第63話 お城での攻防
私はなんとかエンドレスお説教を回避しました。私は起きてから大人達が作った資料を読み込み、打ち合わせをしています。
玄関が騒がしい。そろそろ来たかしら。誰かが私の部屋をノックする。入室許可をするとマーサが入ってきた。
「お嬢様、城に来るようにと陛下からの使者が来ました」
「わかったわ」
いつもより身支度に気合いを入れる。悪役令嬢ロザリアが好んだ深紅のベルベットドレスによく似たドレスを選ぶ。ロザリンドの姿にも、深紅はよく似合った。そして化粧は女の戦闘装束ですよ。ドレスに合わせた真っ赤なルージュと戦乙女の指輪を扇子に変えて、母の作ったショールをはおります。
さあ、戦闘開始です!
お城の謁見の間では延々と貴族の名前と罪状を述べるという作業が繰り返されました。いやー、大漁ですよ。総勢40人だったかな?騎士&獣人部隊の皆様は優秀でした。
応答は父がしており、気合い入れてきたんですが、私は暇です。
私の後ろに聖獣様がきました。わーい、とモフろうとすると…あれ?ご機嫌ナナメですか?
『ロザリンド、何故我を仲間外れにした』
念のため音を散らす魔法を発動させる。口元は扇子で隠して読唇できないようにした。
「…いや、仲間外れではありません。今回は隠密行動でしたから…聖獣様はどうしても威厳があって目立つので。それに夜は得意じゃないでしょう?」
『むう…』
一応納得はしてくれたご様子です。モフ許可が出ました。わーい、もふもふー。
緊張感のカケラもなく、もふもふを堪能する私にもお鉢が回ってきちゃいました。
「こたびの件は、そのロザリンド嬢が我々を陥れたのだ!」
ぶっちゃけそうですが、罪状は仕込んでませんよ。あんたらがしたことです。
「まあ…」
私は驚いたふりをしてみせる。聖獣様、横で笑わない!年末の笑っちゃいけない番組みたいな気持ちになりつつ私は聞いた。
「私が?何のために?」
ジェラルド公爵に疑問を投げかける。いや、無茶いうな。私7歳。さすがにありもしない罪を仕立てあげたりする高等テクニックはないからね?
「騎士達の手際が良すぎる。あらかじめ嵌めるつもりだったのだろう?」
「まあ!騎士様達が証拠を捏造したとでもおっしゃいますの!?」
周囲の人々がざわつく。私は大袈裟に驚いたふりをした。
「ありえませんな。いくら公爵閣下といえども、騎士団への侮辱は許しませんぞ」
ジェラルド公爵を睨みつけるルドルフさん。実際に、捏造はしてませんしね。
私は扇子を優雅に振って、余裕の表情を見せる。
「まあ、実際手際は良かったでしょうね。騎士団の中でも有能かつ信頼できる方を選び、無駄足になる可能性もありましたが、今回の件での該当貴族の屋敷付近で待機依頼をいたしましたもの。証拠隠滅されては困りますから」
私はにっこり笑ってみせた。
「ふむ、ではロザリンド嬢。何故騎士達を待機させていた?」
「私の暗殺計画がありまして。とある筋から情報がありましたの。犯人は同じなようだから、丁度良かったのでセットで片付けてしまおうと思いました」
聖獣様、プルプルしないで。私までわらっちゃうよ。やめて。
「セットで…か」
そこ重要じゃないだろ、王様。やめて、そろそろ私の顔面筋肉が…扇子で隠せる気がしないんだけど。
「ロザリンドを暗殺!?犯人は誰なんだ!?」
まともなアルディン様がまともなツッコミをくれました。ありがとう、私の顔面筋肉もおかげで元に戻りました。笑い出すとこだったよ。危ない、危ない。
「ふふ、私を殺そうとなさった方をお呼びいたしますわ」
昨日私を刺そうとした貴族が拘束されたまま連れてこられた。
「私はこの娘に誘拐されたのだ!私は被害者だ!」
ニヤリと笑うジェラルド公爵。いやいや?口裏合わせても駄目ですよ。
「これを見ても同じことが言えまして?」
パチンと私が指を鳴らすと、録音・録画魔具が作動し大きくとあるシーンを映し出した。
「あの方…私はここで死ぬのでしょう…私を殺す方は、どなた?」
私のか細い声がします。私の演技もなかなかですね(笑)映し出された得意げな貴族の男は今は顔面蒼白で震えています。
