第四十三話 ゆるキャラの願い

 一個機甲連隊の編成費、30億$。

 階層攻略中の燃料弾薬費、20億$。

 階層攻略中の整備費用、15億$。

 30個フワッフ師団45万体の召還に必要な魔石購入費、1個250万$換算で112.5億$。

 新編30個フワッフ師団の武器弾薬費、180億$。

 締めて357.5億$、1$=100円で換算すると日本円にして3兆5750億円。

 

「別に全額一括で返済しろなんて無茶は言わないよ。

 ODA(Official Development Assistance:政府開発援助)である以上、利子に関しても配慮しよう」


 そもそもの目的が公女陣営の強化なのだ。

 首輪をつける為でもあるが、別に飼い殺ししようなんて思ってないし望んでもいない。

 公女の足を引っ張る気はないさ。


「だからと言ってこの額は無茶が過ぎますわ!

 特に下僕従者ブラウニーに関しては、グンマが召喚しろとおっしゃったのではなくて!?」


 ぶらうにー?


「ぶらうにー?」


「ああああぁぁぁぁぁ!!!

 貴方達がフワッフと呼んでいる毛玉ですわ!

 ちゃんと名前くらい覚えて下さいましっ!!」


 ああ、フワッフのことね!

 完全に忘れてた。

 そういえば下僕従者ブラウニーが正式名称だったな。

 俺も周りもフワッフとしか呼んでなかったよ……


「…… ごめん。

 だけど、召喚したフワッフは全て公女の麾下きかとなっている筈だ。

 だったら費用も全部そちら持ちだろう」


 ODAの8割以上を占めるフワッフ関連費について、確かに俺が召喚を命じたものの、それを受諾して、なおかつその成果物を総取りしているのは紛れもない公女自身だ。

 戦後の戦果配分では、フワッフによる撃破分も公女の戦果としてカウントしている以上、費用の全ては公女が支払うのが道理だろう。


「シャルと呼んでくださいまし!!

 グンマだって自分の作戦に利用していたではありませんこと!?

 散々利用したのに、借金だけ残して捨てるんですの!!?」


 やめろ!

 人聞きが悪すぎる!!

 俺は縋りついてきた公女を振り払う。


「暴れないでくださいまし!」


 振りはら―― えない!

 駄目だ、俺の筋力が公女の狂暴さに負けている!

 

「作戦は指揮したが、フワッフの所有権も命令権も成果も全部君が持っているじゃないか。

 指揮はしたけど、俺の手元には何も残ってない。

 流石にこれで俺が費用も負担するのは理不尽だろう」


 荒ぶるドリルに俺が冷静に返せば、不満そうに頬を膨らませるものの少し平静を取り戻す。


「だったら減額してくださいまし!

 グンマの作戦で新規に召喚した以上、ある程度の配慮は必要でなくて?」


 この女…… なんとしてでも俺から譲歩を引き出すつもりだな。

 まあ、気持ちは分からなくもない。

 なにせ自国のGDPの六割以上だ。

 今回で公女が手に入れた軍事力は、三大勢力以外の全勢力と比較しても圧倒できるほどの巨大なものだ。

 脆弱なフワッフと言えど、30個師団という戦力は中小国家程度ならば容易く蹂躙できる。

 さらに日本軍仕様の1個機甲連隊までついてくるのだから、第3層ダンジョンならば公女率いる自由独立国家共同戦線のみで攻略も可能だろう。


 その代償が3兆5750億円な訳だが……

 ちなみに日仏連合が、ダンジョン戦争を通して現時点までに消費した戦費の合計は3兆707億円。

 機械帝国第4層の攻略だけで、公女は三大勢力の一角である日仏連合を超える戦費を投じたのか……

 

 ハハッ、すげぇや!


 その内、フワッフに3兆円近くかかってるんだから、公女がフワッフに焦点を当てて減額交渉するのも無理はない。


「そんなものはない」


「酷いですわ!」


 実のところ、公女にODAとして有償供与した魔石で召喚させたフワッフ。

 俺は彼らを意図的に肉壁として運用していた。

 勿論、いたずらに消耗させるような下手は打たなかったものの、公女の言う通り、返済金額については多少の配慮は必要になる。


 公女は特化した能力がなく器用貧乏になりがちだ。

 彼女が三大勢力に匹敵する勢力を築くには、他では実現できないフワッフによる圧倒的物量の軍事力を背景にするしかないだろう。

 そこを俺が足を引っ張っていては意味がない。


 勢力化時に糾合する戦力としては、脱落したスウェーデンを含む北欧三国を中心に、親同盟派閥のオセアニア諸国5ヵ国、自由アジア諸国共同体4ヵ国、島嶼諸国連合8ヵ国、凡アルプス=ヒマラヤ共同体4ヵ国あたりが望ましい。

 ほとんどが中小国家とはいえ、完成の暁には公女の配下は34ヵ国54名になるだろう。

 ダンジョン戦争後世界大戦において、同盟と連合を牽制でき、尚且つ軍事力を蓄積した日仏が一部を簡単に摘まみ食いできる都合の良い勢力となる。


 公女には劣るものの、もう一人の指導者格として期待しているイロコイ連邦のタタンカ君。

 彼には自身の新興独立国家協定4ヵ国とアフリカ連合36ヵ国、ラテンアメリカ統合連合8ヵ国の計48ヵ国65名を率いて貰いたいものだ。

 

 それとあと一人…… 俺には期待のニューフェイスがいる。

 そいつが上手いことフィーバーしてくれれば、人類同盟の戦略的優位を崩壊させ、日仏の孤立も軽減されるだろう。

 国際連合はアレクセイの統制が固すぎて付け入る隙が殆どないけど、人類同盟は割と簡単に浸透できる。

 顔面凶器の戦略眼は驚異だが、あいつは遠くを見過ぎて足元がお留守だからな!

 

 みんなバラバラになっちゃえ!

 ふふふ、日本の夢が広がリング!

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