第二十話 内閣総理大臣からのクレーム

『カ、カンガ、ルゥ…!』

『カ、カ、カンガ、ルゥゥ……!!』

『カ、カ、カ、カンガ、ルゥゥゥ……!!!』


 数派にわたる爆撃と継続的に降り注ぐ重砲弾により、2000t近い鉄量が投射されたにもかかわらず、カンガルー三連星は未だ戦場に立っていた。

 ゴワゴワした体毛は重度の火傷により焼けただれ、至る所で肉がめくれあがってその奥の骨が覗いている。

 正に満身創痍という言葉が体現しているものの、対峙する日仏連合の攻撃は激しさを増していく。


「第5、第6戦車大隊、攻撃開始」


 指揮官による号令一下、カンガルー三連星の側面に展開していた72両の35式無人多脚戦車から120mm成形炸薬砲弾が一斉に放たれる。

 一点を集中的に狙った水平射撃は大型魔獣の分厚い筋肉の鎧を突き破り、贓物ぞうぶつをグチャグチャにき回した。


『カンガルゥ… ブホゥア!?』


 あまりの激痛にカンガルーは吐血しながらもんどり打って倒れる。

 ゼヒューゼヒューと血泡を吹きながら荒い呼吸を繰り返すカンガルー。

 その背後から、漆黒のNINJAが轟音を撒き散らしながら忍びよる。


「カトンジツ!」


 膨大な熱量が込められ白熱した熱線が、倒れ伏したカンガルーの背後、黒く盛り上がった肛門へと吸い込まれていった。







『特典 を獲得しました

 上野群馬 は スキルポイント 30 を獲得しました

 上野群馬 は ステータス が 向上 しました


 特典 を獲得しました 貢献度 に応じた 特典 が 割り振られます

 上野群馬 に 日本国陸軍 の 貢献度 が移譲されました

 上野群馬 に 日本国空軍 の 貢献度 が移譲されました

 上野群馬 に 美少女 美少年 の 貢献度 が移譲されました


 上野群馬 は スキルポイント 100 を獲得しました

 上野群馬 は 新たな従者 を獲得しました

 美少女 美少年 は スキル を獲得しました

 上野群馬 は スキル を選択してください』




 戦後処理の最中、司令部に戻ってきた高嶺嬢をねぎらいながら、端末に映し出された攻略特典情報を眺める。

 どうやら従者ロボがスキルを獲得したようだ。

 俺は端末画面をタッチして操作を進める。


『強くて成長する裏切らない従者(美少女でも美少年でもありません)

 獲得スキル(共通)

 下記の一覧から 1つ 選択して下さい


・強化

・巨大化

・探知

・召喚

・飛行

・水泳

・ビーム』


 現在、俺は20体の従者ロボを保有しており、それら全てに対し共通のスキルを獲得できるようだった。

 しかし、一つだけか、悩むなあ……

 どれも強力そうだし、戦術の幅が広がるのは間違いない。

 さて、こんな時こそ『鑑定』だな!

 階層攻略特典でスキルポイントが配分されたから、今の『鑑定』は77!

 …… いける!


・強化:SPを消費し、全ての能力が一時的に向上

・巨大化:SPを消費し、巨大化する(出力は向上しない)

・探知:恒常的に索敵する(索敵半径はLv値×1m)

・召喚:眷属を2体召喚可能

・飛行:浮遊能力を獲得(推進方法は各自で用意)

・水泳:水上もしくは水中を推進可能

・ビーム:SPを消費し、口腔内から荷電粒子を高速で射出する(有効射程30m)


「…… ほう」


 思わず困惑の声が漏れた。

 1つしか獲得できないとはいえ、中々に有用そうなスキルが揃っていると先程までは思っていた。

 ヤバい。

 地雷スキルしかなさそう。


 一見、魅力的な説明文だが、()内がことごとろくでもない。

 説明文に()のない『強化』『召喚』『水泳』は安牌あんぱいそうだが、他に致命的な欠点がある以上、怪しまざるを得ない。

 

「まあ、召喚だよね」


 俺は軽快に『召喚』の項目をタッチした。

 ダンジョン戦争において探索者の数が減少の一途を辿っている以上、人手を増やしておいて損はない。

 願わくは今後戦争の主役となる無人兵器の管制機能があればそれ以上言うことは無い。


「ぐんまちゃん、さっきから何してるんですか?」


 先程から端末にかかりきりとなっている俺に高嶺嬢が声をかけてきた。

 朝一にコアラをチョンパし、その後の会戦ではパンダとコアラの2体を解体したついでに階層主を配下軍団ごとジェノサイドした高嶺嬢。

 今は通常モードに戻っており、清廉な雰囲気を持つ令嬢にしか見えない。


「いや、今回の攻略特典を見ていてね」


 従者ロボのスキルについて説明しても、知能2を混乱させるだけだろう。

 

「あっ、ぐんまちゃん…… 今、私のこと馬鹿にしてませんか?」


 彼女の『直感』スキルがいらんことを囁いたのか、俺の考えを見透かしたように高嶺嬢が頬を膨らませてプリっとする。

 戦闘時のSAN値直葬っぷりを刻み込まれている俺からすれば、今にも口からプロトンビームが飛び出しても不思議ではない光景だ。


「してないしてない。

 そんなことする訳ない」


 もちろん馬鹿正直に肯定なんてしない。

 高嶺嬢の機嫌は俺の保身にとって最優先事項の一つ。

 思い出すのは、恐怖という概念を分からせられた表情で息絶えているパンダの姿。

 どうやったのかは分からないし知りたくもないが、脊髄ごと頭蓋を引き抜かれた奴の死体は、俺に日本が誇るヒト型決戦兵器の恐ろしさを実感させてくれた。


「むぅ、煙に巻くんですねぇ?

 だったら、私はこうしちゃいます!」


 そう言って高嶺嬢は俺の腰部に抱き着いてグリグリと頭を押し付けだした。

 絶妙な角度で腰骨とあばらに当たって地味に痛い。


「おっと、それは痛い。

 地味に痛いから止めてくれないか」


「ぐんまちゃぁん、いやですよぉ!

 私を馬鹿にしたお仕置きですっ」


 高嶺嬢はニヤニヤしながら一層グリグリしてくる。

 地味に痛い。

 美少女との接触とか、そういうの関係なしに地味に痛い。



『ミッション 【イチャつかないで貰えない?】

 資源チップを納品しましょう

 鉄鉱石:200枚 食糧:50枚 エネルギー:200枚 希少鉱石:100枚

 非鉄鉱石:200枚 飼料:50枚 植物資源:50枚 貴金属鉱石:100枚

 汎用資源:100枚

報酬 LJ-203大型旅客機4機

依頼主:日本国第113代内閣総理大臣 高峰重徳

コメント;儂の孫から離れて!』


 やべっ、総理からクレーム来た。


「ふふっ、ぐんまちゃぁん!」

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