ロザリンド7歳・日常と準備編

第65話 ロザリンドの休日

 今日、私は珍しく予定がありませんでした。ディルクも今日は仕事の関係で一緒にお昼をとれないので、お弁当も不要…かとおもいきや、父と兄から要請があったので父・アーク・秘書官2人・兄のお弁当を作成しました。


 せっかくなので子供達とユグドラシルさん辺りで食べるかなと子供達の分もお弁当を作成しました。




 お昼までは時間があるので、日当たりのいい庭のベンチで読書をしていたら、何やら視線が…銀色わんこと柴犬…ではなく、ジェンドとポッチがじっと私を見ていました。




「お姉ちゃん、今日はお仕事は?」




 ジェンドが私に聞いてきました。




「今日はお休みなんだ。だからお姉ちゃんはご本を読んでるの」




「ご本…楽しい?」




 耳と尻尾がへたっている…ジェンドはだいぶ毛並みが良くなったなぁ…




「え?まぁ…楽しい…かな?」




 質問の意図が解らなかったので、とりあえず正直に返答した。




「お姉ちゃん、僕達お姉ちゃんと遊びたいの。だめ?」




 ポッチはプルプル震えながら涙目で私に告げてきた。この子はやたら私に懐いているが、怯えが強いし怖がりである。健気なわんこが勇気をだしてのおねだりに、私が拒否するはずはない。更に2人の遊んでほしいの光線に私は耐えられなかった。




「…いいよ」




「「やったぁ!」」




 わんこ2人の喜び様に、のんびりするつもりだったが、まぁいいかと思った。










 そして思いつきでピクニックに出かけました。子供達と精霊さん達、引率(笑)兼護衛でゲータです。




 私はすっかり忘れていました。前回のピクニックの惨劇を。
















 王都を出て、前回同様小高い丘に敷物を敷いてお弁当をいただく。ここまではよかった。


 獣人には少し物足りなかったようで、ゲータが現地調達すると言い出しました。いやいや、魔物を狩る気?いや、私はいいけど子供達…やる気…否、殺る気だ。




 結果として、大漁でした。余った分はダンに調理してもらうつもりです。私はゲータさんに聞きました。




「…何してるの?」




「さすがに新鮮でも生はまずいだろ?」




 丸焼きとか豪快にもほどがあります。子供達的にもこれが普通なご様子。え?おかしいのは私?いやいや、私は普通!私は丸焼きを大量作成しようとするゲータさんに言いました。




「…私が調理するから解体して」




「は?」




 キョトンとするゲータ。子供達もキョトンとしている。




「お姉ちゃん、りょうりできるの?」




「今日のお弁当はお姉ちゃんの手料理です。普通に食べられるレベルだったと思うけど?最近のおやつは大体私が作ってるし」




「え?」




 固まるゲータと子供達。何がそんなに驚きなの?オルドが意外そうに告げた。




「貴族のお嬢様って、普通料理なんて出来ないと思うけど」




「私は自分の旦那様に毎日手料理を食べさせたいので日々修業しているのです」




「…そうなの?」




「私はディルクがおいしそうにご飯を食べている時、幸せです。オルドやジェンドやポッチやマリーやネックスが私が作ったおやつを幸せそうに食べているのを眺めるのも大好きです」




「ロザリンドは餌付けが趣味なの?」




「え…?」




 オルドは冗談ではなく本気で聞いているご様子。予想外の単語に一瞬硬直する私。オルドは暗殺者として育てられたせいか、たまにとんでもない事を言ったりやったりする。




「いや、普通に自分のしたことで他人が喜ぶと嬉しいんだよ」




「そういうもの?」




「うん。そういうものですよ」




「よくわかんないや」




 オルドは首をかしげた。




「少しずつ理解しなさい。ここにずっと居るつもりなら」




「…わかった」




 オルドは私に頭を撫でられ…撫でやすいようにわざわざ頭を傾けた。…まて。子供達よ、何故並ぶ。私は子供達+精霊さん達までナデナデするはめになりました。




 気を取り直してたまたま持ってた調理キットを広げ、子供達が採った山菜やらキノコの下処理をします。




「お姉ちゃん、すごい」




 子供達の中でも素直なポッチが尻尾をフリフリしています。くぅ…!包丁もってなければもふれたのに!




 子供達もお手伝いです。私が下処理したお肉や野菜を串にさしています。


 そして、それを焼くコウ。ピクニックからの狩り→バーベキューです。




「おいしいー」




 皆、よく食べるなー。私はひたすら調理して調理して調理して…




 皆さん、本当によく食べました。さて帰ろうかという頃になり、なんだか不穏な気配がしてまいりましたよ?




