第21話 根拠⑤ 傷の手当をしてくれる和水さん④


 立っている時にはけしてみる事ができない机の下の光景。


 僕は授業中に隣に座っている和水さんをよくチラ見しているから知っているのだけど、大抵和水さんは脚を組んで座っていることが多い。


 そしてそれは今も例外ではなかった。


 和水さんはばっちり脚を組んで座っていた。


 ただでさえ短いスカートはまるで意味をなしておらず、今の僕からはムチムチの太ももが大胆に見えている。


 むしろお尻の肉まで見えてしまっていて、僕は食い入るように太ももの付け根辺りを見つめてしまった。


 わざとじゃない。


 たまたまだ。書類を落としたのはミスをしただけだし、こうして和水さんのお尻を見れたのも偶然だ。


 じっくりと見てしまっている僕が、今更何を言ったところで信じてもらえないかもしれない。


 それでも僕は心の中でわざとじゃありません、と和水さんに言い訳して、そうしながらも目ではスカートの中をしっかりと見続けていた。


「……手伝う?」

「い、いえ! ちょっとページ順で拾っているだけなので大丈夫です!」


 いつまでも出てこない僕にいい加減待ちくたびれたのだろうか。


 机の上から聞こえてくる和水さんのそんな声にも、僕は適当な言い訳を返してしまった。


 本当はそんなことはしていない。僕はもう和水さんの太ももしか見ていない。


 そして、スカートのさらに奥、組まれた脚の真ん中が見たくてその場から動くことができないでいる。


 もしスカートの中を覗いていると和水さんに気が付かれたら……そう考えると心臓の鼓動が早くなり、息が苦しくなってくる。


 いくら机の下の僕が何をしているか和水さんから直接見られることはないとはいえ、いつまでも出て来なければきっと不審に思われる。


 けど、そんなことは分かっているのだ。


 危ないと分かっていて、それでも僕は動けない。


 思い出しているのは、少し前の出来事。和水さんにポスター貼りを手伝ってもらった時の事だ。


 あの時僕は真下から和水さんのスカートの中を覗いていた。


 太ももに負けず劣らずの肉付きをした張りのいいお尻と、それを締め付けるような面積の少ない下着は、今でも一人になった時はすぐに思い出す。


 また見たい。


 今僕が考えられるのはそれだけだった。


 和水さんのパンツが、また見たい。


 パンツ。


 パンツ。


 馬鹿になったんじゃないかと思うくらいにそれしか考えられない。


 ポスター貼りをした時、もしかしたら和水さんは、僕が覗いていることを知っていたかもしれない。


 あの体制では見えていることは分かっていたと思うけれど、それでも僕は和水さんから何も言われることはなかった。


 どうしてなのかは分からない。分からないけれどもしかしたら、今回も何も言われないかもしれない。


 この前のように、僕に下着を見せつけてくれるかもしれない。


 そんな童貞特有の都合のいい妄想に脳が支配される。


 静かな教室の中で、時計の秒針の動く音だけが聞こえる。


 一秒、また一秒と秒針が時を刻む中、僕はずっとしゃがんだまま。


 もう何分経ってしまっただろうか。明らかにおかしいくらい僕は机の下でしゃがんでいる。


 流石にもう無理かと諦めかけ、何と言い訳をして顔を出そうかと考えた時、


「ぁ、ぁぁ……」


 僕の目の前で、ゆっくりと……和水さんが股を開いた。


 しゃがんでいる僕の目の前で、和水さんの脚がゆっくりと動き出す。


 組まれていた脚が、少しずつ左右に開いて行く。


 僕はその光景から目が離せない。


 一瞬たりとも見逃すまいと、瞬きすらしないように目を見開く。


 まるでスローモーションのような太ももの動きがじれったくて、思わず手を伸ばしてしまいたくなる。


 早く見たい。


 和水さんのパンツを早くみたい。


 脳がそんな下劣な思考に支配され、一気に自分の手で和水さんの太ももを押し開きたい衝動にかられた。


 でも我慢する。グッと拳を握りしめて、ゆっくりと開いて行くその様を見つめる。


 もう僕の心臓は思い切りダッシュをした時よりもうるさく脈打ち、血流が一気に早くなりすぎたせいで頭が痛くなっていた。


 ズキンズキンとした指すような痛みがあるけれど、それも興奮しすぎている今は苦にもならない。


 我慢して、グッと我慢して、そしてついに、僕は見た。


 和水さんのスカートの中の宝物。


 色は赤。面積の小さな布が太ももの間から顔を覗かせたのだ。


 その時、僕の興奮は最高潮に達していた。


 まるで身体全体が心臓になってしまったかと思うくらいに自分の鼓動がうるさい。頭もズキズキと痛んできているのに、それがまったく苦にならない。


 僕はそれだけ和水さんのパンツに集中していた。いや、執着していた。


 勝負は一瞬だ。和水さんがまた足を閉じてしまえば、童貞にとって何物にも代えがたい宝物はまた見えなくなってしまう。


 僕は少しでも和水さんのパンツを見続けるために、その脚が再び閉じてしまうまでの一瞬を精一杯目に焼き付けようと必死になっていた。




「……ぇ?」


 そんなくだらない決意を固めていた僕が、思わず声を漏らしてしまったのは、目の前でまったく予想もしていなかったことが起きたからだった。


 僕は今の状況を、丁度和水さんが脚を組みなおしているタイミングだと思っていた。


 だからこそ、すぐにまた脚を組まれてしまう前に、少しでもパンツをこの目に焼き付けようとしていたのだ。


 それがどうだろう。今目の前で起きていることが僕には本当に信じられない。


 和水さんの脚は閉じるどころか、徐々に徐々に、そのまま開いて行ったのだ。

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