第113話 市場に行こう

 うららかな春の日差しの中、私はひなたぼっこしつつ本を読んでいました。なにやら視線を感じる。ジェンドとポッチとネックスとマリーです。




「…どうしたのかな?」




「ロザリンド、遊ぼ!」




 皆を代表してジェンドが言いました。ジェンドは最近お姉ちゃん呼びをやめ、対等であろうとしています。


 可愛い子供達から遊ぼうビームを受け、遊ぶことにしました。




「お前ら、手伝いはどーすんだ?」




 しばらく子供達と遊んでいると、ゲータがやって来ました。




「あ、忘れてた!」




「ロザリンドも行こうよ」




「お姉ちゃん、一緒…」




「……(くいくい)」




 マリー、ジェンド、ポッチがそれぞれ話し、ネックスは私の袖を引いた。


 どうでもいいけど、この数ヶ月で子供達は私の身長を越えてしまった。恐るべき成長期!特にジェンド!最近寝てると骨がギシギシいうらしいです。




 子供達は兄の植物買いつけの荷物持ちアルバイトをするらしいです。帰りにおだちんでお菓子を買って帰るとのこと。私も同行することにしたら、ラビーシャちゃんも護衛としてついて来ました。












「わぁ…」




 市場はとても賑わっていて、様々な物が並んでいます。ここは王都最大の市場で、大概のものは手に入るらしい。




「お姉ちゃん、手を繋ごう」




「え?」




「迷子防止だね。頼んだよ、マリー」




 兄からもお願いされ、マリーは任せて!お姉ちゃんを迷子にしないよと誇らしげです。なんという信頼のない私。建国祭で迷子になったので何も言えません。マリーに手を引かれ、キョロキョロしながら歩きます。見回りに来たことはあるけど、じっくり見たことはないなぁ。




『たすけて…』




「え?」




 喧騒の中、かすかに声が聞こえた。弱々しい、助けを求める声だ。




「お姉ちゃん?」




「聞こえる…」




『くるしい…』




 かすかに、だが子供が泣いている。悲痛な声に、なんとかしたいと思った。




「お姉ちゃん?」




「マリー、子供が泣いてる」




「え?…マリー聞こえないよ?ラビーシャ!ラビーシャ!」




「…私も聞こえませんよ?」




 ラビーシャちゃんも私が指差す方向に耳を傾けるが、聞こえないと言う。なかなか来ない私達に、兄達も戻ってきた。




「…ロザリンドはその声が気になるんだね?」




「…はい」




 気になる。泣いてるなら助けたい。弱った子供の声が今も私には聞こえている。行かなきゃ!




「私、どうしても気になります。兄様…お願い!」




「ラビーシャ、ついて行って。ロザリンド、無茶しないと約束して」




「「はい!」」




 兄の許可を得て、私とラビーシャちゃんは駆け出した。


 少しずつ声は近くなり…これは…檻?




「ここは…魔獣をペットとして売る店ですね」




 ゲーム内でも育成要素があり、狩った魔物を素材として食べさせて強化・育成してました。育てました。リンも育てましたよ。ちなみにリンの魔獣はケサランパサランというもふもふ毛玉でしたが、超強くなりましてSクラスモンスターも単独撃破出来るという鬼畜毛玉でした。名前はもふ丸でした。


