第四話 無駄なビビリ

 次のミッションは5つの部屋の探索だ。

 前のミッションでは、私室を出て左方向に進んだのだし、私室の安全を確かめるためにも今度は右方向に探索を進めることにしよう。

 

 結果から言ってしまうと、私室の右隣は、同じ造りの執務室だった。

 クローゼットの中は空っぽで、本棚のラインナップは俺の私室と同様のものだ。

 この部屋も私室と考えるなら、俺と似た立場の人間がもう一人いるということなのだろうか。

 それにしてもこの屋敷?には人の気配はないし、人がいた痕跡も見当たらない。

 もう一人は後から連れて来られるのか?

 それとも、俺の方が後から来ており、先任者は何らかの問題によりいなくなってしまったとか。

 うーん、悩んでも仕方がないな。

 解決の糸口が見えない問題は保留にし、俺は更に右方向へ探索を進める。


 次の部屋は武器庫と形容すべきものだった。

 各種銃火器とその弾薬はもちろん、剣や盾、槍などの時代錯誤な代物まで大量に保管されていた。

 さらにそれらを整備するためであろう整備机が、様々な整備器具と共に設置されている。

 当たり前だが銃は本物、弾は実弾、刃物類は真剣だ。

 

 これらを使用する事態は真っ平御免だが、用意されているということは、つまりはそう言うことなのだろう。

 それに今回のミッション報酬である装甲服の存在も考慮に入れると、真正面からの銃撃戦なんて悪夢も現実になってしまいそうだ。


 俺は銃火器の中から自分でも使用できる軽量かつ反動の小さそうなものを選ぶ。

 こういう時、鑑定を用いると朧気おぼろげながら、どの武器がどんな特徴を持つのか何となく分かったので助かった。


上野群馬こうずけともめ は 26式5.7mm短機関銃 と 弾倉4つ を手に入れた!


 俺が選んだ26式短機関銃は、往年の名銃であるFN P90に似ている銃だ。

 というか完全にパク……いや、オマージュしているだろ、これ。

 説明書を読む限り、見かけだけでなく性能も似ており、5.7×28mmケースレス弾を50発収納できる弾倉はP90と互換性もあるらしい。

 一応、P90よりも開発技術が優れていたらしく、P90と比較して軽量化と反動の減少を達成している画期的な傑作銃っぽい。

 日本の友好国の警察や特殊部隊では、正式装備として採用しているところも多いそうだ。


 武器庫には各銃のアタッチメント(付属品)も豊富にあった。

 俺は持ち運びしやすいように26式にスリングベルトを装着し、射撃時にできるだけ音を抑えるためにサプレッサー(減音器)を持っていくことにした。

 サプレッサーを装着したままだと、銃が長くなりすぎて取り回しがやたら難しくなったためだ。


 可能なら銃を撃つ練習がしたかったけど、残念ながらそんな設備は無い。

 悲しいことにいざという時は、本番一発勝負になりそうだ。

 そんな事態になれば、おそらく俺は死ぬだろう。

 咄嗟に安全装置を外せなかったり、銃の反動に驚いてただ弾をばらまいたりしている自分の姿が目に浮かぶようだ。

 悲しいことに、これが素人の現実なんだね。


 だからと言って剣や槍は論外だけど。

 肉弾戦とか絶対無理です。死んでしまいます。

 むしろ振り回した剣で逆に自分が斬られちゃうのが簡単に想像できてしまう。

 やっぱり自分に戦闘は向いてないようだよ。


 そういえば特典で貰った従者はどうなったのだろう?