「…お姉ちゃん」




 不安そうに私に寄ってくるポッチ。大丈夫、大丈夫。お姉ちゃん強いですよ。




「スイとアリサは連携して結界」




「「はーい」」




「コウはドラゴンになって皆を守りなさい。ゲータも念のため子供達と結界内に居て」




「うん!」




「ま、待てよ!護衛の意味ねぇだろ!」




 私はゲータの言葉は無視して戦乙女の指輪を双剣に変えて、ロザリアにチェンジした。オルドは結界をすり抜け、参戦するつもりのようだ。




「行くよ…!」




 敵は狼型モンスターバーサクウルフ。ただ、数が多い。確かにこのモンスターは群れる習性をもっているけど、30体以上で襲うなんてこの森に狩りに来た時だってなかった。




 次々とロザリアは魔物を切り捨てるが、数が多くてラチがあかないので身体強化はせずにオルドの位置を確認してから広範囲殲滅魔法をハルと作動させた。




「総てを切り刻め、怒りの風よ!刃の暴風!!」




 周囲の魔物は一瞬で切り刻まれた。うぁ、地味にスプラッタ。焼けばよかったかしら。




「ふむ?」




 一応さっき倒したうちの1体は攻撃しないでおいたのだが…頭からキノコが生えている。この魔物は元はキノコは無いはず。


 スイが大丈夫と思ったのか、結界はアリサに任せて側に来た。




「これ、多分キノコを媒介にした呪いだよ。頭に胞子を植え付けて操るの」




「…それ、植えられた方は…」




「…早ければ大丈夫」




 多分だが手遅れな場合、キノコは最終的に脳に到達するのではないだろうか。怖い!それなんてホラー!?




「…え?」




 まるで幽霊みたいにフラフラと今度は人間…しかも騎士団の制服を来ている。ざっと見50人は居るよ!?


 またか!?また騎士団襲われちゃったわけ!?




「スイは結界をハルと展開!」




「アリサ、あれ解呪できないかな?オルドは空中で待機。攻撃しないで!」




「はぁい。多分大丈夫。植物の呪いだから難しくないよ」




 アリサに魔力を注ぐ。巨大な緑の魔法陣が出現した。




「「悪しき呪いを溶かして消し去れ。緑の浄化!」」




 私とアリサの魔力が呪いを…頭のキノコを消し去る。うあ、よくみたら目とか虚ろでホラー映画かよ!怖いよ!キモいよ!


 バタバタ倒れる騎士団の皆様。全員そう時間は経ってなかったらしく、大丈夫そうだねとスイが言う。ん?見覚えある顔がいる。




「ロスワイデ候爵子息?」




「ん…何故君がここに?」




「ピクニックにきたのですが」




「…」




「…」




「…運がいいのか悪いのか」




 まったくだ。今日は休暇だったのに。のんびりする予定だったんですよ、子供達と。




「…ディルクは?」




「まだ交戦中だろう。さすがに同僚に手を出せないらしく、うっすらだが苦戦していた気がする」




「オルドは周囲を警戒!街に行こうとするモノがあれば報告して!」




「俺は戦いたい」




「今回は駄目!魔物は倒してもいいけど、騎士はなるべく無傷で回収する。倒れてる人達は任せるよ、ロスワイデ候爵子息!」




「わかった。すまない」




 まだふらつくのか、顔色が悪いが了承は得た。




「アリサ、頑張ってもらうけど大丈夫?」




「まかせて、ママ!」




「待って、お姉ちゃん、僕も行く!僕、あしでまといにならない!僕、捜すのとくいだよ!匂いもたどれるから!」




 確かにジェンドの超直感は捜すには向いているし、鼻もいい。




「無理しない。危険なら私を置いてでも逃げる。約束できなきゃ連れていかない」




「やくそく、する!」




「なら、おいで!ジェンド、アリサ、行くよ!!」




 私達は森に向かって駆け出した。


















「ジェンド、どっち!?」




「多分あっち!やな感じがする!」




 暗い森をひたすら走る。コウが居ないのにたまに襲って来る魔物もいない。森の中は静まり返り、異常だった。




 私は思いついて、通信の魔具を作動させた。




「強制始動。対象はディルク、カーティス。最大音量、呼び出し音作動!!」




 けたたましいベル音が森に鳴り響く。方向は間違っていない。そして、そんなに遠くもないようだ。




「呼び出し音停止。強制通話」




「な、何!?壊れた?」




 焦るカーティスと剣を打ち鳴らす音が聞こえる。




「壊れてないよ」




「カーティス、俺はもう駄目かもしれない。天使の声が聞こえてきた。最期にロザリンドに逢いたかった…」




「いやいや、本物だから。つか、何?天使って何?天使は私の声なの?」




「むしろ助けが来たから頑張れよ!ロザリンドにカッコイイとこ見せてやれ!」




「ろざりんど?」




「今助けに行くから、頑張れダーリン!」




「…うん!」




 私達がディルク達と合流すると、かなりの乱戦になっていた。完全に囲まれ、背中合わせに孤立するディルクとカーティス。これは確かに現実逃避のひとつもしたくなろうというものである。