「冥土の土産に教えてさしあげます。私に貴女を殺すよう命じたのはジェラルド公爵ですよ」
銀のナイフを振り上げる貴族の男。
私がパチンと指を鳴らすと映像は消えました。
「捏造だ!でっちあげだ!!」
泣きながら喚き散らす貴族の男。実はこの映像は偽装できなくはないが、できないことにしてたほうがいいかな…と考えているとアルフィージ殿下が発言した。
「…ロザリンドなら捏造できなくはないが、時間がかかるはずだ。それにこれは本物だね。背景なんかが細か過ぎる。ノイズがない」
アルフィージ殿下が私の魔具を確認する。あはは、こないだ使用許可申請した時いくつかあげたとはいえ、そこまで解るなんてさすがです。
「わ、私は関係ない!そこの者もロザリンド嬢と共謀…いや、私を陥れるためにこの者が勝手にやったのだ!」
「ジェラルド公爵…」
切り捨てられた事実にショックを受けた貴族さん。かわいそうだけど君も捨て駒なんだよ。
「そうは問屋が卸しません!ここに許可申請書があります。アルフィージ殿下と国王陛下に許可をいただいたモノです」
アルフィージ殿下(腹黒)が悪い悪戯っ子の笑みを浮かべる。
「ああ、思い出した。ジェラルド公爵の執務室とか、何箇所かにきちんと使用出来るか仕掛けたやつだよね?」
「はい。バッチリ映ってました。使用は問題なかったです。そこにたまたまこんなものが映ってたんですよね」
問題は検索がしにくいことかな。改善の余地ありでした。チェックが大変でしたよ。私がパチンと指を鳴らすと再び魔具が映像を映し出す。
映し出されたのはジェラルド公爵の執務室。例の貴族と公爵の会話だ。
「忌ま忌ましいローゼンベルクの小娘が!」
「ジェラルド公爵、貴方の憂いは必ずや私が晴らします。あのような小娘、始末してしまえばよいのです」
「策があるのか?」
「罪はワルーゼに被せてしまえばよいのです。全てはジェラルド公爵閣下のために」
うやうやしく礼を取る貴族の姿を最後に映像は途切れた。
「これでも無関係ですか?ちなみに他にも色々面白いモノが撮れてますけど、アルフィージ殿下(腹黒)にあげました。不倫とか、使えそうなネタを厳選しましたよ」
「…何してるの、ロザリンド」
微妙な表情のディルク。ちなみに不倫映像に大当りして悲鳴をあげてましたね。映像確認は量がありすぎて分けて確認しました。
「世の中ギブアンドテイクですよ」
私はディルクに笑いかけた。腹黒い殿下は見返りに陛下に話を通して騎士団派遣を承認してくれました。
「その映像は決定的ではないな。私がロザリンド嬢を疎ましく思っていたのは認めよう。しかしこれは何を指示したか明確ではない」
さすがは公爵閣下。この程度の引っ掛けにはかからないか。
「そうですわね。メインは後でにしておきましょう。先に余罪を出しておきましょうか。罪状は税金着服、国境部隊の不正使用、ウルファネアへの情報漏洩です」
「…は?」
私は国王陛下に証拠書類を渡した。
「ジェラルド公爵のみならず、多数貴族の関与を認めました」
国王陛下は書類を確認する。腹黒い殿下も読んでいる。
「しかし、ここまで調べられるものか?内通者でもいなければ…」
流石は腹黒い殿下だ。賢い。にやりと私は笑う。
「それについては協力者がおりますの。平民ですが、発言の許可をくださいますか、陛下?」
「許す」
「では、ラビーシャ、来なさい」
「はい、ご主人様」
メイド服に身を包んだウサ耳癒し系美少女が現れた。彼女は優雅に礼をとる。昨日仕込んだにしては上出来だ。
「ラビーシャ、説明なさい」
「はい、ご主人様。私はワルーゼ商会の長女でございます。我が家は貧しい子供達を無償で預かっておりました。しかし個人では限界がありまして…お金に困った時、ご主人様から援助のお話がありましたの。私は兄と父に話そうとしたところ…聞いてしまったのでございます」
ふるり、とラビーシャちゃんは震えた。か弱い兎さんそのものな姿は、人々の庇護欲を誘う。うん、私の演技はまだまだだ。ここに女優がいるよ。
「ラビーシャ、大丈夫?」
彼女を気遣う様子を見せる私。いやぁ、彼女の演技の後だと大根だね!
