第二十七話 安全確認ヨシ!

「—— バカヤロー!重機作業中ふ!は近寄んな!

ふわふわっふ!安全確認ヨシ!

おい、お前! 揚重中はぁぁ!もっと離れろ!


 何棟かは生き残っているものの、多くの地上建造物が瓦礫と化した旧機械帝国前線基地。

 既に太陽は地平線にその姿を半分ほど隠しており、辺り一面が夕焼けで赤く染まっていた。

 昼頃から始まった敵前線基地ヘの攻勢は、終始俺達の優勢で進み、1時間ほど前に一旦の攻勢終了を宣言したばかり。


こんな量の瓦礫を撤去なんて当分ぅぅ!終わんねぇぞ!

弊社なら年内わっ施行も可能です

ふわバカヤロー!そんな短工期無茶だ!ふわ死人出るぞっふ!ふざけんな!


 俺は瓦礫の山から資源である魔石を掘り起こすべく、公女に追加のODAを出資して下僕妖精ブラウニーを3万体ほど追加召喚させて瓦礫の撤去工事を開始した。

 全身を茶色の体毛で覆われた身長120cmくらいの下僕従者ブラウニー達は、ふわっふと叫びながらも重機を操り撤去作業を進めていく。

 高嶺嬢も作業に参加して貰っており、遠くの方で巨大な瓦礫を次々にポイポイッと機械帝国の陣地に向けて放り投げていた。

 明らかに彼女の体重の1000倍は超えていそうな鉄塊やコンクリート塊が、まるで壁打ち卓球のように十数km離れた場所へぽんぽこ投射されていく様は壮観の一言である。


ふわなんだふわぁあの化物!?

ふわっふ!かわいいよね!

ふわおい!口よりも手をふ!動かせや!


 一日二日では到底終わらないと思われていた撤去工事も、あのペースなら一晩で片付きそうだ。

 まあ、流石に今夜は高嶺嬢に作業から外れて貰わなければならないのだが……

 なにせ今日は——


「—— 誕生日なのだから……!」


 教えてくれた副総理に心からの感謝!

 白影は料理要員として一足先に根拠地に戻って貰った。

 従者ロボも12体動員して装飾等の準備をして貰っている。

 プレゼントは昨日のミッション報酬で久しぶりに出てきた32式普通科装甲服3型が入った木箱に同封されていた。

 中身は分からないけど無難な感じの何かだろう!


 ヨシッ!


 俺は自分の完璧な段取りに震えた。

 

「只今戻りました。

 トモメ・コウズケ、妾は少しMPを使い過ぎましたわ……」


 シャルロット公女が覚束おぼつかない足取りで、司令部となっている大型コンテナに戻ってきた。

 公女は、先程まで延々とクソ長い詠唱を唱えてふわっふを召喚し続けていたのだ。

 一回の詠唱で100体のふわっふを召喚できる代わりに魔石1個とMP1を消費するからなぁ。

 MP回復の為に休憩を挟みながら召喚していたとはいえ、大分MPを消耗してしまったようだ。


「今日はもう限界ですわ……」


 MPの消費は精神を消耗させる傾向にある。

 公女も多分に漏れず、すっかり精神的に疲れ果てていた。

 適当な椅子に座りこむと、焦点の合っていない碧眼で虚空を見つめ始める。


「ご苦労様です、殿下」


 俺は公女を労いながら、彼女の前にインスタントコーヒーを置いた。

 俺特製のカフェイン増し増しブレンド。

 ちなみにこの後の誕生日パーティに彼女は強制参加である。


「ぅう、感謝いたしますわ」


 そう言って公女はコーヒーが入った紙コップを手に取ると、人心地つくようにホッと息を吐きながら口をつけた。

 よし、これで彼女は深夜までおめめギンギンだ!

 

 誕生日会の出席者は俺達チーム日本以外だと公女くらいだ。

 本当はかつて俺の指揮下にいた第三世界諸国や親日国の探索者、アレクセイとエデルトルートくらいは招待しようかと思ったのだが、今は他のダンジョン攻略中だし止めておいた。

 こんな所で借りを作るのも面白くないし、高嶺嬢にとってもあまり親しくはしていない面々だ。


 従者ロボもいるから少人数ってわけでもないし、身内だけで行うのも悪くない。

 公女は期待の第4勢力だけど、白影の親戚だし、ある程度手綱を握るためにも、多少はこちら側から歩み寄るのも良いだろう。

 白影のはとこだしね。


「あれ、なんだか頭がぎゅるぎゅるしてきますわ」


 おっと、どうやら特製ブレンドが効いてきたようだ。


「カフェインは疲労回復効果もありますからね

 そのせいですね」


「んー? なにか違うような…… でも、言われてみると心も体も軽くなった気がします」


 おそらく気のせいだろう。

 元々肉体疲労は大して無いのだから体は軽いに決まっている。

 心の調子は…… 俺の『精神分析』が発動してるからか。

 今夜の誕生日会の為にも思う存分セラピーして欲しい。


「それなら用意した甲斐がありました。

 ああ、そうそう、今夜の予定は空けてありますよね?」


 俺が一応確認すると、公女は端正なその顔に一瞬だけ複雑な色を浮かべる。


「え、ええ、勿論ですわ……」


 何かが引っかかるけど、もはや決行まで時間がない。

 人、モノ、場所が揃っているのだし、多少の不備は何とかなるだろう。


 俺は公女に感じた不安を無理やり無視し、高嶺嬢を呼び寄せるために無線を繋ぐのだった。




「………… そういえば、アル姉様の誕生日は……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る