第13話 『殺人事件 月白』で検索

呼び名とはその人物がどういう立場であるかをよく表す。同じクラスに同じ名前は在席させないという決まりがこの学校にあったかもしれないが、例外的に田中が二人になってしまった。しかも片方の田中は見ためがいい。となればもう片方の田中は『チビの田中』『イケメンじゃない方の田中』と呼ばれてしまう。花咲の言う『元藤島』はまだマシな呼び名だ。


「僕も親のしたことで母方の姓になって木だらけな名前になってしまったから、少しは気持ちはわかるよ」

「いや木だらけならいいじゃん大自然で。田中君の悩みなんもわかってないし。桂木君は前なんて名字だったの?」

「……月白」


月白樹。なるほどそれならいい名前だ、と花咲は納得し、それから記憶した。多分、桂木は母親の旧姓で月白は父親の姓だ。『殺人事件 月白』で検索すれば何があったかを知ることができるかもしれない。ちょうど珍しい名字なので調べやすい。

もちろん花咲はすぐに調べることもなく、話を戻す。


「ってやばいじゃん。田中君がもう桂木君に嘘ついてたなら、そのうちネットで『俺が探偵だ!』とか言い出しちゃう!」

「それの何がいけないんだ?」

「だって嘘だし、それがバレたらとか考えちゃうよ。男子も探偵をこの受験時に揉め事起こした奴として反感もってたりするし、最悪いじめとか起きるかも」

「名乗るからには責任が生まれる。それが偽りだとしてもその責任をとるべきだと思うけど」


桂木も責任がないから匿名で推理を書き込めた。その責任を田中が勝手に背負おうというのなら、桂木的には『どーぞどーぞ』だ。


「私は嫌なんだよ、ネットが原因で事件起きるの。そんなことのために愚痴吐き場を用意したわけじゃない。事件を起こさない使い方を考えたいの」

「確か、君はネットとかこういうことが得意なんだっけ」

「うん、そう。写真や動画を撮って共有したりするのに便利なの探したり、友達と話してるとこにおじさんが絡んでこないSNSとか探して。お父さんもそういう仕事してる人だから詳しくなったんだよね」


女子だから機械は苦手という印象は間違いなのかもしれない。花咲は自分がやりたいことをするためにひたすら技術や知識を磨いていたのだろう。だからそれを悪用した事件が起きるのは避けたい。


「よくさ、『女の子がネットで知り合った成人男性に会いに行って誘拐される』みたいな事件はあるけど、それをネットのせいにしてほしくないんだよね。だって女の子を誘拐しようだなんて大人、いつでもどこでもいるし」

「……それはそうだな。僕も子供のころ、そういう大人が公園にいて声をかけられたことがある」

「うん、小さいと男子も危ないよね。でもなんでかネットの話になるとネットが悪いって事になるよね。子供に知らない大人と連絡を取り合うな、って子供に言うの。大人に誘拐やめろって言ったりしないの」



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