第二十七話 第1層開放

 ダンジョン探索8日目、ようやく初めの一週間が終わり、2週間目に突入した。

 昨日今日とロボットダンジョンを探索したが、主要国を中心とした人類同盟とロシアが率いる国際連合の対立は深まるばかりで、修復する様子を見せない。

 そのせいで、お互いへの警戒に人員を割き過ぎてしまい、彼らのダンジョン探索はお世辞にも順調とは言い難かった。


 そして、その陰に隠れるようにして、第三次大戦に参戦しなかった第三世界の連中が蠢いている。

 彼らは各国間で連携することはないものの、二大派閥の裏をかくように魔界第二層とロボットダンジョンの両方の攻略をゆっくりと、しかし確実に進めていた。


 このような混迷を極める情勢の中、本日から解禁される端末からのミッションがどのような影響を与えるのかは、全くの未知数だ。

 一定数存在する他国の親日家に聞いたところ、2週間目からギルドの依頼は他国のものでも閲覧、受諾ができるようになったらしい。

 つまり、魔石の収集などは問題ないが、他国への妨害活動などの後ろ暗いミッションは、ギルドのミッションとして発令できなくなったわけだ。


 そしてギルドミッションを通じて、他国の様々な事情が流出する中、大戦の傷跡が未だに癒えず険悪な国々による代理戦争やあからさまな妨害が始まりかねなかった。

 特に俺の祖国から依頼する膨大な資源収集ミッションは、敵国にいらん勘違いを与えかねない。

 くだらない思惑で探索の妨害をされてはかなわないし、いくら高嶺嬢でも人殺しは躊躇うはずだ…… 躊躇うよね?


 そこで、俺は考えた。

 二大派閥間で抗争が起こらず、敵国からも探索の妨害が行われず、俺達のダンジョン探索がすんなり進む方法を。

 そして、思いついた。


 そうだ、ボスを倒しちまおう!




 そんなこんなで現在、俺達は新品の戦車でオフィスビルの通路を爆走していた。

 俺達が乗っている戦車、23式戦車は、都市戦を想定された軽量な10式戦車と打って変わって、大陸での運用を想定した紛うことなき重量級戦車だ。

 重量44tの10式戦車に対し、23式は63t。

 国内では北海道くらいでしか運用できない潔い仕様となっている。


『ギィィィィィィ』


 哀れにも俺達の前に飛び出してしまったロボットが、時速80㎞で爆走する63tの鉄塊に轢き殺されてしまった。

 危ないなー、間違いなく今の俺は危険運転だ。

 俺はさらに速度を上げた。


「ヘイヘーイ、飛ばし過ぎですよー!」


 レッドゾーンまで一気にフケるこの音この陶酔感!!       

 死ぬほどイイぜ、たまんねえっ!!


 意外と簡単だった戦車の操縦を、5分で習得した俺が駆る鉄の軍馬。

 狭い車内には、押し込まれるように操縦手の俺、砲手の美少女1号、トリガーハッピーの如く車載機銃を乱射している高嶺嬢がいる。

 他の従者ロボ5体は、車体後方の荷物置き用の籠に入っていた。


 幾多の歩行者を踏み潰し、目の前に迫まる直角カーブ。

 しかし俺は、速度を緩めない。


「ちょっと、ぐんまちゃん!

 前! 前! 前!」


 こちとら、走り屋の本場、群馬県民じゃー!

 今の気分はすっかり豆腐屋の息子だぁ。

 頭文字はDじゃないけど、いろは坂のサルとは格が違うんだよぉ!!


 俺の23式は曲がる!!

 キャタピラの擦れるすさまじい金属音。

 耳に劈く様なその音鳴り響かせながら、カーブを曲がり切った。


「キャァァァァ! ぐんまちゃぁぁぁぁぁぁん!!」


 しかしカーブの先には、戦車の爆音を聞きつけたのか、車線上にロボットの一団が現れた。

 ざっと見ても100はいやがる。

 美少女1号が40口径155㎜戦車砲を連射するが、流石に蹴散らしきれない。


「私が殺りますから! 私が降りて殺りますからぁぁぁぁぁぁ!」


 だけど、俺の23式が、行けると教えてくれる……!

 アドレナリンどっぱどぱだ!!




「……見えた!」


 100を超える敵を蹂躙して、遂に俺達はボスらしき敵がいそうな高級そうな扉を目にした。


「目標前方の扉、弾種徹甲弾!」


 俺の指示と同時に、美少女一号がタッチパネルで弾種を変更する。


「てぇっー!」


 掛け声と同時に、轟音が車内に轟いた。

 続けて数発、轟音が連続する。

 打ち終わった時、前方のドアには、戦車が通れそうな破孔が生じていた。


「しゃぁああああ!!」


 俺はスピードを緩めることなく、破孔を潜り抜け、突然の事態に驚き、棒立ちしている豪奢なロボットに突撃かました!


『ギギギギギギギギギ』


 金属同士が擦れ合う酷く耳障りな音と共に、倒れこむロボットの上に重さ63tの23式が乗り上げる。


「オラオラオラァ!

 これが群馬伝統の蹂躙攻撃じゃぁぁぁぁぁぁ!!」


「ヘイヘーイ、もっと断末魔を上げてみなさいよー!!」

 

 高嶺嬢も良い感じに温まってきたようだ!

 いいね!!


『ギィィィィィィ!!』


 高嶺嬢の要望に応えたのか、なんだか良く分からない断末魔をボスロボットが響かせる。


「分かんねぇよぉぉぉ、何言ってるのかわっかんねぇぇぇよぉぉぉぉぉぉぉ!!」


「日本語話せやー、木偶野郎がー」




「いやー、苦しい戦いでしたねー」


「そうだな」


 冷静になった俺が、戦車から降りて目にしたのは、キャタピラの跡がハッキリと残ったまま機能を停止したロボットの残骸。

 それを見ながら、ふと、端末のミッションを確認し忘れていたことに気づく。


『ミッション 【技術情報の収集】

 敵ロボットの部品をできる限り収集して下さい

報酬 200億円

依頼主:日本国国防省技術研究本部本部長 高橋博信

コメント;他国には内緒だよっ!』


 俺は無言で目の前の残骸を拾い集めた。

 帰り道でも魔石回収ついでに、拾っておこう。




『ミッション 【機械帝国 第1層の解放】 成功

 報酬 道具屋 武器屋 防具屋 の 新商品 が 解放 されました』


『機械帝国 において 第1層の解放 が達成されたので 第2層 が解放されます

 3日間 機械帝国 に侵攻することはできません

 【階層制覇 3】が達成されました 特典 が 追加 されます


 レコード は 182時間53分19秒 です

 【総合評価 B 】を獲得しました 特典 が 追加 されます』


『全てのダンジョンの 第1層 が解放されました

 全ての探索者 は 母国 との 通信 が 10分間 許可されます』




機械帝国 第一層 純友不動産シンジュク=グランド・タワー

日本    攻略完了

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