」
クロウさんも中々ノリのいい人だ。
カードの暗示通りならば女の子なんだろうけど、そうとは限らない。心が乙女の可能性もあるからね。逆位置で出てるし。逆位置のクイーンは男の娘と解釈することもできるだろう。
「ギルドの中にいたりして」
さらなる可能性を提示してきたのはネロさんだった。
「いや、ギルドの中って。え、これゲームの中の話なの?」
ええ、どうだろう。私に聞かれても困るんだけど、そう言っても通じないよなあ。
「さあ~? どっちだと思いますか~?」
「いや、ネットゲームの中で恋愛ってあり得ないだろ。顔もわからないのに会ったこともない人に恋愛感情を抱くのはおかしい。それは本物じゃない。恋愛ごっこだ」
「堅いなあ。ごっこでもいいじゃん。ネオデのなかでも付き合ってる人いるよ。ゲームなんだし、この世界限定ってことで付き合ってみるのもありじゃない?」
フラウスさんはネット恋愛肯定派のようだ。しかも結構フランク。
「いや、それはダメだと思う。恋愛問題で壊れたギルドいっぱいあるし」
「まあ、それはたしかに」
ネロさんがうんうんと頷く。
ギルドに入って早々に衝撃的な場面に出会ってしまったのでつい忘れがちだけど、クロウさんの考え方の方が一般的なのかもしれない。
「俺はそう言うのはダメだな。ネットゲームはそう言うの気にしないで遊べるところがいいんだ」
クロウさんの返事に、フラウスさんはまた「堅いねえ」と返した。
どうなんだろうなあ。クロウさんの言ってることは正しいと思うけど、全面的な賛成もしかねる。だってねえ。
「まあ、占いですので、当たっているとは限りませんし、参考程度に思っていただければ~」
「それ占い師が言っちゃっていいの!?」
「占いは外れることもあるからいいんですよ~」
「なるほど……。って、なんか上手くごまかされた気もするなあ」
む、クロウさん鋭い。
私は当たってるんじゃないかって気がするけどね。
例えばクロウさんの恋愛を見て欲しいと提案したネロさん。ネット恋愛にフランクな考え方を持つフラウスさん。あるいは三人の共通の知り合いの誰か。
そうじゃないのかもしれない。全然関係ない誰かかもしれない。あるいはそんな人はいなくて、ただクロウさんが恋愛に興味がないことを示しているだけかもしれない。
私たちはアバターを通じて会話している。アバターは私たちが自ら選択しない限り表情を変えたりしない。
いま、誰がどんなことを感じて本当はどんな表情をしているのか。それは結局わからないのだ。
「面白かったよ。ありがとう。また寄らせて貰うね」
「はい~、ぜひまたお越し下さい~」
恋愛ごっこか。ごっこ遊びならそれはそれで楽しいのかもしれないけれど、何かの拍子にどちらか本気になってしまうかもしれない。
それは落としどころのない苦しい恋の始まりだ。
相手にも中身の人間がいるのだ。ゲームの世界ではあるけれど、恋愛シュミレーションゲームとは違う。
難しいな。
でもこれはネットゲームの中で占い師をやろうとしたら、避けては通れない問題かもしれないぞ。
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