 あれから何の音沙汰もないんだが。

 まあ、戦略原潜とかもあったし、専用の受取できる場所があるのだろう。

 今は26式を背負って探索を再開する。


 次の部屋はトイレだった。

 小便器が4台、洋式便所が5台の男子便所だ。

 お隣もトイレだった。

 洋式便所が8台の女子便所だ。


 どちらも使われた形跡はなく、新品同然だった。

 とりあえず私室のトイレットペーパーがきれたら、ここから補充すればいいんだね。

 当たり前だが、トイレットペーパー以外は目ぼしいものは置いてなかった。

 

 そしてミッション達成となる5つ目の部屋だ。


『聞き耳』


 俺はいつもの様に聞き耳を発動するが、毎度の如く反応なし。

 そっとドアを開け、ドアの近くにある照明の点灯スイッチを押してから、そっとドアを閉める。


『聞き耳』


 もはやこれが探索時におけるルーチンと化している。

 俺自身の戦闘力に全く期待できない以上、慎重に進めるしか選択肢は無いのだ。

 仕方ないよね、ビビりだもの。

 しばらく待っても反応が無いので、そっとドアを開けて室内に潜入する。


 ずらりと並ぶテーブルにカウンターらしき物。

 ここは食堂か。

 俺はカウンターの向こうの調理スペースを一旦無視し、食堂のテーブル下をくまなくチェックする。

 万が一テーブル下に何かが潜んでいたら自分の命はなくなったも同様だ。

 警戒するに越したことは無い。


 テーブル下には椅子以外何もないことを確認した俺は、調理スペースの探索に移った。

 調理スペースには包丁やフライパン、鍋などの調理器具が一通り揃っている。

 食材が手に入れば、ここで料理をすることもできるだろう。


 棚や引き出しの中には、食堂の規模に相応しい数の食器類や様々な種類の調味料がある。

 どれも使用した形跡はなく、調味料に至っては全て未開封だ。

 巨大な冷蔵庫の中には、手付かずの野菜や肉、魚などの生鮮食品が保存されていた。


 今までの探索結果から考えると、どうやら自分がここに一番乗りしたようだ。

 そしてもう一つの執務室、三段ベッドやこの食堂を見るに、それなりの人数が連れて来られるはずだろう。

 生活スペースの違いから、自分ともう一人の執務室を宛がわれる人物が、三段ベッド組の指導的立ち位置に置かれると考えて良い。


 武器庫にあった大量の銃火器から考えると、大人数を率いて戦争の真似事でもさせられるのか?

 いや、今はそんなことを考えていても仕方がない。

 今まで探索していった部屋の内容から、ここら一帯は自分たちの生活空間だと推察できる。


 すると、俺がずっと警戒していた敵対存在なんて存在しなかったんじゃないのか。

 つまり、俺は今まで無駄にビビっていただけになるな。

 うん、仕方ないよね、人間だもの。

 ともあれ、これでミッションは完了したので、端末を確認する。


『ミッション 【迅速な探索】 成功

 報酬 32式普通科装甲服3型 が 受取可能 になりました』


『ミッション 【報酬の受取】

 道具屋に預けられた報酬を受け取りましょう

報酬 10000円

依頼主:日本国農林水産大臣 山本英樹

コメント;そろそろ食事にしてはどうでしょう』


 よっしゃ、ご飯の時間だ!

 ここで調理しても良かったのだが、折角なので国防軍からの思いやりが詰まったレーションを食べよう。

 私室に戻り、執務机で『国防軍戦闘糧食 上野君用スペシャルセット』とやらの蓋を開けてみる。


 中に入っていたのは、無地に文字がプリントされている白米・鳥飯・カニ飯・スモークウインナー・モツ煮込みの缶詰。

 酢豚、鳥の照り焼き、肉団子、すき焼き、コーンスープのレトルトパック。

 特別配給とプリントされたステーキのレトルトパック。

 そして、それらを温めるための器具と食器類。


 ここまでが本来の戦闘糧食なのだろう。

 しかし、これらの間や隙間に押し込むかのように、明らかに戦闘糧食でないカラフルなパッケージのチョコレートやワッフルなどの菓子、高そうな果物の缶詰、風邪薬などの医薬品がギュウギュウに詰め込まれていた。

 あったけえ、祖国からの思いやりがあったけえよ。

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