第8話 女子と遊ぼう
ショッピングモールに入った佑月たちは、心春を除いた三人で行動することになった。
心春もたまに会話に入りはするが、基本は後ろから見守っているだけで、紗月と綾音に挟まれて心春の元に逃げることもできないので微妙に気まずい。
「……二人はどこか行きたいとこ、ある?」
「私はどこでも」
「じゃあゲーセン行きたい!」
「お、いいねぇ。ゲーセン行くなら新しいぬいぐるみとフィギュアを——」
「ぬいぐるみ取るのはいいけど、私の部屋に侵食させないでよ?」
「うっ、善処します……」
女子になってから無駄にぬいぐるみを増やしたせいで、佑月が取ったものはいくつか心春の部屋にまで浸食していた。
昔はお気に入りのぬいぐるみをずっと持っているような子だったので、今の姿ならそれも似合うと、抑えていた欲が止まらなくなった結果だ。そのせいで、心春にはよく邪魔だと怒られるが。
だからと言って我慢することもなく、ゲームセンターについた佑月たちは、真っ先にクレーンゲームのコーナーに向かった。
直前に心春に怒られたにも関わらず、ぬいぐるみの――それも、大きいぬいぐるみが置かれた台の前に立つ。
後ろで心春がため息を付いて頭を抱えているが、気にせず五百円投入する。
「この辺――ぬあー、一瞬で落ちた! もう一回!」
あっさり失敗した佑月は、速攻で二回目を始める。その調子で、見事に一瞬で六回終わった。
基本なんでも卒なくこなす佑月だが、クレーンゲームはどうしても苦手だ。
「もう五百円!」
「お姉さん、大丈夫?」
「うん。お金はいっぱいあるから」
佑月は余裕を見せてまた五百円を投入してゲームを始めるが、一回目で大した距離を動かせず、二回目に至ってはむしろ出口から遠のいた。
「むり! いったん紗月ちゃんか綾音ちゃんにパスするわ」
「じゃあウチがやってあげるー!」
「おねがい……家族を増やして」
「ふふん、任せて~」
佑月は操作を紗月に任せて横にずれる。
自信ありげな表情で操作を変わった紗月は、手慣れた操作であっさり景品を取った。
「ほい、取れたよー」
「紗月ちゃんすごい! めっちゃうまいじゃん! ありがとう!」
佑月は取ってもらったサメのぬいぐるいを抱き締める。
「あっ――」
自分でも思う程に感情を表に出しすぎていて、咄嗟に感情を抑えたがもう遅かった。
見た目と行動でまさに年下の可愛い女の子な佑月を、紗月はぬいぐるみごと抱き締め、綾音は頭を撫でる。
「かわいいなぁ~!。よし、三個取ってあげよう! どれが欲しい?」
「えっ、じゃ、じゃあ、あれと、あれと……あとあれ」
佑月は急に抱き着かれて顔を赤くしながらも、勢いに押されてぱっと見で欲しいと思ったぬいぐるみを指さした。
紗月は嬉しそうに「任せて!」と言うと、店員を呼んで残った三回分を別の台に移してもらって、そこで一回で取ってまた写しう、次も――と続け、見事に佑月が欲しいと指さしたぬいぐるみを三つ取り切った。
「すげー! 紗月ちゃん、ありがとう!」
「お姉さん、心春ちゃんの部屋に侵食さしちゃダメだよー?」
「大丈夫! でも、これはリビングかな」
サメに加えてくま、残り二つはどちらもクッションにもなりそうなサイズのもので、袋に入れて持ち歩くのも大変だ。
そんなサイズのものを部屋に置くと流石に可愛くてももふもふでも邪魔になる。
「はぁ……。まあ、リビングもちょっと殺風景だしいいけど。ほら、それ持つよ」
「ん、ありがと」
佑月は心春に袋を預けると、いつの間にか別の台の前に行っていた紗月の元に駆け寄った。
「紗月ちゃん、またとるの?」
「うん。ウチの妹に頼まれてるし」
紗月はアームを動かしながら、佑月に説明した。
