第37話 解けそうにない謎だけれど

内心慌てながらも桂木は郷田を止める。ずっとこの学校に通っていたとしても解けるような謎ではない。

とりあえず郷田は桂木が探偵だなんて考えもしない事だけはわかった。


「まぁ、とりあえずグッチーに書き込んでみようぜ。探偵には相談料なんてねーんだ。言うだけタダだろ」

「……そうだね相談料くらい取れば良いのに」


探偵をあまり強く否定する事も逆に避けたい桂木はぐっとこらえた。その間に郷田は立ち止まりグッチーに書き込んだ。


『探偵へ。四月に起きた、二組の野田を襲撃した犯人を見つけてほしい。野田は袋を被せられたから犯人の顔は見ていないが、三年の上履きを履いてたのは見たらしい。あいつは悪い事をしたかもしれないけど、暴力を振るわれる理由にはならない。お前ならきっと解ける謎だろ?』


その書き込みを読んだ桂木は深くため息をついた。郷田は探偵なら絶対解けるとでも思っているのだろう。しかし探偵は預言者やエスパーなどではない。わかっている情報からしか答えを導き出せない。

野田の様子を見た後なので解けるものなら解いてやりたい。しかしこれは解くことができない謎だ。

きっとまた、これを見て事情を知る花咲にはうるさく言われてしまうだろう。


しかしその花咲をうまく利用すれば、この謎は解けるかもしれない。その可能性に桂木は気づいていたのだった。





■■■




翌日、教室内とグッチー内ではその事件についての話で盛り上がっていた。


『野田の事件ってあれでしょ、リンチされたっていう』

『自業自得だろ』

『探偵だって解けないんじゃない?』

『そもそも野田が解いてほしがってるのか?』

『この依頼書き込んだの誰?』

『ああ、それは郷田だよ。あいつこういうのめちゃくちゃ嫌ってんもん』


どれが書き込みか、どれがリアルの言葉か。その境界があやふやになるまで、桂木は皆の言葉を注意深く聞いた。犯人のヒントがないか、探ってはいるが聞いた話ばかりだ。そもそも大勢はこの謎の解決を望んでいないようにも聞こえる。

そんなかんじに昼食の時間となり、桂木は祖母の作ったお弁当を広げた。


「野田襲撃事件の犯人ねぇ。まあ、野田みたいに足の速いやつが逃げ切れなかったってことは、速攻で足をやられたか不意をつかれたってところか」


少しは掴めそうな話が出たとおもえば、それは桂木の友人である田中のものだった。田中は前に探偵を名乗ろうとした事がある。結局は本物の探偵の推理を見て諦めたが、普段ライトノベルを読んでいるためそれなりの推理力はあるのだろう。なら、おだてればもっと話が出てくるかもしれない。


「すごいな、田中君。こんな推理ができるなんて。あ、でも野田君、足が速いの?」

「あいつ陸上部なんだ。それで高校のスポーツ推薦も取れそうで、でもあの足になっちまったからな。犯人側もそれ狙っていただろうから、狡猾極まりないぜ」


桂木がおだてればまるでライトノベルのキャラクターのように田中は語った。

野田が言うには袋を被せられどこかに連れて行かれたという。走りに自信があったとしても、視界を封じられた状態で全力疾走することは難しい。そもそも袋を自分で取り払う前に押さえつけられたはずだ。となるとやはり犯人は複数。そしてそろそろその犯人の一部は郷田の依頼について知るはずだ。

しかし今の所不審な動きをするものはいない。もしかしたら犯人全員が三組以外にいるため、まだ知らないこともあり得るが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る