第100話 真実は一つ? ①

 一人の時には占い屋さんをしながら師匠が来るのを待つのが日課になっていた。大分強くなったし一人で冒険に行くこともできるんだけど、でも占い屋さんもやっていて楽しいのだ。悩ましいね。


 師匠は知らない人にも平気で声を掛けるので知り合いが多い。ダンジョンの中で他のパーティーと出会っても獲物の取り合いとかにはならないでいつの間にか一緒に盛り上がってたりするのは感心する。私一人ではこうはいかない。


 実は隠れ人見知りである私は知らない人に自分から声を掛けたりはできない。一度お話したことがあると平気なんだけど。でも占い屋さんをやってると向こうから声を掛けて貰えるしそれが縁で知り合いが増えたりもする。


 冒険も楽しいけれど、占い屋さんをしたりチャットで世間話をしたりも楽しいものだ。



「あれ、コヒナさん? コレ何やってるの?」



 声を掛けてくれたのはクロウさんと言う方だった。フラウスさんとネロさんも一緒だ。クロウさんは男の人でフラウスさんとネロさんは女の人。三人ともクロウさんがマスターを務めるギルド「黒翼」に所属している。


 この人たちは私がこの世界に来たばかりの時にとてもお世話になった方々なのだけど、私のわがままで申し訳ない形でお別れしたという過去がある。


 その後、お互い拠点の町がマディアなので度々出会うこともあり、ちょっと気まずく思っていた。町に顔を出すのをためらっていた時期もあったのだ。


 思い切って師匠に相談した所、



「無理に合わせる必要もないけど、楽しい人と思ってもらった方が得だね。今度声かけてみようか。なんて人?」



 とずいぶん簡単に返された。



「クロウさんと言う方です」


「あー、見たことあるな。カラスとかいうギルドの人だよね?」


「黒翼です」


「そうそうそのギルド」



 師匠、雰囲気で覚えてるんだな。流石私の師匠だ。



「でも、こっちから声かけたりして嫌がられないでしょうか?」


「だいじょぶだいじょぶ。ネオデで一緒に遊ぼうって言って断られることなんかないから。案外向こうも同じように思ってるんじゃない?」



 師匠はその日のうちに、マディアの町でクロウさんを見つけて声を掛けてくれた。



「すいませーん。うちの新人なんですが、前に皆さんにお世話になったみたいで改めてお礼が言いたいと言ってましてー」



 師匠、コミュニケ―ションお化けだな。おかげで改めて非礼をお詫びすることが出来た。


 そうしたら向こうからもあの時は強引に連れまわして済まなかったと言って貰えた。一方的に私が悪いのに恐縮してしまった。


 でもそれからは町では気軽に挨拶できるようになったし、大分強くなった今ではギルドの人たちや猫さんがいないときに時々一緒に遊んで貰っているし、他の<黒翼>のメンバーにもお世話になっている。



「クロウさんこんにちは~。今日は占い屋さんをしているのです~」


「占い屋? ずいぶん変わったことしてるんだね。で、そのしゃべり方は何?」


「これは占いの為のキャラづくりです~」


「な、なるほど、徹底してるね」



 クロウさんはちょっと引き気味だ。うちではキャラづくり必須って感じだったのにな。しゃべり方とかみんな本気で考えてくれたし、誰も疑問を挟まなかった。やっぱりうちのギルド変なのかなあ。



「んじゃ、また暇な時には声かけて。占い頑張ってね」


「はい~。ありがとうございます~」



 クロウさんはそう言って立ち去ろうとしたのだけど、



「クロウ、折角だし見て貰ったらいい」



 一緒にいたネロさんと言う女性の魔術師の方がそう言った。



「ええ、占いだよ? ん~、んじゃまあ、折角だから見て貰ってくか」


「ありがとうございます~。何を見ましょうか~?」


「恋愛運で」



 答えたのはまたもネロさんだった。



「なんでだよ。多分なんも出ないぞ? あんまり興味もないし」


「まあまあ、こういうのはお約束だよ。見て貰ったら?」



 もう一人の連れのフラウスさん、こちらは女騎士さんだ。フラウスさんにもそう言われて、やれやれとクロウさんは折れた。



「んじゃ、話のタネにということで。恋愛運で」



「はーい、かしこまりました! では三枚のカードを使ってみていきますね~。少々お待ちください~」



 恋愛相談は占っている方も楽しいので大歓迎だ。



 一枚目


 <貨幣>ペンタクルの4 正位置。


 あれっ? 恋愛運なのに、1枚目に<貨幣>ペンタクルの4?


 <貨幣>ペンタクルの4には大事そうに両腕で<貨幣>ペンタクルを抱えこむ人物が描かれている。腕だけじゃなくて足の下にも<貨幣>ペンタクルをしっかりと抑え込んでいる。満足や安定を表すカードなのだけど。



「クロウさん、今恋人います? それかご結婚されてたり~」


「え、そうなの?」


「む。まあいても不思議はないか」



 フラウスさんとネロさんがそれぞれ感想を言う。



「いや、いないししてないけど」



 でも当のクロウさんから出たのは否定だった。



「そうなのですね~。少々お待ちくださいね~」



 ううん? だってこのカード……。


 いや、まずは三枚とも開いてからだな。



 二枚目 <聖杯>カップのクイーン 逆位置。


 <聖杯>カップは心。クイーンは女性。カップのクイーンは心豊かな優しい女性を示している。転じて愛情、感情の高まりを示すカードだ。でも今回は逆位置で出ているので、心が動かない、想いが通じないと言った解釈になる。



 三枚目、<貨幣>ペンタクルの2 正位置


 二枚の貨幣をもてあそぶ若者が描かれたカード。陽気、楽しみ、遊び感覚を示すカードで、恋愛運では通常は陽気で楽しいことが多い恋愛等を示す。


 一枚目には過去の経験や物事の原因などを示すカードが来る。恋愛運を見て欲しいと言った時に、一枚目に<貨幣>ペンタクルの4が正位置で来るのはおかしい。


 <貨幣>ペンタクルの4は今あるものが大事でそれを手に満足していることを示すカード。一枚目にこのカードが来る人が「恋愛運を見て欲しい」なんて言うだろうか? 相性占いならわかるんだけど。


 占いの前、クロウさんが言っていたことを思い出す。「多分なにも出ない。 あまり興味もない」これはもしかすると照れ隠しではなく本心なのではないだろうか。


 クロウさんにはもっと他に大事にしていることがあって、恋愛よりもそっちが楽しい。


 そう考えてみると、他の二枚も解きやすくなる気がする。


 改めてカードを眺めてみる。。



 三枚のカードが示すのは、どんなストーリーだろう?

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