第103話 騎士団の夕ごはん事情

 午後、予定通りにドーベルさんや補佐の人達とお仕事をしていると、ルドルフさんが駆け込んできた。




「すまん、ドーベル!緊急事態だ!嬢ちゃんを貸してくれ!!」




「…なんですか、薮から棒に。ロザリンドさんは貴重な戦力だから、あまりお貸ししたくないんですが」




「…ミト爺さんの孫が産まれたから、今日は帰ると帰っちまって…」




 ミト爺さん…どちらさまだろう?聞いたことはある気がします。ドーベルさんの顔色が変わった。




「…かわりの人員は?」




「捕まらねぇ。もともとルルドは今日用事があっての休みだし、他も一応使いを出したが返事がねぇ」




 ドーベルさんは重たいため息をつくと、私に頭を下げた。




「…ご無理は重々承知の上でお願いします。厨房の料理人が全員不在となりまして、ロザリンドさんに代理をお願いしたいのです」




「へ?」




「…お腹を空かせた騎士達が、夕食がないとどうなるか…」




 プルプル震えるドーベルさん。大惨事の予感しかしませんね。確かに私は書類仕事の戦力かもしれないけど、それは一大事だ。貸し出さざるをえないだろう。




「わかりました。どこまでできるかわかりませんが、頑張ります!」




















 騎士団の厨房は広かった。私もさすがにこの人数分の調理はしたことないなぁ…


 しかもミト爺さんとやらは中途半端にやったらしく、皮を剥かれた大量の人参、玉葱、ジャガ芋…これはオークの肉かな?


 時間もないし、スイに家の調味料を持ってくるよう頼んで素早く調理に取り掛かろうとすると、待ったをかけられた。




「これを」




 ルドルフさんから白いフリフリエプロンを渡された。厨房の料理人は男性だったはずだ。何故?と出所が気になったものの、時間がないので調理を開始した。




 ハルに魔法で野菜を綺麗に洗浄・カットしてもらい、火加減はコウにお願いした。


 ハルはよくお手伝いをお願いしていたので慣れたものだ。素晴らしい速度で野菜が洗浄・カットされていく。魔法で野菜の飾り切りが出来るのは、うちのハルぐらいではないだろうか…




 コウの火加減は素晴らしい。我が家の魔改造仕様の厨房とは違い、ここにあるのは旧型のかまどである。コウがいなかったら、盛大に焦がしたかもしれない。




 力持ちで器用なハクには食器を運んで貰った。カウンタータイプの厨房だから、並んでもらって皿をトレイに乗っける方式にするつもりだ。


 彼は通行しやすいように机と椅子も並べ替えた。言われずともできる子です。後でナデナデしてやろう。
















 さすがに大変でした。ここまで大量に作るのって初めてだったしね…ぐったりしたいが、ここからが勝負なのです!




「腹減ったー」




「あれ?ロザリンドちゃん?」




 先に仕事が終わったらしい騎士さん達が来ました。




「入口のトレイにフォーク乗っけて、向かって右から左にお皿を1つずつ持って行ってください」




「へー、変わったメシだな」




 とりあえず、順調です。お腹を空かせた騎士さん達は、素直に指示に従っています。




「ご飯とスープは自分でよそってください。スープは下に具が沈んでますから、かき混ぜてから注いでくださいね」




「おー」




「米だ。白いのは珍しいな」




 クリスティアには普通にお米もあります。ただ、パエリア的な調理方法が多く、基本スープ煮込みか炊き込みが普通です。白米は滅多に食べません。うちでは普通に出ますがね。




 さて、第1陣の騎士さん達が食べはじめました。




「いただきまーす」




「なんだこれ!超うめぇ!」




「肉が…うめぇぇぇ!」




「あ、ご飯はおかわり自由です。ご飯と肉は一緒に食べるといいですよ」




「米と肉超うめぇ!」




「うめぇぇぇ!!」




 ちなみにメニューは肉じゃがとほうれん草(的な野菜)のおひたしとキャベツたっぷり生姜焼きです。食材は普通なんですが、あれか。空腹は最高のスパイスって奴か。皆さんうめぇしか言いません。




「しかも可愛い女の子の手料理…」




「今日はいい日だな…しかも新妻風エプロンか…」




 うん…騎士さん達は小さなことでも幸せになれるんだね!私じゃ新妻としては幼すぎるというツッコミが不在ですよ!




