第111話 体育祭の裏側・騎士団との関わり

 今日は午前中は授業、午後は騎士団でお仕事です。私、ミルフィ、アルディン様の1年メンバーでランチになりました。




 アルディン様やミルフィのお弁当とおかずを交換しつつ、まったりタイムです。




「そういや、アルディン様はなんで優勝したかったんですか?」




「ああ、ロザリンドやミルフィリア嬢は飛び級で来年にはこの学校からいなくなるだろう?だからせっかくなら同じ学年の間に思い出が欲しくてな」




「「あー」」




 頷く私達。さりげなくミルフィも飛び級組なんですよね。そういや、兄様達には言ったけど、アルディン様には言ってなかったな。




「私達は来年卒業せず6年になる予定なんですよ」




「え?」




「兄様達と同学年もどうかなーと思いまして。ちょうど夏休みの宿題免除ですし、アルディン様なら頑張れば来年も同じクラスになれるのでは?城の家庭教師は優秀でしょうし」




「ああ!頑張る!勉強は苦手だが、今後も必要だし、きっと追いつくからな!」




「お待ちしています。1年だけね…アルディン様は努力ができる方です。追いつくと信じていますよ」




「約束だ!俺も来年、6年になる!」




「ふふ、では来年もまた3人でご飯を食べましょう」




 自然と全員笑顔になった。




「おーし、じゃスケジュール詰めなきゃな」




「さすがはロザリンドね、主がやる気なうちに家庭教師も押さえとくわよー」




「う…」




 やっぱり勉強は不得手なのか、明らかに表情が曇るアルディン様。




「アデイルとヒューから頑張ってる報告があればスフレの差し入れしてあげますよ」




「よし!やるぞ!」




「すっかり王族の胃袋掴んだわよね…」




 呆れた様子のアデイルの台詞は聞かなかったことにしました。ついでにテストの傾向と対策も考えるかな。




「そういえば、旅行はどこになるんですの?」




「まだ未定だったはずだな。希望はあるか?今なら多少の無茶は通せるかもな」




「では私はウルファネア希望で」




「ウルファネアか。行ったことが無いな」




「まぁ…ロザリンドはモフモフが好きですものね。獣人の国なんて、もはや天国ですわよね」




 何も知らない2人は普通に対応しているが、アデイルとヒューは親の仇かというぐらい睨んでいる。




「ロザリンド…ちょっと」




「叱られる気配しかしないんで、嫌です」




 超笑顔だけど目が笑ってないもん。説教でしょ?嫌ですよ。私は声を潜めた。




「…さすがに今おおっぴらにどうこう出来ないでしょうし、向こうがどうなってるのか自分の目で見たいんですよ。一応考えてますって」




「アルディン様を危険にさらしたりは…」




「絶対しない。上手くやってるみたいで何より。暗殺者より、騎士向いてんじゃない?」




「「かもな」」




 双子はよく似た笑みを浮かべた。




「ま、実際どうなるかはわかりませんし、ただの国内旅行になる可能性もありますから」




「「そうあって欲しいがな」」




 そんな会話をして、昼休みは終了した。ちなみに旅行は夏休み明けの秋頃になるらしいです。
















 もう通い慣れた騎士団に行き、ドーベルさんに話しかけた。




「ドーベルさん、私は夏休み明けから魔法院に行こうと思います」




「…そうですか。もうここで貴女がすべきことはほぼ終わっていますしね。あまり危ないことはしないでくださいね。いつでもこちらに戻ってきてください。微力ながら、出来る範囲で僕もお手伝いしますよ」




「ふふ、ありがとうございます」




 彼はどこまで知っていたのでしょうか。今の感じだと、多分ルドルフさん辺りから内通者探しで来てることを聞いていたのかも。なら、私が色々な理由で資料室に入っていたことを咎めず、カーティスにさらわれた時大騒動になったのも頷ける。




