第102話 幸せランチタイム
さて、お昼の鐘がそろそろ鳴ります。
「兄様達を迎えに行きましょうか」
「そうだな」
「あら、今日はアルフィージ様もルーベルト様も居ますの?珍しいですわね」
「うん。兄上は多分プリンが食べたかったんだろうな」
「…ええ?アルフィージ様そんなにプリン好きなの?兄様は私とランチの約束をしてました」
「…ぷりん?」
不思議そうなミルフィリア嬢にアルディン様が教えてあげた。
「ロザリンドの作ったスイーツだ。とろける甘い菓子だな」
「騎士団のお土産にしようと余分が沢山ありますから、ミルフィリア嬢も良ければどうぞ」
「…ま、まぁどうしてもとおっしゃるなら食べてあげてもよくてよ」
「どうしても大好きなミルフィリア嬢に食べていただきたいです!」
「…ロザリンドは男女問わず気に入るとストレートだな」
呆れた様子のアルディン様。
「否定はしません。私はミルフィリア嬢が大好きです。アルディン様もわりと気に入ってますよ。お兄様のためにプリンをリクエストした友人に、好みの菓子を追加で作るぐらいにはね」
「…そうか」
アルディン様は嬉しそうに笑った。そして、私達は3年生の教室に到着。ちょうど授業終了の鐘が鳴った。
「誰かに用事?」
知らない上級生が声をかけてきた。
「はい、兄…ルーベルト=ローゼンベルクとランチの約束をしてまして」
「え?あの妹さん!?確かに美少女だね。なんで騎士の服なのかな?」
聞き捨てならない単語が聞こえました。兄様『あの』って何ですか?
「午後は騎士団派遣に参りますので…あのって、私をご存知なんですの?」
「ああ、ルーベルト様とアルフィージ様はしょっちゅう自分の妹弟自慢して対決してるから、このクラスで知らない奴は居ないんじゃないかな?」
ジーザス!!私はその場で崩れ落ちた。なんてこった!なんてことしてるんだ兄!せめて2人だけでやり取りしてくれよ!クラスメート全員知ってるとか…
「ロザリンド嬢!?どうなさいましたの!?しっかりなさって!」
優しいミルフィリア嬢のおかげで少し回復しました。アルディン様も涙目だよ。
「…ちなみに、こちらが可愛い弟のアルディン様です」
「ロザリンド!?」
「すいません、アルディン様。私は自分が可愛いので、尊い犠牲になってください」
死なばもろとも、ですよ。私だけ注目されてなるものか!
「さあ、アルディン様!大・好・き・な!兄上様を呼ぶのです!」
「なんで大好きを強調した!?」
「自分の好きなお菓子より、兄上様の好きなお菓子をリクエストするいじらしさ…呼ばぬならば私が呼びます!アルフィージ様!可愛い弟君が迎えにきましたよー!」
「アルディン?騒がしいと思ったら、ロザリンド嬢も一緒か」
「人の妹が騒がしいみたいに言わないでくれないか?アルディン様もうるさかっただろ…ミルフィリア嬢?」
「お久しぶりです。ロザリンド嬢に誘われまして、本日は私も一緒にランチをいただくことになりました」
「兄様兄様、聞いて聞いて!ミルフィリア嬢が私のことお友達って言ってくれたんですよ!」
「…そうか、よかったね」
嬉しさでピョンピョン跳ねながら話す私に兄様は笑って頭を撫でてくれました。えへへ。
「…どうだ、可愛いだろう」
「…くっ、やるな」
「「それはもういいから」」
教室のクラスメートもなんかほっこりした視線です。跳ねながらとか、子供っぽい動きを披露したのが地味に恥ずかしく、ミルフィリア嬢の影に隠れました。
「ロザリンド嬢?」
「兄様達のせいで恥ずかしい~」
「…何がですの?」
昨日の兄バカ対決の説明をすると、ミルフィリア嬢は呆れた目線を兄達に向けた。
「…対決する意味が解りません。どちらもとても可愛らしい。それでよろしいのではなくて?しかも可愛いのは解りますが弟妹の失敗まで周囲に教えるなんて悪趣味ですわ。私がランチにお付き合いします。参りますわよ、ロザリンド。では、ごきげんよう」
素早く優雅にきびすを返し、さりげなく私の手をひくミルフィリア嬢。しかも初の呼び捨てです!
「地の果てまででもお供します。ミルフィリアちゃん大好き!」
「…ミルフィでよくてよ。私もロザリィと呼びますわ」
「うん!ミルフィ大好き!」
いや、もうマジ幸せ!お友達万歳ですよ!しかもミルフィかっこいい!