「ロザリンドちゃんはぁ、可愛いしお料理上手だしぃ、きっといいお嫁さんになれますよねぇ。もう少し成長したら確実に美人さんですしねぇ。優しくていい子なんですよぉ」




 誘導係で食堂に居たので騎士さん達にニコニコと話しかけるハク。多分私を褒めたいんだ。私自慢はやめて、恥ずかしい。




「くそ!ディルクが羨ましい!」




「幼な妻か…」




「しかも料理上手でベタ惚れとか…」




「ディルクが羨ま妬ましい!」




「皆さん魅力的だから、そのうち可愛い彼女さん見つかりますよ」




 酒は出していないが、皆さん酔っ払いみたいになってきた。




「ロザリンドちゃん、ディルクやめて俺にしない?」




「あ、てめ!ずる「俺の大事な婚約者に何か?」




 体感温度が一気に下がりました。と、鳥肌立った!殺気と怒気と冷気が凄まじい!私は慌ててディルクに話しかけた。




「ディルク、お疲れ様。今日は私が晩ご飯作ったよ。たくさん食べてね!」




「…ロザリンドにお願いがあります」




 私を見つめて頬を赤らめるディルク。何?改まってどうしたの?私のお返事は決まっています。




「なんなりと」




「お、お帰りなさいって言って?」




 新妻プレイですね!サービスしますよ!お任せを!私はカウンターをひょいっと飛び越え、ディルクの前に立ちました。




「お帰りなさい、旦那様」




 服を引いて背伸びをして、ほっぺにちゅーのオプション付きですよ。ちょっと照れながらはにかんでみせた。エプロンの下が騎士服なのがちょっと残念…ディルクが崩れ落ちました。どうした!?




「ディルク!?」




「やられた…可愛い…予想以上に可愛い過ぎる…」




 ディルクは悶えてました。効果は抜群だ!やったね!ん?騎士さん達も悶えてます。なんでだろう?




「…ロザリンドちゃんはぁ、あざと可愛いんだねぇ」




 呆れたようなハク。誰だ、我が家の癒し担当に変な言葉教えた奴は。




「ロザリンドだからね」


「お姉ちゃんだからね」




 ハル・コウにも言われたが、私はうちの子たちの中でどうなっているのか問い詰めたい。




「詰まってるんだから、早くしてくれよ!」




 いつの間にか列出来てました!慌てて先程のように説明する。列はスムーズに流れ出した。




「うめぇぇぇ!」




「変わったメシだな」




 色んな声が聞こえるが、概ね評判はよかったようです。




 後でスフレとプリン争奪戦には勝利したけど夕食はお城だった元暗殺者な騎士3人はとても悔やんでました。弁当みたく特別な材料は使ってませんから、超美味しいとかではないよと言ったら、主にカーティスに泣かれました。




「肉じゃが…」




 わかったよ、作るから泣くな!私もお前の好物だと思ってたけど城でご飯だとか知らなかったんだよ!肉じゃがごときでマジ泣きすんな!お前本当にウルファネア最強の暗殺者だったの?という一幕があったのは、また別のお話。
















 スムーズだったんだけど、お腹が減れば短気な輩も居るわけで。




「さっさとつげよ!後がつかえてんだよ!」




「んだとゴルァ!!」




 止めたいが、今私が動くと別の暴動が起きる気がする。人間お腹がすくと怒りっぽくなるよね。




「あのぉ」




「うるせ…ぎゃああああ!!」




 器用に騎士さんからトレイを奪い、片手にトレイ・片手に騎士さんを抱えている190cmのト○ロ…じゃなかった、うちのハクさん。




「ケンカはぁ、ダメですよぉ」




 本人の口調は優しいが、鋭いツメが脅しにしか見えないのは、私が捻くれているせいか?いや、騎士さんも同意見らしく明らかに怯えている。暴れても力持ちなハクはびくともしない。




「わ、悪かったから下ろしてくれぇぇ!」




 絡まれた騎士も慌ててよそい、逃げ出した。絡んだ騎士は涙目で慌ててよそって逃げた。




「わかってくれて、よかったぁ」




 うちのト○ロ…いやモグラさんは天然素材です。














「…何をしている?」




「厨房で働いてます。お疲れ様です、ロスワイデ候爵子息」




「…どこの世界に…いや、君だからな」




「どういう意味ですか、失礼な。盛りを大幅に削減しますよ?」




「心から謝罪する。すまなかった」




 いくらロスワイデ侯爵子息といえど、ご飯を減らされるのは嫌だったらしく、即座に謝罪された。




「うまかった。ごちそうさま」




 帰りにそんな挨拶をくれました。そう言われると頑張ったかいがありますよね!
















 さて、任務完了です。後片付けはハルと私の魔法による自動食器洗いで済んでいます。賢者も呆れるズボラ魔法…便利なんですよ。ダンに喜ばれたからいいんだもん!


 ルドルフさんからも晩御飯は好評でした。




「いや、助かったよ!しかもめちゃくちゃうまかった!」




「あはは、疲れたけど楽しかったですよ。ところで、このエプロンはどこから?」




「ん?嬢ちゃんが作ると聞きつけた騎士がぜひ!とか金出し合って買ったらしいから、嬢ちゃん専用に置いとくか、持ち帰るか…どうする?」




「破棄で」




「…いや、そんな嫌がらなくても」




「私はディルク以外からは受け取りません」




「騎士に返金、経費で落とす」




「…わかりました」




 騎士さん、なんで私にフリフリエプロンを買ったのか…知りたくないので放置しました。後にディルクに一応報告したところ、しめておくからと黒い笑顔で言われました。更に別の可愛いフリフリエプロンを貰い、結局あのエプロンは破棄となりました。




 騎士団もよくわからない人達が居るんだなぁ、と思った日でした。


後書き編集

 エプロンを買った騎士さん達はどうせならエプロンの可愛い女の子にごはんを作って欲しかっただけです。


 ちなみに可愛いエプロン姿にディルクも大満足でしたので、彼等は厳重注意で済みました。

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