第七話 蠢動する二大派閥
青、赤、黄、緑…… 様々な色の半透明な石ころがテーブルの上に転がっている。
1個当たり資源1万tと交換できる地球世界の生命線。
時に魔物の心臓として。
時に魔道兵器のエネルギー源として。
時に人類を超常の存在に変えてしまう未知の物質として。
時に巨大な機械生命体の燃料として。
この石ころこそ、様々な世界で大活躍している魔石だ。
今まで当たり前のようにその存在を受け入れていたが、改めて考えるとこの未知の石ころの正体が全く解明されていない。
本国に研究用として現物をそれなりに送ってはいるものの、技術立国を標榜する日本の技術力を駆使しても、その性質や構造などほとんどが未知のままだ。
現在分かっていることとして、物質的には単結晶であり、薬品耐性が極めて高く力学的要因以外での破損は確認されていない。
一定以上の衝撃を加えると破損させることができるが、破損した途端、その魔石を構成していた物質は昇華し、物理的に存在を確認することができなくなってしまう。
簡単に言えば魔石が少しでも欠ければ、欠片も本体も綺麗さっぱり消滅するってことだ。
まあ、どうせ異世界お得意の魔法的な神秘物質なんだろうけどね。
魔力の結晶とか生命力の塊とかそんな感じでしょ?
敵の指揮官クラスや大型兵器から採れる大きめの魔石は、より出力や密度が大きくて希少なやつ。
階層主が持ってる一抱えもある大きさの魔石は、最高級品的な扱いなんじゃないの。
雰囲気で分かるわ!
「これ1個で含有鉄量65%の鉄鉱石1万tなのでござるなぁ」
白影がテニスボール大の黒色の魔石を手に持って、感慨深そうに眺めている。
黒色は主に魔界のゴブリン種や高度魔法世界の小銃から採れる魔石だ。
黒色魔石1つで交換できる資源が含有鉄量65%の鉄鉱石1万t。
転移前の含有鉄量62%の鉄鉱石が1t当たり71.5ドル前後。
65%だから単純計算で1t当たり約75ドル。
1万tだと75万ドル。
日本円に換算すると7500万円。
1000個で750億円。
「そう考えるとすごいよね」
「拙者のカトンジツ一噴きで、とんでもない額を稼いでしまっているのでござるぅ」
攻略進行に伴う特典の強化により、一度の攻撃で数十、数百の敵個体を殲滅可能なNINJA。
彼女は間違いなく人類トップクラスの稼ぎ頭だ。
火を主武装にする都合上、末期世界第3層の炎神や魔界第2層の犬っころ、機械帝国の機械兵など相性の悪い相手も存在するが、彼女の広範囲殲滅能力は下手な燃料気化爆弾を上回る。
それ以上にカトンジツによる飛翔能力を持つ白影は、特典持ちの中で唯一の航空戦力であり、その有用性は計り知れない。
彼女は間違いなく高嶺嬢、ガンニョムに並ぶ人類の切り札足り得るだろう。
「…… 時にNINJA白影よ、そろそろ第三世界諸国がダンジョンへの侵攻を始めてると思うんだけど、今どうなってるの?」
白影は性格こそ全く忍んでいないものの、能力は諜報員として非常に優れたものを持っている。
裏工作は性格的に向いていない一方、情報収集を頼めば大抵の事なら他勢力に気づかれないまま任務遂行可能だ。
「現在の情勢なぞ忍びたる拙者は勿論調査済み!
順を追って説明するでござるね。
トモメ殿も参加された主要七か国戦略指針会議、それが終了した次の日からシャルは第三世界の各勢力との交渉に入り申した。
しかし、同時に同盟のエデルトルート、連合のアレクセイも対第三世界諸国交渉を開始したのでござる」
ほう、会議では公女に第三世界諸国を一任すると言っておきながら、堂々と介入するとは奴らも随分とえげつない。
十分予測できたことだが、ただでさえ攻略情報の開示拒否という負い目のある公女にとっては苦しい環境だ。
「次の日には新興独立国家協定とアフリカ連合の29ヵ国44名が、シャルとの交渉を中断して高度魔法世界へ侵攻開始。
同時にラテンアメリカ統合連合と汎アルプス=ヒマラヤ共同体の12ヵ国21名が、シャルとの交渉前に末期世界へ侵攻したでござる」
えぐいわ!
同盟と連合の交渉速すぎでしょ!
おそらく前々から話を進めていたに違いない。
会議で『一部の国家を除く第三世界諸国』とか言っていたから、こんなことだろうとは思っていたけど、流石にこれはエグい。
交渉開始2日目にして公女は、どれだけ頑張っても島嶼諸国連合、自由アジア諸国共同体の12ヵ国18名、どの組織にも加入していない第三世界国家13ヵ国24名しか傘下に収めることができなくなった。
公女自身の派閥である自由独立国家共同戦11ヵ国16名を含めて最大58名で機械帝国の攻略を進めなければならない訳だ。
「シャルが島嶼諸国連合・自由アジア諸国共同体との共同作戦協定を締結せしめたのは、その翌日でござった。
そして昨日、シャル達は機械帝国へと侵攻を開始したでござる」
つまり現状の第三世界は公女派、同盟派、連合派、無所属の4つに分裂している訳か。
いや、高度魔法世界や末期世界に侵攻した諸国が、同盟や連合を支持していると決まった訳ではない。
物資提供や敵戦力などの様々な判断材料によって、今回はそのように選択しただけかもしれない。
元来、第三世界諸国は様々な勢力間を行ったり来たりしながら、支援やおこぼれを掠め取っていくスタンスだ。
この状況を見ただけで帰属を判断するのは尚早だろう。
各ダンジョンでの協力体制を見る必要がある。
俺達が第4層へ侵攻を解禁されるまで、あと3日。
日仏が足踏みをしている間に、国際政治を深い霧が包み込もうとしていた。
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