第85話 前夜祭 2
クリスマスのコスプレ衣装を作成するのには、ハロウィンよりも数段手間がかかる。
というのも、ネオデではお洋服は染物屋さんで染料を買ってくれば自由に染められるのだけど、普通じゃない色が何種類かあるのだ。道具屋さんの染料に比べてツーランクくらい鮮やかな赤とか、グレーっぽくない漆黒、輝くような真っ白、さらには金色、銀色。
これらの色の染料は<クリーピーダイ>、通称<ダイ>というプラント型のモンスターが持っている。
ダイというのは染料の事なので、クリーピーダイは這い回る染料とか気味悪い染料みたいな意味だと思うんだけど、なんとも人間目線のネーミングだ。でも動物の名前ってリアルでもそういうとこあるよね。
クリーピーダイは落とす染料の色をした花を付けているのだけど、何色のダイが沸くかはランダムなので赤が欲しいと言うときには赤が出るまで延々とダイを狩り続けるのだ。
そしてこの赤をクリスマスには大量に消費するのである。
師匠どや顔で曰く「まさに
多分去年とかに思いついていつか言ってやろうと楽しみにしてたんだろう。でもこれって伏字にしないといけないのかなあ。
道具屋さんの染料でも少々発色は悪いものの赤く染めることはできる。コスプレ衣装なんだしそれで十分じゃないかと思うのだが師匠的にはクリスマスの赤はこれじゃない、と言うことになる。
まあ変なこだわりは師匠の師匠たる所以なので仕方がない。
そんなわけで師匠はこのところマディアの湿地帯でダイ集めをしているのだ。
植物モンスターのいっぱいいるダンジョン<モグイ>まで行けば効率のいいクリーピーダイの沸きポイントがあるんだけど、他の強力なモンスターも流れてくるモグイで狩りをするのは師匠には無理だ。なので広い湿地帯をロッシー君に乗りながら走り回ってダイを狩って歩くことになる。
しかし湿地帯とは言え沼スライムを殺さないファイアーボールを放つ師匠が一人でどうやって狩りをするのか。
実は師匠の連れているジャイアントナントカコントカのロッシー君はかなり強いのだ。魔法には弱いらしいけど、攻撃力だけなら今の私と同じくらい。
ロッシー君の足すっごいもんね。ダイやゴブリン程度なら何体いても文字通り蹴散らしてしまう。
私が初めて師匠に会った時、ロッシー君を連れて来た師匠が心配していたのはマスターである師匠やサブマスター登録された私にゴブリンの矢が当たり、怒ったロッシー君がゴブリン達を皆殺しにしてしまうことだったのだという。
師匠の攻撃力が弱いのは結局本当だったけど、あの時点でゴブリンを倒すことは容易だったのだ。
じゃあなんでしなかったのか、何が悪いのかと言うと、なんか恥ずかしいとかそんな感じだそうだ。そういうのは俺のキャラじゃないしもにょもにょもにょ。
RPGゲームでゴブリン退治が「なんか恥ずかしい」ってどういうことだと思うけど、師匠はNPCになりたいと変人なのでしかたない。
もともと指輪を全部外せばゴブリンやクリーピーダイは余裕なんだけど、それは言わない約束だ。
でもクリーピーダイ狩りでロッシー君使うのはありなんだよね。同じじゃないんですか、と聞いたけど師匠的には全然違うとのことだ。何が違うんだろうね。
まあ師匠のような変人の考えてることを私のような一般人が理解できるわけはない。
こうして十二月の師匠は染料集めのために走り回っているのだけど。
何を隠そう、染料集めなら今や中級戦士である私はお手伝いとして大変役に立つのである。
師匠は気にしないで好きなことやってていいんだよ等と言っていたけど、貯まりに貯まった日頃の借りを返す大チャンスを逃す手はない。
それに師匠はリアル幸運値が低いと言うか残念と言うか面白い人なので、何故かダイの中でもレアリティーの高いはずの金だの銀だのばかりを引き当ててきて、肝心の赤がなかなか出ないのだ。私のリアル幸運値は高いのでこの辺りもポイントが高いと思う。
尚十二月にはクリスマス当日とは別に、二十二日に<ナゴミ屋>&<わくわく動物園>の合同クリスマス会がある。
クリスマス当日はご家庭もある人もいるし、リアル事情もあるし。若いお二人は若いお二人で忙しいのでギルドでの活動はない。そこでみんなが集まれる日ということで二十二日が<なごみ屋>と<わくわく動物園>の合同クリスマスの日として決まったのだ。
ワクワク動物園は猫さんの所属するギルドだ。でも現在活動しているメンバーは猫さんだけなのだそうだ。
猫さんはほぼ<なごみ家>のメンバーだけど、でもシステム上の正式なメンバーではない。
「オレが抜けると動物園が無くなるからにゃあ」
猫さんは<わくわく動物園>のメンバーが返ってきた時の為にギルドを守っているのだそうだ。長いネオデ生活の中で、師匠たちと同じように猫さんにも色々なことがあったんだろう。私もネオデを続けて半年になる。その感覚もわかるようになってきた気がする。
私のお仕事も最近はやっぱり忙しい。疲れて帰ってくるのは誰もいない部屋。でも。
パソコンを付けてログインして、ギルドチャットに話しかける。
「ただいまーです」
「お、コヒナさんおかえりー」
「おかえり」の数は日によってまちまち。みんな忙しいのだ。その理由は様々。リアルの用事だったり、強敵と戦っていて手が離せないからだったり。
「ただいまー」
「おかえりなさいー」
ただいまの数も日によってまちまち。こちらもお返事が返せるとは限らない。なにせ悪魔や竜といったモンスターたちがわんさかといる世界なのだ。
「お、今日は割と人数そろったね。猫さんもいるみたいだし、どこか行こうか」
「はい!」
こうして十二月は、ネオオデッセイの世界でも慌ただしく過ぎていく。
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