第117話 結婚式
この国の結婚式は、教会で皆に祝福されながら行う。リンの国みたいにウェディングドレスは白じゃなく、様々な色合いだ。夫の色に合わせたりするらしい。
誓いのキスをするのも一緒。指輪交換とか、ブーケトスは無いらしい。
なんでそんな話が出たかというと…話は1ヶ月前に遡る。
たまたま私の付き添いで一緒に買い物をしていたルーミアさん。街角の教会で結婚式をしていました。
「お嫁さん、綺麗ですね」
「そうね、私も結婚式したかったわ」
「…はい?」
「憧れじゃない?結婚式」
「憧れですが、結婚式してないの?」
ルーミアさんは照れたように笑った。
「2人きりで誓いはしたわ」
「そうですか。確かに結婚式は乙女の夢ですよね」
「でしょう?さすがはロザリンドちゃん」
誓いとはいわゆる略式で、教会に夫婦が誓いをたてるもの。私はルーミアさんと結婚式の話題で盛り上がり、キャッキャしながら帰宅しました。そしてルーミアさんが離れに帰宅後、緊急案件だからとふがいない従僕を呼び出し、家族を召集して緊急会議をいたしました。
「突然ですが、ルーミアさんとジェラルディンさんの結婚式をしたいと思います」
「主、俺達は誓いをしたぞ?」
「馬鹿者ぉぉ!!」
私は戦乙女のハリセンで愚かな英雄を吹っ飛ばした。
「結婚式は乙女の夢!愛するつがいが切なげな瞳で結婚式したかったなぁって言っていたんですよ!従僕の不始末は主の不始末!ふがいない従僕に代わり、この私がわざわざ手配してやったというのに!嘆かわしい!」
「いや、お嬢様…ジェラルディンさんはその辺りの事情知らねーだろうし、そういうの明らかに疎いタイプだろ」
怒る私をアークが宥めるが、私の怒りはおさまらない。
「疎くても許されん!有罪です!ギルティです!」
「なんで言い方変えて2回言った!?」
「大事なことだからです!とにかく、結婚式をします!」
「…ふむ。式場は大聖堂でいいか?」
沈黙していた父が、不意に口を開いた。
「結婚祝いが家では足りないと思っていた。ちょうどいい」
「あら、大聖堂じゃ大きすぎるわ。他の貴族は呼ばなくてもいいし、身内だけのものでいいのでは?」
「母様大好き!」
うん!私が考えていたのはそういう奴ですよ!ルーミアさんは貴族じゃないし、身内に祝福されるこじんまりとした結婚式…素敵です!
「ふむ、ではその方向でいくか。マーサ、式場とドレスの手配を頼めるか?」
「喜んで承ります」
マーサも乗り気ですね。
「ありがとう、マーサ。私からもお願いします」
「お嬢様の御心のままに。必ずや最高の式場とドレスを確保いたします!」
「あ、ドレスは私も作りたいわ。2週間あれば頑張ればできるかしら…」
「おお…さすがは母様。私、デザイン案があるんですが」
「あら、じゃあ私とロザリンドの合作ね」
茶目っ気たっぷりに母はウインクする。母可愛い!我が母ながら見とれてしまいます。
「僕は式場が決まり次第、教会の飾りを子供達としようかな。花がたくさんあった方がいいよね」
「兄様、ぜひともお願いします!そして結婚式に欠かせない、作っていただきたいモノがあります!」
「うん?…なるほど任せて。作れると思うよ」
「俺は何をしたら…」
「最愛のつがいに贈る言葉を考えておいてください。それから、結婚式後の食事会用のスペシャル食材狩りに行きますよ。後、ウルファネアの身内に招待状出してみますかね。返事が来ればラッキーぐらいの気持ちで」
「…いいのか?」
「できれば、信頼できる身内のみにして欲しいですかね」
「2人、呼びたい」
「解りました」
そして、私は子供達にも協力を要請しました。
「…というわけで、ルーミアさんの結婚式をするから、皆の任務はルーミアさんにばれないようにすることです」
「わかった!マリーがんばる!」
「僕も、がんばるね」
「……(こくこく)」
マリー、ポッチ、ネックスは快諾。うちの子供達はいい子です!
あれ、ジェンド固まってる。
「ジェンド?」
「ありがとう、ロザリンド」
「うん?」
「母さん、きっとよろこぶ。花嫁さんをうらやましそうに見てたの、知ってたから。でも、自分じゃ何もできなくて…だからありがとう」
「ふふ、これからジェンドも仲間になるんだから、私がしてあげるんじゃなくて、共犯なのだよ」
「きょうはん?」
「そう!ジェンドも仲間!皆でルーミアさんを喜ばせるぞ!」
「「「おー!」」」
子供達は本当に優秀で、ルーミアさんは計画に全く気がつきませんでした。特にジェンドの演技力が…!あの若さであのあざとさ…末恐ろしい子です!
