第二章

第一話 魔の森

 鬱蒼うっそうしげる木々が頭上を覆い、ジメジメとした苔や背丈の低い草が地面を埋め尽くしている。

 木々の樹皮には蔦植物が張り巡らされ、視界一面に緑が広がる。

 空からの光は、頭上の枝葉に遮られ、太陽が昇っているはずだというのに薄暗い。


 森林、ジャングル、原生林、この光景を説明する言葉を浮かべるが、どれも違和感があり、しっくりとこない。

 違和感の正体は、誰でも気づく。

 音だ。


 植物の声明で溢れるこの地には、本来ならばあるはずの音が存在しなかった。

 自分達以外の生命の気配がしないのだ。

 ゆえに、この森を呼称するのならば、魔の森、その言葉が最も的確だろう。


 一見無害な、しかし奥底に引き込まれそうな不気味さを秘めた魔の森。

 そこを訪れた者は、いったいどのような末路を迎えるのだろうか。




「時代はやはり無人機だな」


 俺はタブレットに表示されるダンジョンマップを見ながら、思わず呟いた。

 魔界第2層を探索しようと、扉を開けてみたら、そこは森林地帯のど真ん中に位置するひらけた野原だった。


 第1層が洞窟だったので、てっきりそれ以降も洞窟だと思っていたら、まさかの森林地帯で驚いたのも良い思い出だ。

 それ以降は、毎度の如く42式無人偵察機システムによる哨戒を行った。

 森林地帯と無人機に搭載されている迷彩システムは、相性がすこぶる良かった。

 周囲の景色を機体表面に投影する全地形型の最新鋭迷彩は、視覚のみでの無人機の発見を極めて難しくするだろう。


 森林地帯に溶け込んだ無人機群による哨戒活動は、魔物達の戦術をことごとく見破っている。

 今回の魔物達は、第1層では徒手空拳だったのが、武器や防具を装備しており、脅威度が格段に増していた。

 そして、森林地帯という地の利を活かすように、樹上や背の高い草の下などに潜んでいるようだ。


 どことも知れない森林地帯での、人間よりも遥かに身体能力で優れる魔物達によるゲリラ戦。

 どこの悪夢だよ!

 彼らの武器に毒が塗られているかは分からないが、随分とえげつない戦術をとってくれたものだ。


 まともに攻略しようものなら、間違いなく泥沼の長期戦となり、じわじわと消耗を強いられることだろう。

 アメリカなどの主要国が中心となっている人類同盟もこの地に侵攻しているが、各所で魔物の襲撃やブービートラップに遭い、少なくない損害を負っているようだ。

 幸いにも、損害は無人機や戦略原潜の乗員っぽい兵士達であり、探索者達には損害は出てないようだが、それもいつまで持つことか。

 彼らの無人機には、我が国のような迷彩システムは搭載されていないので、面白いように墜とされているらしい。



 まるで、数十年前のベトナム戦争で、べトコンゲリラと死闘を繰り広げる米軍の再現を見ているようだ。

 これが、歴史は繰り返す、という奴なのだろうか?

 だとしたら、かつてのように枯葉剤でもナパーム弾でも、何かしらばら撒いて森林地帯を死滅させれば良いのだが。


 まあ、それはもちろん彼らも試したはずだ。

 しかし……


『鑑定』


『魔の森の植物:鉱石の一種』


 そう、一見植物のような木々や草花は、鉱石だった。

 森林地帯ではなく、正しくは鉱山地帯だったのだ。

 もちろん、鉱石なので、燃えないし枯れない。

 結果、地道に伐採するか、諦めて森林っぽい場所に突入するしかなかった訳だ。


 いやぁ、ファンタジーって厳しいものですね!

 自分、幻想抱いてましたわ!!


 全高20mのロボットが地道に木々を薙ぎ倒している光景を見ながら、しみじみとそう思った。


「ぐんまちゃん、ぐんまちゃん!

 そろそろ行きませんか?」


 白銀に輝く簡易ドレスのような軽鎧、戦乙女シリーズを身に纏った高峰嬢が急かしてくる。

 確かに、今日のノルマも魔石1000個だ。

 中央省庁以外からの細々としたものを含めると、1200個ほど合計で集めなくてはならない。

 いくら無人機のおかげで敵の居場所が分かると言えども、この森林地帯を進むとなればそれなりに時間がかかる。

 近隣の哨戒は完了したし、早めに進軍しても問題はないだろう。


「そうだな、ここだと歩くのにも時間はかかりそうだ。

 早めに出発するに越したことはないか」


 俺の言葉を出発の合図と受け取ったのか、8体に増えた従者ロボが、26式短機関銃と武器屋で買った『守護者の王剣(38億5000万円)』を構えて俺の周囲を固める。

 守護者の剣は、一見ただの巨大な包丁のようだが、装備すると耐久とHPが+20されるらしい。

 どのような原理でその効果を発揮するのかは、全く分からないが、取扱説明にそう記載してあった。


 俺も持とうと思ったが、ダメだった。

 重かったんだ……すごく…………

 高峰嬢は片手で持てたのだが、スピードタイプの彼女としてはお気に召さなかったようだ。


「さあ、今日もガンガン魔石狩りですよー!」


 先頭に立った高峰嬢が、今日はまだ綺麗なままの刀をぶんぶんと振り回した。

 今日も彼女は元気だなー。

 俺は苦笑いを浮かべながらも、進行方向を指示するのだった。


「そっちは敵主力とは反対だよ、高峰嬢」


 決戦兵器による敵主力の開幕撃滅は日本の伝統だよね!

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