 優しい空気の中、私は仕事を始めるのでした。












 しかし、平穏は長くは続かなかった。




「嬢ちゃん!祝勝会すんぞ!」




「…ロザリンドさん。僕は団長とよぉく話をしてきます」




「はーい、いい子でお仕事してまーす」




 ドーベルさんは小柄な体格に似合わぬ怪力でルドルフさんを引きずって行きました。仕事中に誘うなよ、と思ったので私も成仏しろよとジェスチャーしてから仕事を再開しました。






 数分後。








「団長にはよぉくよぉぉく話しておきました。今日は仕事後に祝勝会ですが、予定は大丈夫ですか?」




「あ、はい。家に連絡すれば大丈夫です」




「こちらで手配します」




「…ドーベルさん」




「はい?」




「…拳で語らった系ですか?」




「ふふっそんな感じですね」




 いや、ふふって…聞かなかったことにしよう。最近私のスルースキルが上がりまくってる気がします。
















「お、来たな主役!」




 仕事が終わって食堂に行ったら、既に宴会ムードでした。




「お疲れ様、ロザリンド」




「…え?」




 ディルクが騎士服ではありません。以前買ったウルファネアの服を着ています。濃紺に白い蓮の刺繍をされたアオザイ風の上着。下はライトグレーのゆったりズボン。ふちに青い糸で刺繍され…カッコイイ!超似合う!髪もセットされてて普段より威力が上がってます。




 私はうっとりとディルクを眺めます。素晴らし過ぎるディルクに、褒め言葉も出てきません。




「えっと…似合う?」




「言葉にならないぐらい素敵です。ずっとベタぼれでしたが、さらに惚れ直しました。素敵です。カッコイイです。ときめきます。抱きしめて離さないでください。しかも私が買った服ですよ!なんという満足感!!このこみ上げる衝動を私は…私はどうしたら…!!」




「え?そんなに??」




「だから言ったろ?超喜ぶって。ロザリンドのご褒美はディルクだから」




「カーティスがこの素晴らしい提案を?」




 カーティスはへらりと笑うと、返事をした。




「おー。団長が、ロザリンドの好きな物は何かって聞くから、ディルクって言っといた」




 それ確かに事実だけど、ルドルフさんは好きな食べ物を聞いたんではないだろうか。




「で、ディルクそのままじゃ面白くないから着飾らせようって話になって、ディルクにロザリンドが喜ぶ服はないか聞いたら、コレになった」




「でかした、カーティス!」




「髪はヒューだよ。ロザリンドが喜んでくれたならよかった」




「ヒューから伝言。気に入ったなら、弁当で今度トンカツよろしく」




「トンカツでもなんでも作ります!ついでにカーティスは?」




「肉じゃが」




「好きだな肉じゃが!よし、今作る!」




「マジ?ラッキー」




 こないだのマジ泣き事件もあったしね。ちょうど材料買い込んで鞄に入ってるし。ディルクにもらったフリフリエプロンをつけて、ディルクに話しかけた。




「ディルクは何食べたい?」




「そりゃ、ロザリンドだろ」




「えふ!?」




 むせるディルク。そして即座に乗る私。




「ああ、なるほど」




「納得しない!!」




「ええと…人目があるんで味見ぐらいなら…」




 恥じらいつつ、衿元のボタンを外し首筋をちらりと見せる。ディルクは首筋を凝視して固まり、首まで赤くすると涙目で怒りだした。




「誘惑しない!俺をからかって楽しいの!?」




 私とカーティスは顔を見合わせた。




「「かなり楽しい」」




「確信犯!!」




 からかい過ぎると反撃がえらいこっちゃになるので調理に向かう。




「…でも、ロザリンドの首筋見てちょっとラッキーって思ったろ」




「…思った自分が嫌だ」




 聞こえてましたが、聞こえなかったフリをしました。




「出来たよー」




「肉じゃがー!」




 ハフハフ食べるカーティス。よかったね。すると他の騎士達も食べたがった。




「ずりぃぞ、カーティス!」




「俺らにもよこせ!!」




 カーティスは鍋ごと肉じゃがを確保して逃げた。お前、どんだけ肉じゃが食いたかったのよ。












「ロザリンド、こっちにおいで」




 私はディルクにエスコートされて、お誕生日席か?とばかりに騎士団には不似合いな可愛い椅子に座らされた。




「嬢ちゃんの勝利を祝って!」




「乾杯!」




 ルドルフさんの号令で皆一斉に盃を空にする。




「何か食べたいものはある?」




「んー、そういえばここで食べたことないですね。オススメはありますか?」




「じゃあ適当に持ってくるよ。飲み物は林檎ジュースが好きだよね」




 ディルクが給仕をするつもりみたいです。なんという贅沢!