 魔物と魔獣の差はその知性にあります。きちんとしつければ魔獣は人を襲わず、種類によっては騎乗可能です。うちのもふ丸も騎乗可能でした。




「私を呼ぶのはあなた?」




 私は檻のひとつにしゃがみこんだ。檻の中には、水色の金魚がいた。くったりと檻に寝そべっている。




『たすけて…おみずがほしいの…』




「おや、お客様お目が高い!これは珍しい魔獣でして…」




「どの辺りがですか?」




 ラビーシャちゃんの瞳がキラリと光った。




「こんな小さな魔獣…騎乗もできませんし弱っているようですし…安くなりますよね?」




 ラビーシャちゃんは値切るつもりらしい。値段交渉はラビーシャちゃんに任せ、私はこっそり魔法で水色の金魚さんに魔法でお水を出して飲ませた。




「大丈夫?もっといる?」




『うん…ありがとう、おいしい』




 お魚も笑うんだなぁ。手の平サイズだし可愛い。




『おねえちゃん、おねがいがあるの』




「お嬢様!やりました!」




 やり切った笑顔のラビーシャちゃん。半額まで値切ったらしい。流石です。




「では、これで」




 最近お金を宝石に換金している私。重たくないし、高額取引するときは便利です。




「ラビーシャ、この中に欲しい魔獣は居るかしら?好きなものを買ってあげるわ。この宝石なら、ここの魔獣は全部買えるわよね?」




「お嬢様!?」




「ごめんね、ラビーシャちゃん、合わせて」




 声を潜めた私に即座に合わせる我が家の女優さん。




「さすがはお嬢様ですわ!当然移送はサービスしますよね?その宝石ひとつで屋敷が買えましてよ?」




 ラビーシャちゃんは移送費用を交渉しだした。私はこっそり金魚を檻から出して水球を作り入れてやった。




「気持ちいい?」




『うん!ありがとう!』




 水球を泳ぐ金魚は元気そうで何より。




 しかし、頭が痛い。兄に無茶しないと約束したが、無茶せざるを得ないレベルでまずいことになった。無邪気な水色金魚は、私にとんでもないお願いをいたしました。














 屋敷に帰ると、先ず自由な風とマーサに情報収集を依頼。ディルクを通して騎士団にも情報を流した。




 魔獣達は帰る場所が解るものはコウに逃がしてもらうことにした。水色金魚が言うには、ロクに餌も水も与えられず劣悪な環境に居たらしい。




 まずいのは、その中にクリスタルドラゴンの子供が居る事だ。闇で高額取引が出来るが、ドラゴンはまずい。特にクリスタルドラゴンは群れなのだ。人間とは不可侵条約を結んでいるが、今回の事がばれたらクリスタルドラゴン対人間の全面戦争になりかねない。




「クリスタルドラゴンのルランが居たんだよね?」




『うん。わたしたちをたすけようとしてつかまったの』




 ルランはクリスタルドラゴンの里で知り合った子供ドラゴンだ。私は友達になった。




「ルランはどうして人里の近くに来たかわかる?」




『ともだちにあいにきたっていってた』




 それ私か?私だよね?私のせいかぁぁぁ!最近クリスタルドラゴンに会いに来た人間なんて私ぐらいだよね!?頭を抱えた私に、呆れた兄が話しかけた。




「ロザリンドは僕らとお出かけすると本当に何かしら起こすよね」




「そんなこと…ないもん」




「ピクニック2回」




「う」




「迷子」




「うう」




「そして今回」




「わざとじゃなぁぁぁい!」




 私の悲しい叫びがこだました。しかし叫んでもどうにもならん!私は出来る最善を尽くすだけだ!




「お姉ちゃん」




「コウ、どうしたの?」




 予想より帰還が早い。あれ?魔獣減ってなくね?




「皆お姉ちゃんに恩返ししたいって。恩返ししてからじゃないと帰れないって」




「え」




 律儀だな、魔獣!




「あ、ならルラン奪還作戦に協力して欲しい!お願いできるかな?」




 魔獣達は頷き、私の指示を待つ。




「皆やるって。ルランって…クリスタルドラゴンのルラン?」




「うん。捕まったらしいの。コウも協力してね。どうせなら一網打尽にしてくれるわ!!」


















 魔獣商人を潰すのは簡単ですが、買う馬鹿が居るから商人は仕入れるわけです。雑草は根っこまで抜くのが鉄則!というわけで、闇オークションに乗り込む事に。しかも闇オークションは翌日。時間はないがルランが心配だから、そちらの意味では逆に都合がいい。




 先行投資でかなり高額の宝石で支払っただけあって、商人はアッサリと私を闇オークションに案内した。余分に出したかいはあったね。




 会場には身なりのいい人間ばかり。金と暇を持て余した馬鹿どもめ!ぶっ潰す!私の友達に手を出したのが運の尽き!既に会場には騎士と自由な風、ジェラルディンさんだけでなく、私が雇った高ランクの冒険者が配備されてます!逃がさないからね!




「レディース&ジェントルマン!皆様ようこそおいでくださいました!」




 私はそっと会場から抜ける。魔法で足音も姿も消した。




「闇様ー」




「ふむ、任せよ」




 会場の裏方にいる人間を次々に眠らせる。そして、檻の中にルランを見つけだした。




「ルラン!酷い…」




 ルランは酷い怪我をさせられていた。もっと早く来るべきだった。余計なことは考えず、助けるべきだっただろうか。後悔で涙を流しながらも私はルランを治す。




「お前…ロザリンドか」




「助けに来たよ!逃げよう!」




「ダメだ」




「ルラン!?」




「他の魔獣も逃がさなきゃ…」




「さすがはルランだね!大丈夫、私が助けるよ!」




「…わかった。ありがとう、ロザリンド。泣くな。大丈夫だ。ドラゴンは強い」




「遅くなってごめん」




「いや、早かったぐらいだ」




 ルランは納得してくれた。魔法も効き、特に問題なさそうだ。水色金魚さんもルランとの再会を喜び、お礼を言っている。ほのぼのしたところで…皆の首尾はどうかな?




