第107話 体育祭・前編

 清々しく晴れ渡る青空。絶好の体育祭日和です。今日は体育祭。大量のお弁当を朝からダンと作ります。今日はジェンド、マリー、ネックス、ポッチもお手伝い。当然ハル・コウも手伝って、どうにか大量のお弁当は完成しました。




 開会式で遠い目をする私に、優しいミルフィが心配してくれました。




「どうしましたの?体調が悪いんですの?」




「体調は悪くないよ、精神的なものだから大丈夫…」




「ミルフィリア様、あっち」




 ラビーシャちゃんがミルフィに現在の私の頭痛の種を教えた。






「うおおおお!頑張れ、ロザリンド嬢ちゃああああああん!!」




「団長落ち着いて!まだ始まってません!」




「周囲に迷惑です!」


 弾けるおっさんとお兄さん達。まだ競技始まってないから!何にそんな興奮してるの!?


 ディルクとロスワイデ侯爵子息が必死に止めている。




「ぬおおおお!負けぬ!ロザリンドちゃあああああああん!!応援しておるぞおおおおお!!」




「長様落ち着いて!」




「恥ずかしいよ!騎士に対抗すんなジジイ!」




 シュガーさんとスイが奮闘するも、なんかたぎっているお祖父様とエルフ達…なぜだ。






「……あれはなんですの?」




「騎士団とエルフ村によるロザリンドお嬢様応援団です」




「………そう」




 ミルフィも遠い目になりました。つつがなく開会式が終わり、種目に入ります。最初は綱引きです。




 相手は上級生ですが、ハンデで相手は人数が少ない。




「皆、練習の成果を見せるんだ!」




 アルディン様の号令で縄を引いたら、上級生が飛んだ。








「へ?」








 比喩でもなんでもない。上級生が飛んだ。物理的に空中に吹っ飛んだ。




「ハル!」




「はいよー」




 風が全ての上級生を包み、ゆっくりと着地させた。うむ。怪我人なし。




 クラスメートも上級生もギャラリーもポカーンとしている。要はやり過ぎたのだ。綱引きは練習相手をハクにしてもらっていた。彼は大変力持ちでした。そして、我がクラスはそのハクを負かすまでに成長。ハクを引っ張る力は、上級生を吹っ飛ばすレベルだったらしい。もちろん筋力のみではなく、魔力による強化と、練習による団結の結果である。




「あー、次から加減しよう」




 私のひとことに、全員が深く頷きました。


 結局、うちのクラスは最後の対戦でようやく普通の綱引きができました。吹っ飛んだ上級生を見て、棄権されたりもしました。










 お次は玉入れです。我がクラスは作戦があります。数クラスが一緒に玉を入れる対戦方式です。




「ようい、始め!」




 号令と共に、一斉に玉を集めるクラスメート達。玉が全て一カ所に集まる。




「姐御!」




「お願いします!」




「任せて!」




 緑の魔法で編んだ布で玉を包み、風で浮かせてカゴに全部入れた。布はまた植物になり、バラけて消える。玉は全てカゴにおさまった。




「よっしゃああ!」




「よし、他の玉も」


「そういう競技じゃないから」




 他クラスから玉を奪おうとした馬鹿を物理的に止めました。




「い、1年3組の勝利です!」




 司会の声が若干震えていたのは気のせいだと思いたい。私達1年3組は玉入れでも勝利したのでした。














 お次は障害物競争です。アルディン様も一緒に走るようです。




「負けないからな!」




「はい、私も負けませんよ」




 そんな会話をしていたら、アナウンスが入った。




「今回は特別にゲストとして、賢者様が障害を用意するそうです!」












 嫌な予感しかしない。












「あのジジイ、絶対殴る!」




「あ、あわわわわ」




 現在、私はアルディン様を片手に抱きつつガーゴイルの投石をかわしてます。他参加者は棄権しました。




 最初はまだよかった。飛び石を渡るとかだから。でも、途中で池からシーサーペント(魚型モンスター)が跳ねたら、貴方はどうします?


 私はシーサーペントをぶん殴りつつ進みましたが、他はそうはいきません。アルディン様は光障壁でどうにか渡りました。




 次は、巨大もぐらモンスター叩き。ただこのもぐら、攻撃してきます。大半がアウト。




 そして今、ガーゴイルの投石をかわし、ただの草原。先にゴールが見えます。




「…行かないのか?」




「えい」




 さっきガーゴイルが投げてた石を草原に投げました。






 ちゅどーん!!