さて、あっという間に結婚式当日。何も知らないルーミアさんをジェンドがエスコートです。
控室にはマーサとラビーシャちゃん、私、母。そして美容セット&化粧品セット。
「じゃ、母さんはお願いします」
「任されましたわ」
「任せといて!」
「頼もしいですね。では、やりますか」
「そうねぇ、時間もあんまりないし、がんばりましょうね」
「え?何?ロザリンドちゃん、何?」
ルーミアさんはあわあわしていますが、まず美容液を塗り込みマッサージ。その間にマーサ&ラビーシャちゃんが髪を結い上げます。
さらにマーサがメイクを施しドレスを着付け、アクセサリーを合わせていく。
仕上げにマリアベールを被せて完成!ちなみにミス・バタフライに無理言って作ってもらった特注品です。ドレスは清楚な純白のマーメイドラインドレス。細かな刺繍が美しく、品のある仕上がりで母との合作である。
「こちらでは花嫁衣装で白は珍しいのですが、リンの故郷では夫の色に染まるという意味で純白のドレスを着るんです。よくお似合いですよ。ジェンド、父様!エスコートよろしく!」
「うわあ、母さんきれい!」
「ふむ。よく似合うな。父に代わり私がエスコートしよう。行くぞ」
「あの…これ…」
「ロザリンドが手配した。お前とジェラルディン殿の結婚式だ。…まだ泣くには早い。化粧が崩れるぞ」
「はい、これ。誓いのキスの後で投げてくださいね」
兄特製の白薔薇のブーケを渡す。私のイメージ通りの素晴らしい仕上がりです。
「…ありがとう」
「泣くのは終わってからにしてくださいね。勝手に企画してすいません。私だけではなく、皆が協力してくださいました。楽しんでください、ルーミアさん」
「…ええ!」
ルーミアさんの笑顔はとても素敵でした。
父がエスコートし、ジェンドとマリーが後ろのヴェールを持つ。更にポッチとネックスが後ろから花を撒く。
教会の中には神父様と礼服姿のジェラルディンさん。いやぁ、磨くとやはり輝きますな。王様のような気品と佇まい。優雅で洗練されながら、勇壮さを兼ね備えたジェラルディンさんが、父とエスコートを交代する。
「素敵…」
すっかり自分の夫に見とれたルーミアさん。いや、よく見たらジェラルディンさんもデレデレしてる。仲良しで何よりです。
誓いの言葉はリン達と変わらないんだなーと眺めていたら、右手を握られた。
「ディルク?」
「俺達も、いつか結婚式をしようね」
「…あ、うん」
不意打ちは止めて!今、私完全に油断してたから!
いやぁぁぁ!紺色ベースの礼服に前髪を上げて大人っぽくかつカッコイイディルク様に頬を赤らめて結婚しようとか…頑張った私にご褒美ですね!神様ありがとう!
とりあえず、手汗が気になる私ですがディルクは手を握ったままです。
「では、誓いのキスを」
やべ、ディルクに気を取られて誓いを半分見逃した!
ジェラルディンさんがマリアベールを外し、ルーミアさんにキスをする。沸き上がる拍手。
「皆、行くよ!」
私の精霊さん達が、同時に魔法を放った。全属性同時同調魔法。一瞬で教会は虹色に輝く花に包まれ、虹色の花びらが舞い落ちる
ちなみに一応招待してた賢者にこの後先程の魔法のせいでもう弟子名乗るのやめてよ!僕より魔法上手いんだから!とキレられました。甘味でごまかしました。いや、魔具制作は賢者のが上です。
「綺麗…」
皆さん喜んだようで何よりです。
「ブーケ、投げます!」
ルーミアさんが投げたブーケは、私の手に落ちた。
「あれ?」
ということは、私が次の花嫁かしら。
「この花束、何か意味があるの?」
「花嫁が投げた花束を受けとった人が次の花嫁になれるというジンクスがあるんです。先程改めてプロポーズされましたし、次の花嫁は私ですかねぇ」
「プロポーズ!?あ、あれは…ロザリンド嬢、あと数年したら私と結婚していただけますか?」
「はい、喜んで。一生かけて幸せにします」
私はにっこり笑って返事をした。
「…それは俺の台詞なんじゃないかな?」
「私はディルクが居るだけで勝手に幸せになる自信があります。なので間違ってません。でも、そうですね。一生私のそばにいて、一生私を幸せにしてください」
「うん。約束」
お互い笑いあいました。幸せです。
「ジェンド…仕方ないよ」
「諦めたら?」
「ポッチ、マリー、うるさい!」
子供達のそんな声が聞こえました。イチャイチャを見られてた!
若干気まずい思いをしつつ、花嫁はお色直しに別室へ移動。次は食事会です。
ちなみに私達が咲かせた虹色の輝く花は撤去しようとしたら神父様がそのままでいいというのでそのままになりました。
この教会は虹色の神の奇跡に彩られた教会として有名になったと後日知りました。
え?ただの全属性魔法ですよ!?と思いましたが…まぁ、水をさすこともないかと放置しました。特に夜は虹色に輝く花が美しく、王都で人気の教会になったそうです。
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