「コウ、コウ…どこ?」




「ここだよ。檻は全部開けて大丈夫。皆が説得してくれたよ。かなり時間かかったけどね」




「ありがとう、皆」




 私が買った魔獣達にオークションに出される魔獣達の説得を頼んでいたのだ。檻を開けたら大暴れとか困るしね。商人の匂いを辿り、彼らは先にここでずっと説得をしてくれていた。


 檻から放たれた魔獣達は、皆逃げ出したが…あれ?水色金魚さんは逃げません。




『わたし、かえれない。おうち、ないの。わたし、なかまいないの。いたんだから』




「なら、うちの子になりなさい」




『うん!』




「名前は?」




『ないの』




「じゃあ、クーリンはどうかな?」




 アクアマリンのような鱗だし。水色金魚のクーリンは気に入ったらしく、嬉しそうに輝き…あれ?光ったよ?人魚に妖精さんみたいな羽がついた姿になったよ?まさか…まさか…




「お姉ちゃん…その子、ぼくと同じだよ?」




「よろしくね、おねえちゃん!」




 クーリンは水の精霊とバハムート…この世界最高ランク魚系モンスターのお子さんだそうです。大きく育ちそうですね。船よりでかいんだよ、バハムートって。


 私は、私は学習しない女です!そういえば、この子の声は私にしか聞こえてなかったじゃないか!コウ達ドラゴンは無駄にバイリンガルだからともかく…コウと同じパターンじゃないかぁぁ!




「えええええええ!?」




「ロザリンドって頭いいけどアホだよな」




 ルラン酷くない?抜けてる自覚はあるよ!うわぁん!




「おれも暫く里には帰れないな。置いてくれ」




「え?」




「呪いだ。でなければ幼いとはいえドラゴンがやすやすと捕まると思うか?呪いをかけたのは獣人だが、これがばれれば里のドラゴンが怒り狂うだろう。それはおれの本意ではない。かけた相手を倒すだけならともかく、人間とドラゴンの全面戦争に発展しかねない」




 ルランは私に呪いの紋を見せた。嫌な感じがする。




「弱体化か…」




 最近勉強したし、これなら私でもいけるかな?柔らかい光が呪いの鎖を解いていく。アリサの魔力を思い出しながら…パキン、とナニカが割れる音がした。




「解けた」




「は?」




「お姉ちゃん…」




 呆然とするルラン。呆れた様子のコウ。よくわかってない私とクーリン。しかし確かに呪いの紋は消え去った。




「お姉ちゃんはやっぱりきかくがいなんだね。普通ドラゴンがとけない呪いを人間が簡単にといたりしないよ」




「あ、いや、手本アリサがいるし」




「アリサは浄化特化だからできて当たり前だよ」




「…アリサの加護あるし!」




「あってもおかしいと思う」




「コウが反抗期!お姉ちゃん悲しい!」




「お姉ちゃん、残念ながら事実だから」




「まぁ、ロザリンドが色々おかしいのは今さらだ。そもそも普通の女は菓子折り持ってドラゴンの里に来ないだろ」




「「……」」




 なんという説得力。一瞬納得しかけてしまった。




「いや、話し合いで解決出来るならそれでいいじゃない!甘いモノは心を和ませるんだよ!」




「「ドラゴンにそれが通じると思う感性がおかしいんだよ」」




「コウがいたし、大丈夫かなと」




「度胸がありすぎだろ…捕まったおれをためらいなく助けに来るお人よしだしなぁ」




「馬鹿ですか?窮地の友人を助けるのは当然です」




「そうか」




 ルランは柔らかく笑った。ドラゴンて笑うと愛嬌あるよね。




「それから、ルラン。貴方に呪いをかけた男について詳しく聞きたい。多分私が探している相手なんです」




「わかった」




「さて」




 私は通信魔具を起動させる。




「強制起動!目標は無事確保!総員、作戦開始!」




「今のは?」




「違法な買い物をしにきた馬鹿を一網打尽にしてねと言いました。騎士と有能な冒険者から逃げられるわけないです」




 予定通り闇オークションは主催者から顧客まで、ばっちり捕獲したとルドルフさんから後日報告と感謝状をいただきました。


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