第81話 NPC 2
「神様が動かしてるプレイヤーってのは俺達とは別にちゃんといてさ。俺達はNPCなんだよ」
……。
私たちはこの世界のNPC。
それは私がさっき考えたことと、似ているようで全く逆のことだ。私たちが生きるこの世界は神様が楽しむためのもので、私たちの為に作られたものではない。
……だから、私たちは。
わかる気がした。凄くわかる気がして、何だか少し怖いような気持になった。
「あ~、また変なこと言っちゃったなあ。忘れて忘れて」
私が黙ってしまったのを師匠は何か勘違いしたみたいだ。
「それが師匠がネオデでNPCをしてる理由なんですか?」
師匠はまたううん、とうなってから答えてくれた。
「理由って言うとおかしいけどね。さっきの例で言うと、リアルでNPCをやりすぎてここでもNPCになっちゃう感じ? NPCの店員さんとか、めっちゃ親近感沸く」
師匠はまた冗談めかして言ったけれど、私はいつも同じ道を通って通勤する自分と、いつも同じところにいるNPCの店員さんを重ねてしまってちょっとだけ心がざりっとなった。
「自分でも変な考え方だとは思うよ。ネオデでは間違いなく
そう言われてみると、<なごみ屋>のメンバーはみんな変人だけれど、すごく主人公してるのかもしれない。
「俺、主人公の隣にいる重要な脇役に憧れてるんだよね。NPCから脇役に昇格するの。主人公の所に『て~へんだ~! て~へんだ~!』って物語のきっかけを持ってくるみたいな。リアルだと脇役にもなれないからさ」
師匠の変な行動の意味が分かったような気がした。
「師匠はネオデが大好きなんですね」
ネオデは私や他の人にとっては主人公になれる場所。でもこの人にとっては、主人公の近くにいられる場所。
「うん、まあね。俺くらいこの世界を楽しんでるやつはそうはいないと思うよ」
自分のことをNPCだなんていう人は、そう言って誇らしげに胸を張って見せた。
「コヒナさんはこの世界が楽しいかい」
「はい! もちろんです! 師匠のお陰です!」
「うん、それ、嬉しくなっちゃうからほどほどにしといて。調子に乗ってしまう」
きっと本当に嬉しいんだろうな。
「皆さんそうなんじゃないですか? 猫さんも、<なごみ屋>の方々も師匠のこと大好きじゃないですか」
「やめてやめて。駄目駄目。喜んじゃうから ////」
師匠はまたマイブームらしいへんな顔文字? を出して伸ばした手をぶんぶんと振って見せる。芸が細かい。
「みんな自分の世界を持ってる人たちだからね。俺に付き合ってくれてるだけさ」
「そんなこともないと思いますけど」
自分の世界を持ってる人たちが師匠に付き合うのは、師匠がその人の世界を大事にするからだろう。
「今日のショウスケさんとブンプクさんの事だって、師匠がこのギルド作ったからこそじゃないですか。二人ので会うきっかけを作ったのは師匠ってことでしょう?」
「いや、俺がギルド作ったってわけじゃないからね。ギルドできた時とりあえずリーダー、ナゴミヤでいいか~ってなっただけで。今日の事ならコヒナさんのほうがよっぽど凄いでしょ。大当たりだったもんね。俺もうどうなるのかってドキドキもんだったよ」
師匠は自分だけショウスケさんの気持ち知ってたんだもんね。そう言えば占いの間師匠全然しゃべんなかったっけ。
当たったのは嬉しいけど。でもなあ。
師匠のしたことと比べることはできないと思う。
「あれは占いですからね。私が何かしたというわけではないですから」
「ん? どういうこと?」
「占いですから、してもしなくても変わんないですよ」
「だって現にコヒナさんの占いがあったから二人の仲が進んだわけじゃない?」
「違いますよ。占いなんかしなくったってこうなりましたよ。偶々そのタイミングで占っただけです。後押し程度にはなったかもしれませんけど、いずれ占いなんかしなくたってお二人は結ばれたはずです」
だって占いだもの。
皆ほんとうは気が付いていることを言葉にしただけ。
