第11話 引きずりこむ

「郷田とか強い奴に言い寄られてもまったくなびかないとこもいいよな。郷田ざまぁ」


花咲はかなりモテるらしい。うさぎのような髪型に、ブラウスの下にはいつも派手な色のキャミソールが透けている。短いスカートに明らかに学校指定じゃない靴下。そんな見た目の派手さもある。

しかし派手さに隠れて一見気付きにくいが、優れた容姿に善良すぎる性格で人気らしい。今は郷田という強い男子に好かれているためおおっぴらには言いよる者はいないが、かなりの男子生徒の心を奪っているのかもしれない。

そんな目立つ人物の視線の先が自分に向いていると気付き、桂木はぞっとした。これではいつか花咲と桂木の仲を怪しむものも現れるだろう。


「実はさ、最近気づいたんだけど、花咲さん、俺の事気にしてると思うんだ」

「………………うん?」


しばらく桂木はいつもの目立たないよう振る舞うことを忘れていた。田中は口を開けば愚痴ばかり。背は低く、愛嬌ある顔だが美形とは言い難い。

しかし先程からの花咲の視線でそう思ったのだろう。実際は桂木を見ているのに、桂木と一緒に行動している田中は『俺を見ている……!』と勘違いしたのかもしれない。

それは桂木にとってありがたい勘違いだった。


「いや、実は俺、この間の『見えない探偵』だったんだよ。それで花咲、俺の事気にしてんじゃないかなぁって。ほら、あの愚痴吐き場のルーム作ったのって花咲だし、事件の被害者も花咲なんだからさ」

「なるほど」

「なるほど?」

「いや、大丈夫。君が見えない探偵なんだね。びっくりした。続けて?」

「お、おう……」


桂木の反応が思っていたものと違う事に田中は一時戸惑う。しかしずっと話したいことだったのだろう。それから休み時間中、田中は己が『見えない探偵』であることをすらすら語るのだった。

桂木には田中が何を考えているのかさっぱりわからない。しかし彼が探偵を名乗り花咲の気を引きたいということはわかった。

それもまた、本物の『見えない探偵』であり目立つわけにはいかない桂木にはありがたい勘違いだった。





■■■






「桂木君、今ちょっといい?」

「花咲さん、そう聞く前に人さらいみたいなことをするのはどうかと思うよ」


放課後、桂木は無理矢理図書室に急に引きずりこまれた。引きずったのは花咲である。正直いくら細みの桂木でも女子の腕なら抵抗できなくもないのだが、抵抗して目立つことを恐れた彼はあっさり引きずられることにしたのだった。

図書室には誰もいないし電気もつけていない。今日は開放日ではなく、そこを計算して花咲も鍵をあけて引きずりこんだのだろう。


「だって桂木君、私が話しかけたら迷惑そうにするでしょ。目があっても反応しないし」

「実際迷惑だ。……もう僕の親の事は言いふらしていいから、構うのはやめて欲しい。君は目立つんだから、最悪な形でバレてしまうのだけは避けたい」


桂木が目立ちたくないのは、殺人犯の息子であることをバレたくないためだ。厳密に言うとひどい対応には慣れているのでバレても構わない。せいぜい無視か陰口程度だろう。

しかし花咲のような目立つ者に絡まれてから、父親の事がバレればよりひどい扱いを受けると予想できる。きっと『人殺しの息子のくせに人気の花咲といちゃつくなんて生意気だ』と花咲を慕う男子に攻撃される。

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