第66話 お呼びだしと疑惑とモグラさん

 やたら疲れたピクニックの翌日。私はいつも通りお仕事をしていました。




「すんませーん、お邪魔しまーす」




 やる気なさ気な声が宰相執務室に響きました。カーティスです。




「あ、いたいたロザリンド。悪いんだけど重要参考人として連行されて?」




「はぁ?」




 私は騎士団の兵舎に連れていかれました。ここは…団長執務室?珍しくノックするカーティス。




「団長入りますよー」




「入れ」




「はーい」




 お部屋には団長さんとモグラさんと…誰だ?知らない男性が居た。




「昨日のことについて話をしてくれないか」




「いいですけど、私も居たのは本当にたまたまですから詳しくは無理ですよ?」




 私は覚えている限りの顛末を話した。むしろ犯人については私が知りたいぐらいだ。一応見当はついているが、まだ会えていない相手だ。




「ふむ、しかし君は3年前にもたまたま騎士団を助けているね。そして、精霊は君のモノになった」




 知らない男性は壮年の…体格からして騎士だな。私を観察する瞳は敵意を隠していない。




「ルドルフさん、帰っていいですか?不愉快ですわ」




「すまないな。こいつは副団長のランドルフだ。非礼は俺が謝罪する」




「団長!?」




「謝罪、お受けいたします。よろしくて?いくら騎士団副団長とはいえ、私は公爵令嬢です。非礼な男に答える義務はなくてよ」




 こら、カーティス笑ってんじゃないよ。




「確かに偶然と言うには出来過ぎてると私も思います。でも私が仕組んだなら私は確実にアリバイを完璧にしてやるでしょう。更に、私にだって文句はありますよ?騎士団の危機管理のなさですよ!私のディルクを危険にさらして、何考えてるんですか!魔法やら呪いに弱いのは騎士団の弱点です。事前調査も甘い!理解しておきながら改善しない体制に問題があります!今回私が居なかったら、騎士団の部隊は確実に全滅ですよ!?」




「う…」




「ルドルフさんだって、あのキノコは時間が経てば深くに刺さって死んでたんですからね!」




「そ、そうなのか?」




「そうなんです!」




 私の剣幕に引き気味の大人2人。部屋の隅でプルプルしてるカーティス。険悪な気配にオロオロしているモグラさん。見事なカオス。




「用件がそれだけでしたら私は失礼いたしますわ!不愉快です!」




 身を翻してでていこうとした私を止める副団長。チッ、離脱失敗か。




「気安く触らないでいただける?無礼ですわ」




 捕まれた手をたたき落とした。




「痛っ!」




「で、何か他に用が?私、仕事残してきてて時間無いので簡潔かつ手短にお願いしますわ」




 イライラしてきて、魔力と殺気がだだもれになる。さすがカーティス、お前一人で逃げるつもりだな。あ、ルドルフさんに確保された。ざまあみろ。




「ひ、非礼を詫びる。ロザリンド嬢。貴女の言う通りだ。騎士団に入ってもらえないだろうか」




「…へ?」




「一時的で構わない。貴女は多分、騎士団の内通…フガッ!?」




 副団長の口を塞ぎ、即座に防音結界を展開。廊下と窓を確認。




「馬鹿ですか!?内通者とか、防音結界もなしに話しますか!?」




「あー、部下がすまんな、嬢ちゃん。しかし、ジェラルド公爵の件で出さなかったが、騎士団内部にも内通者は居るんだろう?あの部隊編成はどう見ても意図的だ」




「確証は無いし、あくまでもグレーですよ?」




「構わない」




 私は紙に怪しい騎士団員の名前を書いて渡した。




「読んだら燃やしますんで覚えてください」




「わかった」




 ルドルフさんはしばらく読むと私に紙を返したので一瞬で燃やした。




「ところで、モグラさんは明らかに部外者だけどいいんですか?」




「ああ…それがな」




 モグラさんは私に土下座した。私はカーティスを見る。この野郎、解ってて連れて来たな。後で絞める。




「お嬢さんがぁ、ボクを助けてくれたんですよねぇ。ボク、お嬢さんに加護をあげたいんですぅ!お願いしますぅ!ボクに名前をくださいぃ!」




「ロザリンド、真顔になってんぞ」




 真顔にもなるだろう。普通逆なんだよね?人間がお願いしますなんだよね?


 モグラさんがここで本来聞いたらマズイ話しを聞いてたのは、私の精霊になると思ったからですね?


 モグラさんをもふってみる。彼の毛は硬そうだが意外に触るとチクチクしない。あれだ。ファイバー的な手触り。




「…だめでしょうかぁ」




 真剣に彼の毛皮を堪能していたら、モグラさんは涙目だ。




「瞳が琥珀っぽい色だから、ハクで」




「ありがとうぅ!」




「なんかロザリンドはピクニックに行くと騒動に巻き込まれて精霊ゲットまでがセットな気がしてきた」




「やめて、超直感もちに言われたら現実になりそうで怖いから」




 私はカーティスにツッコミをいれ、副団長に話しかける。




「あ、副団長さん、騎士団に入団は保留で。私、春から学校なんで中途半端にしたくないです。何か手伝いが欲しいなら冒険者登録してますから、指名依頼をしてくれればうかがいます」




「承知した」




「さて、よろしくね、ハク」




 私は熊みたいにでっかいモグラさんの精霊をゲットしたのでした。




後書き編集

 副団長は実は敵意があったのではなく、緊張していただけだったりします。口下手で誤解されやすいタイプでルドルフさんと仲良しです。

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