彼女は震えながら健気に微笑みを見せた。
「大丈夫です。ご主人様のためですもの。私は、兄が貴族様に脅されている所を見たのです。言うことを聞かなければ、家族も預かっている子供達も皆殺すと…」
はらはらとラビーシャちゃんは涙を流す。しゃくりあげながらも彼女ははっきりと言葉を続けた。
「兄は、私達のために断れませんでした。私は耐えきれずご主人様…ロザリンド様にご相談しました。ロザリンド様は言いました。なら、それを逆手に取ろう。脅す貴族を一網打尽にするために、耐えてほしいと、私におっしゃられたのです。今陛下がお持ちの書類は私達が屈辱に耐えながら集めた証拠にございます。ワルーゼ商会は命より大切な顧客までも売った状態です。再起不能でしょう。いくら証拠集めのためとはいえ、罪を犯しました。それは償わねばなりません」
ラビーシャちゃんは背筋を伸ばし、涙に濡れた瞳をそのままに、真っすぐ陛下を見つめました。
「国王陛下、この下賎な身ではありますが、お願い申し上げます。どうか、この貴族様方に裁きを…!」
場が彼女にのまれていた。ワルーゼ家のメンツは腹芸に向かないから彼女が協力者でいくことにしたのだが…予想以上だわ。
圧倒的な演技力と場の空気を読んだ効果的パフォーマンス。素晴らしい。
「うむ。この証拠はきちんと調査された結果であるな。受理しよう。該当した貴族は必ずや何らかの罰を受ける。娘よ、よう頑張ったな」
「…はい、ありがとうございます。ありがとうございます…」
すすり泣くラビーシャちゃん。いやぁ、本当にお疲れ様です。証拠の信憑性アップに加えてジェラルド公爵=悪者イメージをがっつり植え付けてくれましたね。いい仕事してくれました。
「ラビーシャ、なかないで」
「…ジェンド?」
ジェンドがラビーシャちゃんの涙をぬぐう。
「お姉ちゃん、あのおじちゃんは僕らをいじめてた悪いおじちゃんだよ。悪いおじちゃん、ラビーシャをいじめたの?」
な ん だ と ?
「ジェンド?とっても大事なことだから、お姉ちゃんに教えてくれるかな?」
「うん」
「ジェンドを傷つけてロクに手当もせず放置したあげく、ご飯もあげずにこき使った最低野郎が、あのおじさんなのかな?」
「うん。あのおじちゃん。僕だけじゃないよ。じゅうじんはテーゾクでけがらわしいとかいってみんなをいじめたの。僕、お姉ちゃんにあった日はがまんできなくて悪いおじちゃんにかみついたら、もっとたたかれてはだかですてられたの。雨がつめたくて、僕しぬのかなって思ったら、お姉ちゃんがたすけてくれたの」
しん、と静まり返る場。魔力が暴走しそうなくらい、激しい怒りが私の中で渦巻く。
「陛下、ジェンドは私の父の妹の長男です。私の従兄弟にあたります」
「…そうか」
「とりあえず、同じ行為を精神的に与えてはいけませんか」
「……後にしなさい」
よっしゃあ!後で地獄を見せてやる!ジェンドや子供達に聞いた話をリアルに再現したあげく地獄の責め苦を見せてやる!