「ちょ、待ってロザリンド!」
「俺も行く!」
慌てる男性陣に、顔を合わせてミルフィと笑うのでした。
さて、学校庭園にてランチですよ。この人数ですから、大きなピクニックシートをご用意。
「…あの、鞄と中身が合わないのですが」
「冒険者御用達の大容量鞄ですから。私のは時間停止魔法もかかってますんで、お弁当も出来立てですよ」
そして大量のお弁当を並べていく。作りすぎたかなー。
「こ、こんなに食べ切れますの?」
「大丈夫ですよー。だよね、カーティス。アデイルとヒューも当然食べるよね?」
「え?俺も食っていいの?やったぁ!食う食う!」
「…よろしいかしら、ご主人様?」
きちんとアルディン様に確認するアデイルとヒュー。もちろんアルディン様が断るはずもない。
「うん。かまわない。こんな風に大人数での食事は初めてだな」
「カーティス、一応公式では私に許可を得てからだよ?」
「あ、うん。悪い」
軽いな、カーティス!だ、大丈夫かなぁ…
「あの、なんかカーティスがすいません」
「ああ、別に構わないよ。公式ではあれで案外ちゃんとするんだ。心配はいらないよ」
そうなのか。意外。
「ロザリンド、俺バカだけどちゃんとしなきゃな時はわかるよ?ロザリンドのおかげでまだ生きてるし、困るような事はしないよ」
「そっか。安心した」
「うん。で、食べていい?」
腹をすかせたワンコ…ではなくカーティスは食べたくて仕方ないご様子。
「仕方ないなぁ…」
ちゃんといただきますしなさい、と言いかけた所で、素敵な声が聞こえた。
「すいません、遅れました」
「いや、構わないよ。急に呼びつけて悪いね。ロザリンド嬢、先程の詫びだよ」
腹黒様…いや真っ黒様だな最近。真っ黒様がニヤリと笑った。
「ありがとうございます。遠慮なくいただきます。ディルク、来て。今日も素敵ですね。しかもまたしても正装…グッジョブアルフィージ様!ブラボーアルフィージ様!!プリンお土産持ち帰り可ですよ!」
「本当にディルクが好きだねー。こちらとしては安上がりでいいけど。そしてプリンもありがたくいただくよ」
私のテンションに引き気味なアルフィージ様。
「…俺、貢ぎ物?」
「あー、まぁ、愛されてる結果?」
正装で呼び出された理由が私ですいません。
「俺もロザリンドとご飯食べたいから、いいか」
ディルクは納得した様子でナチュラルに私を膝に乗っけました。右に兄様、左にはミルフィ、後ろにはディルク…私は幸せです。
「ディルクディルク、私ミルフィ…ミルフィリア嬢にお友達だって言ってもらえて、しかもミルフィって呼んでいいって言ってもらえたんだよ!」
ディルクは穏やかに私に微笑んで、私を撫でる。
「ふふ、よっぽど嬉しかったんだね。ずっとミルフィリア嬢と仲良くなりたいって言っていたものね。ミルフィリア嬢、私の婚約者が迷惑をかけるかもしれないけど、いい友達になってくれると嬉しいな」
「もうロザリンド嬢は私の友人ですわ。迷惑というか、今日は助けていただきましたもの。友人とは助け合うものと思っております。お願いされるまでもありませんわ」
「いい友達を見つけたね」
「はい!」
「ところで、助けたって…危ないことしてないよね?」
即座に目を逸らす私。あ、危なくはない…よね?
「授業中に獣人のクラスメートに襲われかけましたが、颯爽と私を助けてくださいましたのよ」
「ロザリンド、報告」
「喜んで!!」
兄から冷気が…!私は説明しましたが叱られました。わ、悪いことはしてないもん!ミルフィがかばってくれました。友達って素晴らしい!
さて、恒例のお弁当タイムです。
「美味いな…ロザリンド、これ何だ?」
「お目が高いです、アルディン様。それは百億万バッファローの焼肉です」
「「「…は?」」」
カーティス以外の騎士が固まった。
「ロザリンド、もういっかい」
「百億万バッファローの焼肉です。ありえないぐらい美味ですよ。昨日狩りに行きましたら、たまたま遭遇しまして。ラッキーでした」
アデイルさんにハンドクローをくらいました。
「この非常識娘ぇぇ!どこの世界にSSランクの魔物を弁当にする令嬢がいる!!」
「痛たたたた!ここに居ます!ちなみに今日の目玉はレジェンディアタートルのスープ煮です!」
「まさかのSSSランクが居たか!どこに狩りに行ったんだ?」
呆れたヒューに素直に答えました。
「コルド遺跡(最終ダンジョン)行きました。でも行こうと思ったからではなく、どっかの脳みそ筋肉とうちのメイド長と、それに無理矢理付き合わされた悲しい父の従者と脳みそ筋肉を阻止できなかったSSランク(昇格しました)パーティー自由な風に巻き込まれました。正直何度か死ぬかと思いました。味わって食べてください。しばらくは行きたくありません」
「…ロザリンド、そういう時は呼んで?」
心配そうなディルク。確かにディルクが居ればもう少しマシだったかな?
