偽物の探偵
第10話 秘密の関係
桂木樹は目立たない生徒であった。
まだ中学生らしい身長は男子の平均。成長期らしい細い体に、涼し気な目元。振る舞い次第では目立つかもしれない整った容姿だ。しかし本人はそれを望まない。
何も主張をせず、反応は大衆に合わせる。意見を求められれば答えるけれどありふれた言葉しか返さない。皆が笑っている場で笑い、皆が黙っている時は絶対に口を開かない。
積極的ではないがそれだけ浮かない努力をしていれば孤立はしない。転校してしばらくはすればよく喋る友人もできている。その友人は田中と言う。
「やっぱりさぁ、今おすすめなのは『俺は本当はすごいのに周囲の奴らはわかってくれなくて追放されたから敵対するけどもう遅い』だよね。桂木も読んで見なよ。WEB小説だからただで読めるよ」
「そっか。ただなら読んで見ようかな」
目立たないためならば休憩中、そんな雑談にも応じる。桂木はまるで興味の持てるタイトルではなかったが、少しは心動かされたかのような声で答えた。ここはきっとこう答えるのが正解だ。田中は語りたいだけなので桂木が読むと言えばそれで満足するだろう。『読みたくない』なんて言えば田中の中で強く記憶が残ってしまう。
そんな目立たない生活を心がけていた桂木だが、最近失敗した。
匿名だからいいやと書き込んだWEB上で推理をし、その推理をしたものだであると目立つクラスメイト、花咲華には見抜かれたのだった。
今も背後から強い視線が刺さっているように桂木は思う。振り返ればやはり花咲がこちらを見ていた。強気にも見える瞳がこちらに向けられて、桂木と視線がぶつかればにぱっと豪快に笑う。
クラスで一番目立つ彼女に強く記憶されたことは、桂木にとって大失敗だった。
「は、花咲さん、今こっち見てたよな?」
「……気のせいだろ。ああいう女は誰にもいい顔をするんだ」
花咲の笑顔という流れ弾に田中の心は撃ち抜かれたようで、彼は頬を赤くしていた。田中は花咲が桂木に強い関心がある事に気付いていないらしい。それは桂木にとっては幸いで、彼はわざと花咲について冷たく言うのだった。
「なんだよ、桂木。そりゃあ転校生のお前からして見れば花咲ってただのギャルでこえーかもしれないけどさ。めちゃくちゃ性格いいんだぜ」
それは桂木もよく知っている。人殺しの息子と知り合ったというのにそれを言いふらさず、偏見のない視線を向けている。怖いくらいの善人だ。
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