 地面が爆発しました。




「…爆発したな」




「爆発しましたね」




 私達もギャラリーも完全にドン引きしています。ゴールのジジイだけが爆笑しています。




「ロザリンドちゃん!無理はしちゃいかん!」




「いや、嬢ちゃんならいける!ドラゴンの口に入った度胸を思い出せ!」




 張り合わないでくださいね、お祖父様とルドルフさんや。そして、余計な情報を周囲に与えないでいただきたい。




「アルディン様、いくつか攻略方法はありますが、面倒なんで私は一直線に駆け抜けます」




「は?」




 言うが早いか、私は駆け抜ける。爆発音が背後で起きるが、要は爆発より早く走り抜ければいいのだ。




「この脳筋弟子!」




「どーせ罠除去したってランダム発生に設定してたら無駄ですもん!一応考えた上での行動ですよ!」




 草原を抜け、拓けた所にでた。




「グルルゥ…」




「ぐるる?」




 ドラゴンがいた。おうふ、アイスドラゴンだね。




「ゴァァァァ!!」




 アイスブレスを吐こうとするアイスドラゴン。加速の勢いのまま距離を詰め、強烈に顎を蹴り上げた。




「グアッ!?」




 感触が軽い。これは幻影と確信して、真空の刃でその首を落とした。


 ドラゴンは消え、ジジイが笑いながらメダルを差し出した。私はメダルを上空へぶん投げた。




 爆発音が上空からした。ジジイはまだ笑顔だ。




「よくわかったな、弟子よ。あれが最後の障害だ!障害物競争、優勝おめでとう!」




「…こんな障害物競争があるかああああ!!知らんならちゃんと誰かに聞けええええ!!」




 私のアックスボンバーが決まった。そして、反対側の女性もアックスボンバーをジジイにしていた。偶然クロスアックスボンバーをかましてしまったらしい。ジジイは伸びている。ジジイの首根っこを捕まえた女性…奥方様は私に話しかけた。




「すまない。よぉく、よぉぉぉく話しておく」




 黒髪短髪のかっこいい奥方様は颯爽とジジイを引きずって去って行った。ジジイが気絶したので術が解け、私は校庭にいた。




「アルディン様、大丈夫ですか?審判さん、私とアルディン様は障害物競争クリアですか?」




「いや、クリアはロザリンドだけだろう」




「…さすがにあれはこの学校の生徒がクリアするのは難しいですよね」




「…ああ。騎士でも難しいのではないか?」




 そんな会話をしていたら、アナウンスが流れた。




「障害物競争、優勝はロザリンド嬢!他はリタイアとクリア不可のため、1年3組にのみ点数が加算されます!」




「うおおおお!よくやったロザリンド嬢ちゃああああん!!」




「さすがはロザリンドちゃんじゃあああああああ!!」




 あああ、私の応援団に周囲がドン引きしている…




「…熱烈だな」




 アルディン様もちょっと引いてる!私が涙目になりつつ、障害物競争は終了したのでした。








 徒競走は普通でした。我がクラスは魔力操作を練習したので他のクラスより速いですが、あくまでも人間は人間の範疇です。普通に獣人には勝てません。










 そして、午前の部が終了しました。ぶっちぎりで我がクラスがトップです。


 さて、お昼だと移動しようとしたら、囲まれた。




「ロザリンド様、お昼ご一緒しませんこと?」




「ロザリンド様、僕達とお昼を食べていただけないでしょうか?」




「姐御!一緒にメシいこうぜ!!」




 クラスメート達は皆さんキラキラした瞳をしており断りにくい。どうやって断ろうか考えていると、ひょいっと抱き上げられた。




「ごめんね。彼女は先約があるから」




「ディルク!」




 ディルクにお姫様抱っこされてますよ私!ご褒美ですか?ご褒美ですね?ご馳走さまです!


 ディルクはシンプルな…以前私が選んでプレゼントした服を着ています。かっこいい!シンプルで体にフィットしたデザインが、彼のしなやかさを強調しています。




「ディルクかっこいい…その服、とても似合ってます。素敵です。ときめきます。どこへなりと連れていってください。地の果てまででもお供します」




 うっとりとディルクに見とれる私。




「うぇ!?あ、ありがとう…地の果てには行かないけど、皆待ってるから行こうか」




「はい!」




 ちゃっかりディルクのお耳をもふりつつ、首にスリスリする私。あああ…癒される…幸せ…




「ふふ。くすぐったいよ」




 といいつつ、まんざらでもない感じのディルク。おかえし、とばかりに私の首にスリスリした。うは、確かにくすぐったい。




 きゃああ、と楽しげな女の子達の声。なんだか涙目な男の子達。え?あ、イチャイチャし過ぎたわ。




「あ、姐御…その人は?」




 虎獣人の自称子分・ガーブが聞いてきた。




「姐御はやめてったら。婚約者…未来の旦那様で、私の恋人兼つがいのディルクさんです」




「ロザリンド…」




 めっちゃ嬉しそうなディルク。事実を述べただけですよ?そして、ガーブと狼獣人のルフナは何故地面に寝そべっている?アルディン様が同情したようなご様子なのは何故??




「あー、ロザリンドは4歳からディルクと婚約してて、貴族内でも有名すぎる仲のよさなんだ…俺の中でも常識になってて言い忘れた。すまん」




「…姐御」




「だから姐御はやめて。何?」




「姐御は幸せですか?」




「うん」




 即答した。今、幸せです。ディルクをもふってイチャイチャ…至福の時間です。




「姐御が幸せなら…いや、そいつ…ディルクさんは強いですか?」




「現在(物理のみでだと)連敗記録を更新中です」




「え!?そうなのか!?」




 何故びっくりしたか、アルディン様。皆して驚愕の瞳でディルクを見ている。




「はい。速いわ、力が強いわ…色々作戦練ったりするんですけどね」




「スゲー!あ、兄貴と呼ばせてください!」




「兄貴かっけぇ!!姐御とお似合いです!」




 ガーブとルフナ、更に他獣人から兄貴コールが発生した。




「えええええ!?」




「ディルク、私のつがいと認められたんです。そして人生、諦めが肝心です」




「さっきロザリンドも諦めないで姐御を否定してたよね!?」




「ディルクとセットならアリな気がしてきました」




「…まぁ、うん」




 ディルクとセットで兄貴・姐御になりました。もういいや。ディルクとペアならいい気がする!

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