話していても相変わらず操作が的確で、紗月は少ない金額でどんどん景品を落としていく。
後から来た綾音も「紗月ちゃん、ほんと凄いよねー」と言いながら見ている。
「綾音ちゃんも何か取ってもらったことある?」
「うん。私はこの前クッション取ってもらったよ。あれも一回で取ってた」
「あーいうのは得意だから。フィギュアとかはあんま得意じゃないから何百円か掛かっちゃうけどねー」
佑月も綾音も、それでも凄いと紗月を褒め倒す。
このプレイを見ているとまた新しく取ってもらいたくなるが、心春に怒られそうなのでそこは流石に我慢しておく。
クレーンゲームで満足した佑月と紗月は、思い出したように「下着見に行っていいかな」と言った綾音について行くことになった。
佑月に下着を買うつもりはないが、男友達とは絶対しないようなことなので、こうして女子たちと買い物をするというのも新鮮だ。
ただ、流石にランジェリーショップに入ること自体気が引けるし、何より一緒に居るのは今日であったばかりの綾音と紗月。二人は佑月がいるからと気にしている様子はないが、佑月はまだ二人限定で会話できるようになっただけだ。
「あやちー、また大きくなったん?」
「そうなんだよねぇ。割とお金かかるから大変だよ」
「いいなぁ。ウチももっとおっきくなんないかなー」
綾音と紗月の会話に混ざれるはずもなく、佑月は心春の隣を歩く。
「心春、流石に外で待ってちゃダメか?」
「まあ、今は仕方ないか。あそこのソファー座ってて」
「ああ、そうする」
佑月は一人で店を出て、近くにあるソファーで待っていることにした。
今日は心春に言われて下着も可愛い物を着けているが、だからと言って下着選びに付き合わされるのは——それも、この中では一番胸が大きい綾音が選んでいるとなると、佑月には刺激が強すぎる。
しかし、男友達とショッピングをすることはもちろん、下着を選んだことなんてなかったので、綾音たちが少し羨ましい。
(女子かぁ……)
自分が全く知らない世界で楽しそうにしているのを見ていると、少しその世界に入ってみたくなる。女子が苦手な佑月には、そう思う以上のことはできないが。
佑月がソファーでうとうとしながら待っていると、綾音たちが戻って来た。
「佑月ちゃーん。お待たせ」
「……わっ、あ、綾音ちゃん……はぁ、寝てた……」
「ダメだよー、こんなところで寝ちゃ。危ないよ?」
佑月は目を擦りながらこくりと頷き、綾音に手を引いてもらって立ち上がった。
一度あくびをしてからぐっと背を伸ばす。
「ふあぁ~……んっ~~……フードコート行きたい」
「お姉ちゃん、寝起きの珈琲?」
「ううん。なんか、寝そうになりながらクレープ作る夢見て食べたくなって」
「それ聞いたらウチも食べたくなってきた」
「じゃあフードコート行こっか。せっかくだし、私も食べよっかなー」
流れでフードコートに行くことになり、佑月たちは「どれ食べよっかな~」と盛り上がりながら歩いた。初めは女子中学生相手に何を話せばいいかわからなかったが、一緒に行動していれば案外どうにかなるものだ。
どのクレープを食べるかという話から、心春と出かけた時の話になり、そこから心春の中学での話になり……そんな調子で、フードコートでクレープを食べて家に帰るまでずっと話が続いた。
今まで避け続けてきたが、一日一緒に居れば流石に恐怖も不安もなくなるものだ。。
男友達と居るときとはまた違った楽しさがあって、こうして女子たちと遊ぶのも悪くないとも思えた。
少なくとも、今後は綾音と紗月となら普通に接することができそうだ。
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