だから占いをしてみると、皆口をそろえて言うのだ。
「すごい、当たってる!」って。
気づいてないなら 誰も「当たってる」なんて言うはずない。
「そうかなあ。俺としてはちょっと怖いくらいだったんだけどなあ。当たったのもそうだけど、コヒナさんが占うの見てたらなんか運命の分かれ道に立ち会ってる感じしたもん」
これはさっきの逆襲なんだろうか。照れてなどやるものか。絶対 //// なんて打たない。
「凄いと言われるのは嬉しいのでどんどん誉めて下さい。でも二人が会ったこの場所を作った師匠の方がやっぱりすごいですよ」
「そうかな。それは……。嬉しい……かな。ちょっと怖い気もするけど。幸せになって欲しいね」
「こんなお話ってホントにあるんですね。ネットゲームで知り合ってそこから恋が始まるとか、凄い話じゃないですか?」
「まあ、今回は確かにね。二人は付き合いも長いし。でも犯罪もあるからね。良く知らない人を簡単に信じてはいけないよ」
「やっぱりあるんですか? よくニュースでは聞きますが」
「うん。いや冗談抜きにね。ネットゲームで知りあった人にお金貸してその後音信不通って話、経験者から直に聞いたこともあるからね。コヒナさん、変な人に騙されないでよ」
また師匠の過保護癖が出た。師匠は私を一体何だと思ってるんだ。
「大丈夫ですよ。それとも私が簡単に騙されそうに見えるんですか」
「…………」
「なんか言って下さいよ!」
失礼な。こう見えて自立して一人暮らししてる大人の女なんですよ。ほやほやですけど。
「ネットだから危ないってもんでもないんだろうけどね」
さらっと話そらしたな師匠。
「良く知らない人を簡単に信じちゃいけない、だね。リアルでもネットでも変わらないか」
なるほど。それはその通りだ。
ネットで知り合った人を信じて犯罪に巻き込まれた人だって、相手のことを良く知らないとは思ってなかったんだろうし、リアルの古くからの友人に騙されて借金を背負わされたなんて話もよく聞く。
でもブンプクさんの家にアレが出た時にはブンプクさんは来てくれるって言うショウスケさんのことを信用した。緊急事態とはいえなかなか勇気のいる決断だろう。結果的には大正解だったわけだけど。
良く知らない人と良く知ってる人の差ってなんだろうな。
リアルで知ってる人でも会社の人をおうちに入れるのは抵抗がある。というか無理だ。二か月位の付き合いはあると言っても良く知ってるとは言えない。
逆にネットの知り合い。一か月位の付き合いになる師匠だったらどうだろう。
私が師匠のことを良く知っているのかどうか、それはわかんないけど。
でもなんとなく師匠なら平気な気がするな。今日は少し師匠の事知れたような気もするし。
「師匠師匠、師匠はうちにアレが出たら助けに来てくれますか?」
試しに聞いてみたら師匠は右手を斜め上、左手を斜め下にして膝を付く変なポーズを決めながらびしっと答えた。
「絶対に嫌だ!」
ひどい。
断るにしても何かもっともらしい理由をつけるべきじゃないだろうか。私が傷ついたらどうするんだ。
というかそのポーズもなんなんだ。師匠のことだから漫画か何かの決めポーズなんだろうけど。
「そこは行くよ、って言って下さいよ。私取って食ったりしませんよ?」
「いや、そう言うんじゃなくて……って何、取って食うって!?」
もののはずみです。深い意味はないので流してください。
「じゃあなんで来てくれないんですか!」
「だって……。俺、ゴキブリ怖いもん」
……。
師匠は変なポーズのまま情けないことを言った。
そっかー、怖いかー。
それなら仕方ないな。
「師匠師匠、もし師匠のおうちにアレが出たら呼んで下さい。助けに行ってあげます」
「うん、ありがとう。助かる」
師匠は変なポーズのままぺこっと頭を下げた。
何か釈然としないが物はあるが、とりあえず信用はされているようだった。
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