「…強制連行でしたので、今回は無理でした。呼べたら呼びます」
「とりあえず、マーサと脳みそ筋肉はよーく叱っておくからね」
「お願いします。特に脳みそ筋肉を念入りにシメてください」
「なんというか…大変なんだな?」
よくわからないが大変さは伝わったらしく、同情的なアルディン様。
「あはは、まぁ滅多にないですけどね。イキナリ抜きうち☆ご主人様を強くしようツアーだそうで…最近SSランクぐらいなら独りでも刈れる気がします…というか、その肉は私が独りで狩らされた百億万バッファローです」
「「何を目指しているんだ!?」」
常識人枠のアデイルさん、アルディン様がツッコミました。
「今回は自主的にどうこうではないです。巻き込まれたとしか言いようがありません」
「まあ、美味しいからいいんじゃない?」
清々しいほどマイペースな真っ黒様。私ももうそう思う事にした!
「ミルフィ、これ美味しいよ、自信作だよ!」
「むぐ!じ、自分で食べま…美味しい」
「あと、これとこれがオススメです」
ミルフィはもう私を咎めず、ご飯を堪能することにしたご様子。
「お、美味しい…」
大丈夫?さっきから美味しいしか言ってないよ?
「ローゼンベルク公爵家はよほどシェフの腕がよいのですね。こんなに美味しいものは初めて食べましたわ。お茶会のスイーツも素敵な盛り付けですし」
「うちのシェフは確かに腕がいいですが、このお弁当とスイーツは大概私が作ってますが」
「は?」
「へ?」
ミルフィとアルディン様が呆然とする。そしてマイペースなアルフィージ様。
「公爵家が没落したら城に料理人として来るかい?」
「没落する予定はありませんが、たまに短期で働くのはありですか?」
「後で雇用契約を」
「…そんなにプリンが好きですか?」
「いや、今回の弁当も気に入った」
「弁当は普通に素材のよさですよ。普通の食材なら普通の美味しさです」
「いや、普通の食材でも美味だよ。埋もれるには惜しい才能だ」
「すいませんが、私は一生ディルクのご飯を作るという未来の為に料理スキルを磨いていますから、無駄にする気は一切ありません」
「…本当に好きなんだねぇ」
呆れたアルフィージ様。私はない胸を張って答えた。
「はい!愛してますから」
「ロザリンドはディルクが大好きってのは本当に微塵もぶれないなぁ…」
「ロザリンド、その、嬉しいけどね?自重して欲しいというか…うにゃあ!?」
「と言いつつ尻尾が私に絡む辺り、嬉しいんですよね?旦那様」
動かぬ証拠の尻尾を弄びつつ、私はニッコリとディルクに笑いかけた。
「う……うん」
首まで真っ赤にして肯定しましたよ!なんて可愛いんだ!くそう、人目が無ければ…(自主規制)
「訂正する。一方通行じゃなくて愛し合ってるんだね。なんか私も可愛い婚約者作ろうかなぁ…手頃ないい相手が居ないんだよね」
「手頃とか言っている時点でダメだと思いますわ」
「普通にその発言には私も引きました」
私達にツッコミされて苦笑するアルフィージ様。
「可愛くて、見てて面白い小動物みたいなコがいいなぁ…居ない?」
「特に心当たりがありませんわ」
「同じく」
「そこでアピールしないから、君らといるのは楽でいい」
「そうですね…本当に…」
遠い目をする王子2人。王子様って大変なんですね。
お弁当を平らげ、デザートタイムになりました。
私はプリンとスフレを並べ、魔法で湯を沸かしてお茶をいれました。
「美味しい!!これ…甘くてとろけて…あ!これもふわふわ…どれも美味しいですわ、ロザリィ!」
「お気に召したならよかったです。お土産に持ち帰りますか?」
「私達も欲しいな」
「勿論です。ディルクのお礼ですからどうぞ。あまり日持ちしませんから、2個ずつで」
「はむはむ…美味い」
アルディン様もスフレに夢中です。ついでに入れといてやろう。
「ロザリンド、俺には?」
「騎士団にも差し入れするから欲しければ争奪戦に参加しなよ」
「わかった!」
「うまかったよ、ロザリンドちゃん。俺にくら替えしな「気安く触るな。ディルク、けがれたので消毒して」
ヒューさんを遮る私。だから口説くなって言ってるのに。キスされた手をハンカチで拭って、ディルクに差し出してキスを上書きしてもらった。
「ばい菌扱い!?」
「変なちょっかい出すからだろ。ありえないぐらいうまかったわ。サンキューな」
アデイルさんに褒められました。ナデナデ上手…
「俺とアデイルの扱い違くない!?」
「「ヒューだから仕方ない」」
「ひでえ!」
ハモる私とアデイルさんに、涙目なヒュー。嫌いではないんだけど、お約束です。
さて解散という頃に、ミルフィが私に声をかけました。
「…私にも作れまして?教えていただけるかしら」
「喜んで!いつでもお教えしますよ!何が作りたいですか?」
「スイーツがいいですわ」
「了解です」
こうして、私はミルフィと約束をした後に騎士団でお仕事となりました。
今日のランチは楽しかったです。
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