「かしこまりました。では、話を戻して私の暗殺未遂ですね」
私は陛下に私の暗殺契約書を渡した。
「これはジェラルド公爵の屋敷、魔力認証の箱に入っていた書類です。さらに…」
「連れて来たわよー」
母に連れられ、アークとマーサに捕縛された虫さん達。暗殺の契約書は基本契約を違えればペナルティーが発生する呪いがかかっている。
「これが本物なら、契約不履行をした者に反応するはずです」
契約書を虫さんに近づける。1番小柄な虫…少年が苦しみだした。契約書も光り、呪いを発動させる。相当苦しいはずなのに声を出さないのは暗殺者だからなのか。
「アリサ」
「はぁい」
アリサの解呪が発動し、呪いを溶かす。呪いが解けた小さな少年は浅い息をしていた。
「貴方の依頼主は誰?」
「あの男だ。名前は知らん。あんたの暗殺を依頼された」
少年はジェラルド公爵を指差し、見据えた。
「私は知らん!何故私がこんな小娘を殺さねばならぬのだ」
「動機ですか」
ここまでくれば、証拠は充分だし言わないでおいてやろうかなと思ってました。でも、私の可愛いジェンドを虐めた奴は許さん!
うちの嫌がらせのプロフェッショナルに心を折られてしまえ!黒歴史を晒されて、後悔するがいい!
スイさん!お願いします!
「君は私の光。ルーミア、君の瞳はまるで星。君は私の花。君は何より美しい。私のいとしのルーミア。私の愛に応えておくれ。つれないのは気をひきたいだけなのだと、私はわかっているよ」
「私、貴方みたいに性根が腐ったひと、大嫌いです!私の大切な息子に酷いことして!最っっ低!!嫌い、嫌い、だいっきらーい!!」
昔のジェラルド公爵の恋文を朗読したスイ→それにガチの返事をするルーミアさん→ジェラルド公爵涙目。
「しかもセンス古いわ独りよがりだわ、さいてー」
さらに的確に傷をえぐるスイさん。さすがです。私が頼んでおきながら、ちょっと後悔してますよ。
「つまり、好きだったけど相手にされなかったルーミアさんの結婚相手が獣人だったから獣人を憎み罪のない獣人の子供を虐待した。私がルーミアさんに似ていたから憎かった。おまけに血縁でしたしね」
「さいてー」
ルーミアさんは絶対零度の眼差しでジェラルド公爵を睨みつけています。まぁ、最低ですね。同感です。
対称的にスイは楽しそうです。
「まだまだあるよ。自作ポエムにー、自分に酔った日記なんかも。ガンガンいくよ!」
「やめてくれ!もうやめてくれぇぇ!!私が、私がやりました!!牢獄に繋いでください!」
あ、ジェラルド公爵が陥落した。
「えー、ポエム詠みたいんだけど、駄目?」
スイもジェンドを可愛がっていたからかなり本気で怒ってるんだよね。仕方ないかなと許可した。
「…まぁ、いっこだけなら」
「じゃ、これ
タイトル・君の瞳は100万ボルト
君の笑顔、俺の心にジャストミートさ☆
ビリビリ胸が痺れるYO☆
刺激的、100万ボルトに値する。
おれは、君に焦がされる。
まるで、電気U☆NA☆GI☆」
「……」
スイの無駄にイイ声でラップ調に読まれた。これは酷い。なにこれ。ポエム?ポエムなの??
「へんなのー」
無邪気なお子様が正直な感想を述べてしまいました。
「お姉ちゃんもそう思う。むしろコメントしにくいわ。酷いを通り過ぎて痛い。痛すぎる。聞いてる方もダメージ喰らうとか、ある種の才能はある気がするけども」
「うがぁぁぁぁぁ!!」
私の正直過ぎたコメントに乱心したらしい。ジェラルド公爵は私に襲い掛かるが隣のディルクに一撃で倒された。
「ディルクかっこいい…」
「ロザリンド、怪我は?」
「ありません!」
にっこり笑ってディルクの片腕にだきつく。ディルクは私をナデナデしてくれる。そんなご機嫌な私にスイが話しかけた。
「しかし、さすがはロザリンドだね。的確に相手をえぐってるよ」
「…そ、そんなことないもん」
結局ジェラルド公爵は様々な罪で投獄され、死刑は免れないだろうとのことでした。
私達はそれぞれ解散し、私は父の仕事手伝いに勤しむのでした。情報漏洩に関してはどの程度までかが私達の調査も完璧ではなかったので当面は尋問になるそうです。
こうして、長かったロザリンド暗殺未遂事件は終結したのでした。
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