第八話 総理の御令孫
「私の祖父ですか?
確かに母方の祖父は、総理大臣の高嶺重徳ですよー」
俺の私室の応接テーブルで、俺が恵んでやったスモークウインナーの缶詰をつつきながら、高嶺嬢がニヘラと笑った。
狂気しか感じなかった全身ゴア女は、血を洗い落とした後、清楚な黒髪美少女に大変貌を遂げていた。
しかも驚いたことに、彼女は高嶺総理の御令孫らしい。
たまげたなー。
突然祖父の事を尋ねられて不思議がる高嶺嬢に、端末のミッション画面を見せてやる。
すると彼女は、『もう、貫太郎小父様はー!』と拗ねるように頬を膨らませた。
若干幼さを残す彼女の容姿もあって、本来ならば非常に可愛らしく思えるのだろうが、彼女の狂気を五感の全てに刻み込まれた俺からすれば、『口から火を吐く3秒前』にしか見えない。
そういえば、彼女のステータスやミッションはどうなっているのだろうか?
十中八九最初の時以降、端末なんて確認してなさそうだが、あれほどの戦闘能力を持つ彼女のステータスは興味がそそられる。
俺の肉団子を美味しそうに頬張っている高嶺嬢の細腕には、とてもじゃないが成人男性以上の体格を持った魔物を真っ二つにしたり、素手で首を引き千切ったりできる筋肉が詰まっているとは考えられない。
何らかのスキルか、彼女が装備していた『すごいKATANA』か『かっこいいマント』の機能だろう。
「高嶺嬢、今後の連携も踏まえて、お互いの端末情報を確認し合わないか?」
「端末情報…… それってなんですか?」
案の定、高嶺嬢はステータスやミッションについて、ほとんど確認していなかったようだ。
特典は、選択し終えたらいつの間にか後ろに置いてあったらしい。
なにそのイージーモード? 差別やん。
未だに『強くて成長する裏切らない従者(美少女でも美少年でもありません)』の手がかりすら掴めていない俺との待遇の違いにジェラシーを抱きつつも、高嶺嬢の端末を見せて貰う。
『高嶺華 女 20歳
状態 肉体:健康 精神:正常
HP 24 MP 2 SP 24
筋力 18 知能 2
耐久 24 精神 24
敏捷 24 魅力 18
幸運 4
スキル
直感 5
貴人の肉体 10
貴人の一撃 5
貴人の戦意 10』
「………… 強い」
彼女のステータスを見て思わず本心が漏れる。
知能と幸運を除けば、高嶺嬢は正しく化物だった。
そして恐ろしいことに、彼女の保有スキルは全てがOFFになっていたのだ。
つまり、ダンジョンでの蹂躙は彼女の素の身体能力で行っていたことになる。
なにより恐ろしいのは、そんな猛獣の如き戦闘力を秘めた彼女のオツムが虫けら並だということだ。
思い出すのは、切り裂かれた腹から零れ出る自身の腸を必死に戻そうとするオーク、首を掴まれてそのまま脊髄を引き摺り出されたゴブリン、生きたまま手足をもぎ取られて最後には頭蓋を踏み砕かれたコボルト。
それらの姿に未来の自分自身が重なる。
オークと、ゴブリンと、コボルトと、それからわたし、みんなちがって、みんないい。
いや、良くねぇよ。
俺は彼らの姿と自分自身を重ねようとする思考を無理やり中断し、楽しみにとっておいた最高級桃缶を高嶺嬢に差し出した。
「ぐんまちゃん! ありがとうございます!!」
無垢な笑顔で桃缶を貰い、お嬢様らしく上品に食べだす高嶺嬢を見ていると、全身ゴア女とは別人に見えるのだから女は不思議だ。
彼女のスキル『直感』の効果は名前からして分かる。
ただ、『貴人の肉体』『貴人の一撃』『貴人の戦意』の効果が良く分からない。
貴人というのは、総理の御令孫であることから納得できる。
しかし、その後に続く肉体、一撃、戦意という言葉は、貴人という言葉に似つかわしくない。
これが貴人ではなく、狂戦士や殺戮者、覇者とかだったら分かり易いのだが。
それにスキル名の横に書かれていた数字、おそらく熟練度とかだろうが、その数値が俺のステータスに比べて高かったのも気になってしまう。
彼女のスキルには『10』と『5』が2つずつもあったが、俺のスキルで『10』なのは、今も視界の端に表示されている索敵だけだ。
初対面の時は狂気に飲まれて失念していたが、索敵マップには味方である高嶺嬢は青い光点で表示されている。
ついでに、ダンジョン内の魔物は赤の光点、魔物の死体は灰色の点で表示されていた。
俺は改めて自分のステータスを確認する。
『上野群馬 男 20歳
状態 肉体:疲労 精神:疲弊
HP 9 MP 17 SP 5/9
筋力 11 知能 17
耐久 9 精神 15
敏捷 11 魅力 11
幸運 17
スキル
索敵 10
目星 2
聞き耳 4
捜索 2
精神分析 3
鑑定 1』
あれ?
表示されたステータスに違和感がある。
『肉体:疲労』確かに俺は疲れている。
『精神:疲弊』あんな惨殺現場を見て、疲弊で済んだだけ幸運だろう。
『聞き耳 4』成長してないか?
確か聞き耳は最初の時点で1だったはずだ。
今日だけで100回以上発動していたので、その分だけ熟練度が成長したということだろうか。
なんにせよ、成長できるなら、今はほとんど役に立っていない鑑定や目星、捜索も活用の幅が広がる。
戦闘では高嶺嬢に頼りっぱなしになるだろうが、探索では俺の能力を存分に活かすことができるだろう。
スキル構成も俺と彼女の分野が明確に違っている以上、ダンジョン攻略ではお互いの長所を活かすスタンスでいくしかない。
俺に彼女の様な戦闘なんて到底無理だし、彼女のお粗末な脳みそでは探索も分析も期待できない。
彼女の端末に表示されたミッション画面は、俺と共有のものだったので、ダンジョン攻略での目的や方針も同じものを設定できる。
今後は、戦闘に関して彼女を主戦力に置き、俺が戦闘以外を担当してミッションをクリアしつつ、攻略を進めていく方針で良いだろう。
「ぐんまちゃーん!」
俺が今後の方針を考えていると、突然フォークに突き刺さった桃が現れた。
「幸せのお裾分けですよー」
ようやく結婚できた行き遅れ女が、独身の友人に言うようなことをのたまって、高嶺嬢が桃を食べさせようとして来た。
美少女に食べさせて貰えるシチュエーションは、願っても無い事だ。
だけどね、フォークを突き出された瞬間、殺されるかと思いました。
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