第14話 ネットを悪者にされたくない

誘拐犯のいない世界を作る方がいいはずなのに、なぜか幼い子供に気をつけるように言い、ネットを危険視する。それを花咲は不満に思っているのだろう。そこから田中のことに繋げる。


「だから私、なんでもネットのせいにされるの嫌だし、ネットで問題起きるのも嫌なの。今回もこれからもし田中君がいじめられるとしても、オンラインだけじゃなくてオフラインでもでしょ? そんでネットが悪者にされるの」

「そうかもしれない。でも、それならなんでこんなトラブルしかないような匿名チャットを?」

「前にも言ったよ。誰にも話せないってのは辛いことだって。桂木君もそう思って、黙ってなんていられなくて、匿名ならって謎を解いてくれたんでしょ。そういうこと、世の中いっぱいあると思うんだ」


花咲は最初、そのチャットを仲間内の受験愚痴吐き場にするつもりだった。しかし自分の私物がなくなって、少しでも情報を得たくてクラスメイト全員に公開した。事件が解決してからもそのチャットは残してある。桂木のような匿名でないと本音で話せない人が現れたときのためだ。

きっと桂木はさっさと帰るために事件を解いただけなのだろうが、もっとここを必要になるのではないかと花咲は考えている。


「私、アレも嫌いなんだよね。『ネットで実名を書かないのは卑怯だ』ってテレビの有名人が言うやつ。実名で本音を言わないってのは自分を守るためじゃん。頭のおかしい人を実名でちょっとでも悪く言えば恨まれて嫌がらせされて殺される事もありえるのにさ。有名人は発言力あってお金や人脈があって自分の身を守れるんだからそりゃ名乗れるよ」


桂木もそれには強く頷いた。彼も父親の姓のままなら殺人犯の息子扱いだ。いま普通に過ごせるのは母方の旧姓のおかげ。さらに転校生という立場ではクラスの事をとやかく言えるはずがない。だから匿名ならば推理を発表できた。


「もちろん匿名の意見なんてほとんどろくでもない言葉ばっかだよ。自分の安全を確保したなら実名で言えばいいと思うよ。でもなんでもかんでもネットのせいにするのが気に入らない。ネットだってリアルの一部で、それを廃止したって人間は変わらないんだから」


花咲はインターネットや人間のあり方について、深く考えているようだ。桂木も彼女のそんな一面に興味をひかれたことを思い出した。彼女もまた、匿名でなければいけなくなるような事が過去にあったのかもしれない。

彼女の強い決意に、桂木は少しだけ心を動かされた。


「……わかった、なんとかするよ。要は田中が探偵だと嘘をつかなくすればいいんだね?」


こういうところに花咲はつけこむのだろう、そう思いながらも桂木はため息をつく。もし田中が探偵だと名乗り出て、それが嘘だとバレたり目立ったりしていじめられたら、田中の友人である桂木としても他人事ではない。

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