第40話 吸血女王がお礼をする話
とある屋敷にある寝室のベッドで、スヤスヤと寝息を立てて眠る銀髪の美少女。
開け放たれていた窓から涼やかな朝の風が吹く。そよ風に乗って、銀糸のような美しい髪がサラサラと
差し込む朝陽が眩しかったのだろう。少し身じろぎしたあと、彼女はゆっくりと
「ここは……?」
クリッとした大きな赤色の瞳が、ベッドサイドに居た俺を見つめてくる。
「俺の屋敷の客室だ。……ってそうか。まず俺が誰なのかが分からないよな」
岩窟ダンジョンより帰還してから、既に3日が経っている。
俺達が交代でヴァニラを看病し、ようやく目を覚ましたのだが……はたしてこの状況をどう説明したら良いものか。
「
「ん? きょうしゅ……え?」
「あー、そうでした。ヴァニラ先輩はこういう人だったんでしたよね……」
「え? どういうことだ、ミカ」
長い
知らない単語を呟かれ、戸惑う俺を見たミカが隣りから助け舟を出してくれた。
「ジャトレさん。彼女は何て言うか、普段からこう……難しい言葉を好んで使う人なんです」
「わたし、口下手……四字熟語、喋るの少なくて楽……」
「口下手……そ、そうなのか……」
どうしよう、なんだか扱いが難しそうな奴がまた増えちまった気がする。なんでこう、俺の周りには変な奴らばっか集まって来るんだ?
ヴァニラも鎖から解放されたとはいえ、背中からヴァンパイアの羽根が生えたまんまだし。マトモな奴なんて一人もいないじゃないか。
「ま、まぁ覚えてるなら都合は良い。それでお前に聞きたいことが……うむっ!?」
「ちょっ!? 何してるんですかヴァニラ先輩!!」
「うみゅ……ちゅっ、ちゅるっ……」
な、何が起きているんだ!?
俺の顔面をいきなり小さな手でグイっと掴まれたと思ったら、口の中に何か柔らかいものが侵入してきた。
視界に映るのは、文字通り目と鼻の先にあるヴァニラの顔。俺と奴の目がバッチリ合ったまま、彼女のぬるぬるとした舌が俺の口内を蹂躙している。
舌を絡ませたり、吸われたり。歯茎を舐められたり……ってどうして俺は実況なんてしてるんだ!?
「先輩っ!! ジャトレさんから離れてくださいよぅ!!」
「じゅっ、じゅるるぅ……」
「も、もごもごっ! もがもがもがもごぉ~!!(た、たすけ……痛い痛いいたいっ!!)」
「やだぁあ! 私のジャトレさんにキスしないでぇえええ!!」
俺も必死で離れようとしているのだが、顔を掴む指の力がメチャクチャ強い。
ミカが引き剥がそうとヴァニラの身体を掴んで思いっきり引っ張るが、奴は意地でも俺の顔を放してくれない。むしろ俺の顔の皮が先に剥がれてしまいそうだ。
それにコイツ……なんでこんなキスが上手いんだよ!? 見た目ロリっ子なのに、このギャップはなんなんだ!?
あ、駄目だ。
頭がボーっとしてくる……。
「はぁ、はぁ……やっと離れてくれました……」
「いててて、マジで顔が持っていかれるかと思ったぜ……っていうかミカ。お前、どさくさに紛れて俺の頬にキスしただろ!?」
「え、えへへ……バレちゃいました?」
バレるも何も、あれだけ吸ってきたら分かるっつーの。吸うだけじゃなく、途中から調子に乗って犬みたいに舐め回しやがって。顔がベタベタじゃねぇか。
「あー、顔面がヒリヒリする。まったく、とんでもない目に遭ったぜ」
窓に映った自分の顔を見てみると、猫のヒゲみたいに指の跡がクッキリと残ってしまっている。こんなんじゃ恥ずかしくて今日は街に出れないな……。
「おい、ヴァニラ。いったい今のは何のつもりだ?」
「
「……はい?」
「先輩は助けてもらったお礼に、キスをしたらしいです……だからって酷いですよぅ。私だってチューはまだなのに……」
救ったって……ん、状況的にはそうなるのか? ダンジョンボスとして囚われだった身から解放したのは間違いないが。
……いやいや!? だからって、いきなりキスはないだろキスは。そもそもお礼がキスになるって理屈も分からねぇし!!
「
「……死者の骨に肉を付けて生き返らせるって意味ですね。それほどの窮地を救ってくれたお礼だそうです。……たぶん」
ミカは苦笑いをしているが、怒りの感情が隠しきれずに口元がヒクヒクとしている。
これ以上キスのことに触れると、彼女の理性がもたなそうだ。ミカに唇の方を奪われる前に、さっさと本題に移るとしよう。
「恩返しよりも俺は、どうしてヴァニラがあんな所に居たのかを教えて欲しいんだが。……こんな調子じゃ一向に話が進まないぜ」
ちなみに報酬の宝玉はまだ使っていない。
ミカの姉――魔天の行方の手掛かりさえ掴めれば、彼女は宝玉に願いを叶えてもらう必要が無くなる。
だからヴァニラに情報を聞くのを優先して、宝玉の使い道は保留にしてあるのだ。
「
「……ミカ、悪い。俺にはやはり、コイツの言っている事を理解するのは無理そうだ」
「あ、はい。えっと――」
幾度となく出てくる意味不明な単語をミカに解説してもらいつつ、俺達はヴァニラに何が起きたのかを知ることになった。
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