三年三組の見えない探偵

第36話 同罪

郷田はそれを聞いてどう続ければいいのか少しだけ悩む。そして悩みながらも話しだした。

「俺はよ、自慢じゃねえが女子の事を悪く言ったことはないんだ。花咲の事をめちゃくちゃかわいいと思ってるけど、花咲以外の女子をディスるのは違うと思ってる」

「うん。郷田君は花咲さんしか見ていないよね」

「だから関係ない、とは言えねーんだけどな。俺だって男子が好き勝手言ってても注意しなかったんだからはたから見りゃ同罪だ。だから野田だけが責められるの、なんか違うと思う」

思っていた程悪い奴じゃない郷田はそう考えている。彼は花咲のことが好きだとしょっちゅうアピールしていて、花咲しか見えていない。だから他の女子の悪口は言わないのだが、他の男子を止めなかったからと反省している。

「野田の友達だった他の奴らは女子ディスるくらいでこんなに怒る方がおかしい、野田は運が悪かっただけって言ってたよ。でもそういう奴らは『こんなことぐらいで』って思ってるはずないんだよな。第一志望の面接では言わねーことなんだから」

「第一志望？」

「面接してる時、面接官をブスだのハズレだの言えねーだろ。俺にも言わないはずだ。あいつらは面接で落とされたり殴られると思うような言葉をわかってて女子には言ってんだ」

確かに目指したい学校の面接に行って悪態をつくものはいない。とくに美形というわけではない郷田も容姿をけなされた事はないが、それは皆が彼を恐れているだけだ。反撃にあうような言葉を反撃しない相手に投げかけている。それは郷田にとって許せないことなのだろう。

「ああいうのを弱い者いじめって言うんだ。野田がしたことはだめだけど、だからって足折られるのはおかしいだろ。それだって誰も味方のいない奴を狙った弱い者いじめだ」

「うん。そうだね」

どうやら郷田はとても正義感が強いらしい。こんなに恐れられる体格や態度だというのに、弱い者いじめを許さない。花咲が言い寄る彼をかわすものの嫌ってはいないというのも納得だ。花咲と郷田は少々おせっかいで強引なところも似ている。

「だから俺さ、野田の事、例の『見えない探偵』に解決してもらおうと思うんだ」

「へっ？」

「簡単に人を傷つけるような犯人を野放しにするわけにはいかない。解決すれば、野田の奴だって安心して学校に通えるようになるかもしれない。どうだ、名案だろ？」

いきいきと語る郷田の名案により、桂木にとってまずい展開となる。

見えない探偵こと桂木はとにかく目立ちたくはない。殺人犯の息子であることを、目立たない今知られるより、目立ってから知られる方が厄介だからだ。

なので本当は探偵としてネット上に現れるつもりはなかった。花咲の事件の時は早く帰りたかったから。偽物の時は自分まで探られたくはないから現れたのだ。今回の野田の事件は個人的に同情してしまうが、探偵をしようとは思わない。

そもそもこれは解けそうにない事件だ。

「桂木は転校してきたばっかだから襲撃事件について知らねーだろうけど、学校じゃ有名な話なんだよ。きっと探偵だって話に聞いたことがあるはず。ささっと解決してくれんだろ」

「ま、待って。野田君でさえ状況がわかっていないんだよ。さすがに情報がなければ探偵も解けないんじゃないかな？」