第31話 ノアと道
この世界は不思議な世界だ。
俺は何がなにやら分からなくなってしまった。
夢と猫がいて、しかも猫が喋り服を着ている。
夢は心底ノアという猫に夢中になっていて、俺はそれにイライラを募らせるばかりだ。
そして俺が知らないノアと、大地が知っているノア。
ノアの絵はよく夢が描いていたから知っている。
この世界はそんなものに溢れている。夢が楽しく仕方がないだろう。ユートピアのように感じているかもしれない。
そんな彼女は今就寝中で、俺とノア2人きりな状況になっている。
俺はノアが準備してくれた異常に上手い紅茶を喉に通す。こんな気まづい空気は久々だ。
相手も黙り、俺も何も話しかけられずにいる。
異世界の猫に話しかける内容なんて思いつかない。
「ノアさんは足が悪いのかい?」
「そんなことは無いが、あー、杖を持っているからだね。これは私の大切なものなのさ。誰にも渡したくないから、こうしていつでも手放すことのない生活をしていたら、いつの間にかこちらの方に慣れてしまったのだ。」
「大切なものなら仕方がないな。」
ノアはその宝石のような瞳をチラリと見せ、それを凝視してしまう。
「はは、緊張しないでくれ。取って食ってするつもりは無い。」
「それは安心しました。」
心ない一言だ。
この猫はこの世にいるどんな人より上品な仕草をするだろう。
この部屋を見れば拘りが強いこともわかる。
ノアは案外俺とも気が合うのかもしれない。
しかし、ノアは強引でマイペースだ。やはり難しい。
「道くん、私は君に伝えたいことがあってね。もちろん夢乃には内密で。」
そう言うとノアは人差し指を口元に一本立てていた。
不思議と背筋が伸びる。
ノアは表情がない。だからコミュニケーションが取りずらい。
「なんですか?」
「私は夢乃とは古くからの付き合いでね。しかし、向こうの世界では私はただの人形だ。話こそは聞けるが、涙を拭ってあげることも、慰めてあげることも出来ない。
私は赤い糸の相手が消えるなるまで、こうやって夢の世界を夢乃の中に見せることは出来ない。
現在も消えかかっていたからなんとかなったんだ。」
「何を言っているんだ?」
ノアは俺を全く無視して話を続ける。
「君には責任がある。夢乃の涙を拭い、慰めてあげる。私だって夢乃の人生だから、簡単に関与したくないしね。」
「ノアさんは俺に夢を支えて欲しいのか?」
「簡単に言えばそうだな。君にしか私はお願いすることは出来ない。夢乃は独自の世界を持ちすぎている。
しかし、夢乃は君たち同様人間である。
繊細なのだ。今だって君がこの世界に来ただけで、疲れてしまっているのだから。」
この猫は雄弁だ。そして当たり前のことを言っている。俺にとっては当然のような事だ。
夢が弱いことも、想像力豊かのことも。
それをまるで俺が何も知らないかのように話す。
しかし夢は疲れてしまっている。俺のせいかもしれない。しかし、自分の彼女をしったかされるとモヤとするものだ。
俺は拳を作った。
「ノアさん、俺は夢とは運命を感じている。それに夢の不器用さはわかっているつもりだ。傍にいればもっと分かっていくだろう。どんな時でも味方でいる。だから、安心して俺が死ぬまで現れなくていい。」
一種の仕返しと目標だ。
しかしノアは少し笑った。
「その言葉は一過性に過ぎない。しかし、信用しないのも些かつまらない。」
「今はいいよ。それでね。」
窓から日差しが入ってくる。
たく太陽があたる位置にこの部屋はなかったはずだ。
「道くん、ちなみに夢乃が寝たのは普通に疲れていたからで君は関係ない。
天気も良くなったことだ。夢乃を起こして先へ進もう。」
俺はこの時に決心した。言葉をあげなくてはならないと。言霊が通用する世界。夢の思い描く未来
夢と自分がこの人生で一緒にいるために。
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