 私はあらかじめいつでも発動できるよう用意しておいた魔法を発動させる。




「「緑の浄化!!」」




 騎士達はバタバタと倒れていく。ディルクもカーティスも満身創痍だ。




「ディルク!」




「あー、大丈夫。致命傷はないよ。かすり傷だけ」




 とはいえ、回復魔法をかけてやる。確かに傷はたいしたことないが、疲労が酷い。




「ロザリンド、俺もー」




 ぐったりしたカーティスにも回復魔法をかけてやる。カーティスも似たような状態だ。鍛えているこの2人がここまで疲弊するなんて…




「カーティス、あんた嫌な予感は無かったの?」




「…多少はあったけど大丈夫な感じだったからなー。もしかしたらロザリンドがたまたま近くに居たからかもな。じゃなかったらマジでヤバかったわ」




「ちなみにどのくらい戦ってたのよ」




「5時間…ぐらい?」




 マジか。ディルクも豪快な腹の虫が鳴ってます。私の分の焼き菓子をとりあえず2人に渡し、ジェンドに聞いた。




「ジェンド、嫌な感じはまだする?」




「うん。あっち」




 ディルク達は魔物の異常発生の知らせを受け、早朝から討伐に向かっていたらしい。キノコ付きの魔物が多数出現し、倒していたところ仲間からもキノコが…




「目が虚ろだし怖いし、動きは直線的だけど力が異様に強くて…」




「しかも数が数だし殺すわけにもいかねーしでな」




 八方塞がりで持久戦になっていたところに私が来たらしい。




「お姉ちゃん、何か来る!」




 ジェンドは私があげた鈎爪を向ける。


 うげ、ルドルフさんまでいるし。魔物も多数。




「ジェンド、魔物は倒して!カーティスとディルクは騎士を抑えて!」




 雑魚を蹴散らしても仕方ない。魔力のモトを探す。




「あ、あがぁぁぁ!?」




 キノコを生やした魔物と騎士達が一斉に苦しみだした。




「あー、テステス。ロザリンド、聞こえる?」




「スイ?」




 多分魔力の波長からして間違いないだろう。




「うん。よく解ったね。向こうでじっとしてるのも暇だから、キノコに介入してみたら出来た」




 なんというチート。相手の呪いに介入して主導権を奪ったらしい。




「呪いのモトは近くに居るね。呪いにかかったのはこいつらで最後みたいだよ。頑張ってね」




「了解。助かったわ。明日のおやつはスイが好きなものをたくさん作るからね」




「やった。楽しみにしてるよ」




 さて、モトを探さなきゃね。サクッと浄化でキノコを消し去り周囲の気配を探る。




「お姉ちゃん、あっち」


「ロザリンド、あれ」




 超直感もち2人が同時に指したのは、全身キノコの魔物。




「ん?」




 魔物の周囲に何かがみえる。鎖?呪いの類いかな?




「アリサ、あれ消せる?」




「多分、大丈夫!」




 アリサの光で鎖が消えた。すると、キノコがゴロゴロ落ちてモグラになった。いや、デカ!熊サイズのモグラですよ!モグラの魔物…はいないから獣人?




「助かりましたぁぁぁぁ!あなたは命の恩人ですぅ~!」




 つぶらな瞳のモグラさんは泣き出した。ん?どういうことかな?


 モグラさんが言うには、モグラさんは土の精霊で、昼寝をしてたら呪いを植え付けられ、魔力を吸われてただ呪いを撒き散らし続けていたそうな。声も出せない。助けてと泣いても、涙からも魔力を吸われキノコになる。か、かわいそう…えっぐい呪いだなぁ…




「ディルク…」




「んー、このキノコを魔法院で調べてもらうか。モグラさん、悪いけど君を重要参考人として連れていくよ。大丈夫、悪いようにはしない」




 ディルクは私に笑いかけた。キノコは封印布にくるむ。私も一応回収した。まとめてじい様に調べてもらうかな。


 モグラ君はディルクに頭を下げた。




「はいぃ、みなさんにもご迷惑をおかけしましたぁ」




 残念なことに、モグラ君は自分を呪った相手については何も覚えてないそうな。




 丘に戻ったら、スプラッタだった魔物は綺麗に解体されていました。オルドとスイが危険はないと判断したかららしい。




 バーベキュー再び。朝から働いて腹ぺこな騎士さん達にふるまうことになりました。ひたすらに下ごしらえ、子供達がお手伝いし、コウが焼く。




 調理やら何やらで疲れきった私はディルクの膝で爆睡して、気がついたら家でした。




 学校から帰宅した何も知らない兄に私は言いました。




「兄様、今日は子供達とピクニックに行きました」




「楽しかった?」




「はい。途中まではピクニックでした。途中から狩りバーベキューになって、魔物とキノコに襲われて、騎士団を助けてきました」




「本当になにやってるの!?」




 まったくだ。兄のツッコミに心が安らぐ私でした。


 休暇のはずが、なぜか更に疲労した私でした。

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