第83話 ただいま 2
仕方なくお部屋にこもることにする。
ほんとにパソコン持ってくるんだったなあ。これじゃあお部屋にある読み古しの漫画や小説読むくらいしかすることがない。
明日もこの調子だと大変なので日中は出かけることにしよう。
SNSで連絡を取った所数人の友達と会う約束がとれた。とりあえずこれで安心。
さて今日はどうしよう。暇だ。
そう言えばさっきの話。
お兄ちゃん達に聞いて見たのはいいけれど、あまり参考にならなかったな。言い方とかシチュエーションは違うようにも聞こえるけど、割と似たようなことを言ってる気もする。
ふと特定の誰かの顔が浮かぶ、か。なんか羨ましい。そういうのしてみたい。
私が最近何かしてる時に考えていることと言えばネオデのスキル構成とか、モンスターの攻略法だ。師匠やギルドの方々に頼ってるばかりではいけないと自分での勉強は欠かさないし、いけないとは思いつつお仕事中でもふと浮かんで来たりする。
でもネット情報だと肝心なことが分からなかったりするんだよね。結局後で師匠に聞くことになる。
とはいえ何が分からないかをはっきりさせておくのは大事なことだ。携帯端末は持ってきていることだし、ネオデの勉強でもすることにしようか。わからないことは部屋に帰ったら師匠にまとめて聞くことにしよう。
あれ、なんか別の事考えてた気もするんだけど。ま、いっか。
お盆休みは最終日の前日に帰ることになっている。師匠はお仕事だって言ってたけど夜にはいつも通りログインしてくるはずだ。
師匠は私と同じく一人暮らしをしているけれど、お盆も一人で過ごすのだそうだ。お仕事の関係でお盆は休みが捕りづらいらしい。
大変ですねえと言ったけど、ネットゲームやるには他の人と休みが被らない方が競争率が低くていいとかなんとか言っていた。師匠と競争する人っているんだろうか。羊さんの毛争奪戦とかかな。
ふふふ。
ギルドの方や猫さんと一緒に遊んでるのかもしれないなあ。今日はどこで何と戦っているんだろう。
あー、ほんと、パソコン持ってくるんだったなあ。
翌日は地元の友達と久しぶりに会っておしゃべりをした。
みんなそれぞれ頑張っているらしい。外に出た自分だけが大変なわけではないんだと改めて知った。
夜にはまたネオデのお勉強。
更に翌日の朝には実家からお部屋に向けて出発だ。
何もしなかったな。次帰ってきた時は親孝行っぽいこともしよう。
行ってきます、行ってらっしゃいと言われて実家を出たけれど、長旅を終えて一人暮らしのお部屋に着くと、帰って来たんだなと思った。
ただいま。
口には出さない。出しても仕方ないからね。頭の中で思うだけだ。
でも実家に住んでいた時は学校から帰ってきて誰もいないのわかってても「ただいま」って言ってたんだよな。この差は何なんだろう。
そんなことを考えるとなんとなくさみしい気持ちになる。勝手に出て来たくせにね。
一人しかいない家の中でパソコンを立ち上げて、ネオデにログインしてみる。
師匠の家の中にある私の部屋。
扉を開けると師匠がいた。声を掛けようとして一瞬躊躇する。
師匠が
「なんでやねん! なんでやねん!」
と言いながら何もないところをびしびしと
なんでやねんはこっちのセリフだ。
「師匠、それ何してるんですか」
「いや、一番つっこみに見える動作はどれかなあって思って。動きは横薙ぎが一番良いんだけど剣持たないとだからなあ」
そう言って師匠は
つっこみに見えなくもない。
「素手だとどうにもいい動作がなくてねえ」
今度は正拳突きだ。これはつっこみではない。正拳突きだ。
師匠、魔法使いなのにね。横薙ぎや正拳突き習得するのだってそこそこポイント降らなくてはいけない。ほんと何してるんだ。
「やっぱり雷の魔法が一番か……」
うーむ、と師匠は腕を組む。
ネオデは古いゲームなのでキャラクターのできるモーションが少ない。戦闘用のものを除けばお辞儀とか腕を組むとか手を振るとか。師匠はこの数少ない動きをいろいろと駆使してくる。時々うざい。
変な決めポーズとかね。
漫画かアニメの決めポーズだと思っていたけどあれはボナさんへの祈りのポーズらしい。ボナさん変なポーズ好きなんだな。師匠と気が合いそうだよ。
「コヒナさん久しぶりだね。おかえり」
師匠はそう言うとぶんぶんと手を振って見せた。
「はい! ただいまです!」
私もぶんぶんと手を振ってそれに答える。久しぶりと言ってもログインしなかったのは三日間だけ。でもなぜだか随分久しぶりに感じる。
「さて、今日は何をしようかね」
師匠が言った。そうですね、何をしましょうか。
師匠とやってみたいこと、師匠に聞きたいことが沢山溜まっているのだ。
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