「はい。お願いします」




 ディルクと入れ代わりでロス…じゃなかった、フィズが来ました。




「優勝おめでとう」




「ありがとうございます」




 フィズは声を潜めて告げてきた。




「そして、我々のことも…礼を言う。君は、裏切り者を探しに来たのだな」




「…さて、どうでしょう」




 へらりととぼける私。




「カーティス達も…礼をいう。詳しくは聞かない」




「カーティス達はいつか自分からフィズに話しますよ。待ってあげてください」




「ああ」




 くしゃりと私の頭を撫でて、フィズは私から離れて行った。聡いとは思っていたけど、彼なりに結構把握してたんだなぁ。




「フィズと話してたの?」




 ディルクが山盛りの料理とジュースを持ってきました。それ私の分じゃないよね?確実に食べ切れる気がしないし、雪崩の予感がします。芸術的なバランスで奇跡的に崩れてない感じなんですが。




「はい。これ美味しいよ。どれが好きかわからないから全部持ってきたんだ。食べ切れない分は俺が食べるから」




 にっこりと笑ってフォークを差し出される。あーんですか?あーんですね!?し、幸せ!まさにご褒美!!




「あーん」




「美味しい?」




「お肉も美味しいですが、ディルクが食べさせてくれるなんて…幸せです」




「あ」




 無自覚な行動だったらしく、首まで赤くなったディルク。




「私にこの山を崩さず食べる技術は無いんで、責任もって食べさせてね、ダーリン」




「あ、あうう…わ、わかりました」




 ディルクは真っ赤になりながらも、せっせと私にご飯を食べさせてくれました。










「ただいまー。ロザリンド、肉じゃがうまかった!」




「おかえりー。よかったね、カーティス。鍋の中身全部食べたの?」




「うん」




「ま、まぁいいけど…」




 戻ってきたカーティスはご機嫌です。鍋、10人分は少なくともあったんだけどね…




「そういえば、カーティス!最近私はディルクが脚フェチだということを発見しました」




「げほっ!?」




 ちょうど飲み物を飲もうとしていて、むせたディルク。




「えー?ディルクは脚じゃなくロザリンドフェチだよ。脚でも首でも胸でも、反応すんのはロザリンドだけだぜ?」




「え?」




「こないだ、たまたま見回りで娼館で聞き込みしたら、スゲー美脚の姉ちゃん居たけど、完全に興味なしだったし」




「そ、そう…」




「胸でけー姉ちゃん居ても全く反応なかったぜ?ロザリンドなら首チラだけで顔赤くなるのにな」




「ディルクは私フェチなのか…」




 納得してしまった。そういや、つがいにしか反応しないんだよね。




「カーティス、ばらさないで!首とか明らかに余計な話だったよね!?」




「…事実だろ?」




「事実でも俺にも恥じらいとか色々あるから!」




「脚フェチと誤解させときたかったのか?」




「いや、そこはもうどうでも…」




「ロザリンドにしか反応しないのも今さらだよな?」




「うん」




「首か」




「そこだよ!」




「悪い。でもロザリンドは確信犯だから言わなくてもばれてるよ。さっきの会話、聞いてたし」




「…え?」




 ぎぎぎ、と私を見るディルク。




「ごめん、聞こえてた」




 てへぺろ☆と舌を出す。




「カーティス、しばく!」




「えー?わざとじゃないって!」




 こうして、カーティスとディルクが追いかけっこを開始。私は他の騎士さんに頼まれて料理を作ったりして過ごし、祝勝会は終了しました。楽しかったです。


 ちなみにフィズはキンピラごぼうを気に入ってました。好みが渋いです。

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