第三十八話 捏造爆発はじめてのさいばん 後
臨時の裁判スペースとして設けられた大ホール内は、そう形容してしまうほどの惨状だった。
人類の戦闘力ランキングでぶっちぎりの第一位高峰華。
他の人間とは生物として隔絶した存在からの一喝は、その場にいたありとあらゆる生命体に対し、無差別に強烈な精神ショックを与えた。
床に倒れ伏し、気絶している者はまだマシだ。
ダンゴ虫のように丸まってガタガタと震えている女性。
早口で何事かをぶつぶつ垂れ流している大男。
直立不動で硬直状態の青年。
ひたすら自分の服を口に詰め込んでいる少女。
みんなちがって、みんないい。
いや、よくねぇな!
「うぇ、ぅわぁ、うぅぅぅぅ」
先程までノリノリで煽りスピーチをかましていた中華民国の探索者である
うんうん、これで
へへ、ざまぁねぇぜ!
「トモメ・コウズケ」
裁判官席に座るエデルトルートに名を呼ばれる。
なんだろう?
「以後の裁判において、ハナ・タカミネの退廷を命じる」
な、なんだってー。
まさかの高峰嬢レッドカード。
憔悴しきった様子のエデルトルートからは、何がなんでも自分の指示を押し通す強い意志が感じられる。
馬鹿な!? 高峰嬢は一声あげただけだぞ!
偶々同じタイミングで周囲の人間が恐慌状態に陥っただけなんだ!!
それを高峰嬢の仕業とするなら、証拠を出して見ろよ! 証拠をよぉ!!!
「異議あり!
エデルトルートの指示は論拠に欠け————」
「ハナ・タカミネの退廷を命じる。
従わない場合、我々ドイツ連邦共和国の本拠からの、日本勢の退去を命じる」
やべぇぞ、この女いきなり最後通牒突きつけやがった!
逆らうこともできるが、今の段階で人類同盟と事を荒立てたくはない。
それに高峰嬢は既に、この場にいるほとんどの人間の心を圧し折ってくれた。
もう知能2の彼女にはとりわけ仕事なんてない。
ここは恩着せがましくエデルトルートの指示に従った方が得策か。
「エデルトルート、我々に対する君の指示は論拠に欠いている」
ただでさえ眼つきの鋭いエデルトルートが、表情をさらに険しくする。
こわい。
「だが、今回のイベント主催者は君だ。
ここは君の指示に従おうじゃないか」
俺達日本勢にとって、ここで行われているのは裁判なんかではない。
ただの裁判ごっこだ。
もちろん、焦燥しているとはいえ、エデルトルートも俺の意図をしっかり理解しているだろう。
彼女は険しい表情をそのままに、深々と溜息をつく。
ちなみに彼女の隣にいるアレクセイは、子供のように泣き喚きながら、さり気なく彼女の豊満な胸部に顔を
くっそ! めっちゃ
「黒いの、後は頼みましたよ」
「言われるまでもない」
豊かな乳とただの胸板が何かやり取りしているが、今の俺にはアレクセイの頭によって形を変えるエデルトルートの豊満な胸部にしか意識を向けることができなかった。
「———— えー、それでは、裁判を再開する。
この事件について、何か——」
「異議あり!」
30分ほどの休憩後、法廷で再び裁判ごっこが始まった。
袁がグロッキー状態な今、いよいよ俺のターンが回ってくる。
唯一の懸念点は、俺の相棒であるアレクセイもグロッキーな点だが、まあ、仕方ない。
コラテラル・ダメージというやつだ。
「今回の国際連合拠点爆破事件において、日本国と国際連合で共同の調査を行った結果、先程人類同盟側の事件詳細と食い違う証拠が発見されている」
俺がアレクセイに目配せすると、彼は今にも死に絶えそうな様相ではあるものの、懐から爆破跡で発見された装置を取り出して、観衆に対して見せるように掲げた。
よしよし、これで無反応だったら張り倒していたところだ。
「その装置は我々独自の調査を行った結果、大韓民国で製造されたものだと判明した。
当たり前だが、国際連合の物資に人類同盟所属国家である韓国の製品が紛れ込んでいるわけがない」
ここで反論の一つでも飛んできそうなものだが、俺が事前の段取りを丹念に行っていたためか、袁の一派は酷く消耗した様子で声を上げる様子すら見られない。
段取り八分、仕上げは二分とは良く言ったものだ。
「また、爆発跡で発見された焼死体は、我が国の独自技術による鑑定の結果、中華民国の男性であることが判明した。
この事実は、先程の人類同盟による事件詳細とは決定的に食い違っている!
これでは、人類同盟に所属している中華民国の探索者が、国際連合に無断で拠点に侵入したことになる!!」
嘘は言ってない。
日本は俺を保有しているし、俺の技術は日本の技術だ。
つまり、日本の独自技術なんだよ!
「そ、それは違うわ!
そんなのただの
中華民国は国際連合の拠点内に侵入なんてしていないわ!!」
流石に他勢力への無断侵入には食らいついてきたか。
もちろん、この反応も予想済みだ。
「我々国際連合は、今回の中華民国による無断侵入に対し、断固として抗議する」
ロシアが、日本に注意を向けていた中華民国の無防備な横っ面を殴りつける。
中華民国は、日本の主張を完全に鵜呑みにしているロシアを愕然とした表情で見ていた。
ぷぷっ、国際政治で裏からの根回しなんて当然よね!
袁が
残念ながら、フォローなんて入れさせないぜ!
こっから先は、ずっと俺のターンだ!!
「そもそもだ、今回の事件で人類同盟から容疑者とされているスウェーデンの女性探索者についてだが。
フランスの独自調査によると、事件発生時間において、多くのアリバイが寄せられているんだぞ?」
「えっ?」
「なんだと?」
「ふぁっ?」
「いや、それはないでしょ!?」
俺の発言に、アレクセイ、エデルトルート、シーラ、袁から驚きの声が上がった。
ふふふ、俺が事前に仕掛けたワイルドカードを、今、切る!
俺が隣の白影に目を向けると、彼女は一つ頷いて立ち上がる。
「フランスがスウェーデンと友好的、もしくは中立の国々に対し、独自の聞き取り調査を行ったでござる。
結果、多くの探索者から、事件発生時間において、スウェーデンの女性探索者についてアリバイとなる証言を得られたでござる」
白影は堂々とした態度の元、朗々たる口調で正々堂々、とんでもない嘘っぱちを盛大にぶちかました。
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