第60話 証拠隠滅なんてさせませんよ

 ワルーゼ邸の監禁部屋に到着。




「マーサ、アーク」




 私の声で意図を察した2人が消えた。そして新たに4人捕まえてきた。私の従者姉弟の正体が解りました。忍者です。間違いない。ゲータもドン引きしているが、私も負けてない。とてもびっくりしている。




「闇様、いる?この4人とこの男に眠りを。あと、この屋敷全体に何も起きてないように見える幻影をお願いします」




「うむ、任せよ」




「わー、頼りになるー」




「う、うむうむ!我にかかれば造作もない!」




 闇様、感謝はしてるけど私棒読みだよ?チョロすぎないか?




「ハルとスイとアリサは連携して防音と侵入阻止結界」




「「了解」」


「はぁい」




「コウは念のため熱源を感知したら教えて。変な音がないか注意して」




「はーい」




 とりあえず、指示はこんなとこかな?




「マーサ、アーク、他に虫の気配は?」




「「ありません」」




「お前、本当に何者なんだよ!ありえねぇ!しかも魔封じの首輪をしたまま転移魔法まで…」




「ああこれ?」




 首輪はみしみしパキンと割れました。




「私の魔力に耐えられなかったみたいね」




 へっ、と嫌な笑いをしてやる。魔封じの首輪には容量があって、限界を超えると壊れる。普通は壊れないけどね。




 ドタドタと足音が聞こえ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃ顔のラビオリさんと、兎耳の癒し系美少女…見覚えあるな…が入ってきた。




「すいません!申し訳ございません!!」




 そして見事なスライディング土下座を披露するラビオリさん。土下座はもうお腹いっぱいです。


 美少女とどうにかラビオリさんを落ち着かせることに成功し、ゲータは拘束したまま話し合いということになりました。




 虫さん達は母が情報を引き出す天啓持ちだから母に任せるべきというマーサの提案と、ジェンドが消えて屋敷が大変だろうからいったんアークに屋敷に戻って説明してもらうことに。


 つーか、母?どんな天啓なの?洗脳系?だからあの無茶な誓約書ゲットできたの?母に疑問が尽きません。










 さて、名前を知らない人もいるのでまずは自己紹介から。




「申し遅れました。私はラビーシャと申します。ワルーゼ家の長女です。7歳になりました」




 あああああ!思い出したぁぁ!この子、ゲームでヒロインに情報をあげる便利お助けキャラ!!ヒロインの親友じゃん!…という内心は押し隠し、あくまでも冷静な表情で自己紹介をする。ゲータが17なのが意外。老け顔だから30ぐらいかと思った。




「…さて、自己紹介が済んだ所で貴方達の処遇についてですが…」




「俺1人でやった。俺が死ねば済む。親父や妹に手を出すな」




「とりあえず、ゲータの冗談は置いといて…「冗談じゃねえ!親父達は関係無い!!」




「…普通、公爵令嬢暗殺未遂の罪なら一族郎党死罪ですよ。貴方達、平民ですから」




「な…」


 ゲータの瞳が絶望に染まる。ようやく立ち位置を理解したみたい。貴族なら当事者のみも通らなくはないが、平民ならば通らない。




「ロザリンド様、どうか私の首で許してはいただけませんか。この子達は子供です」




「無理。私に偽証しろと?私に利がない。あと、私首は欲しくない」




「…では、何なら欲しいですか?」




 ラビーシャちゃんは私の瞳をじっと見た。賢い女の子は大好きですよ。




「貴女とか?」




「解りました。ロザリンド様に忠誠を誓います。でも、まだ足りませんよね?」




「そうね。ゲータ、あんた私の奴隷になる気はある?」




「…それで、親父達が助かるなら。奴隷でもなんでもなるから、だから…助けてください!」




 ゲータは泣き出した。本当に家族を護りたくて、ずっと脅されて限界だったのかも。私はため息をついた。




「仕方ない。ジェンドからもお願いされたしどうにかするわ。時間も無いし、手短に言う。あんたは父に雇われて、ジェラルド公爵達の仲間になったという設定よ」




「は?」




「つまり、あんたは私の父、宰相の指示で潜入捜査をしていた」




「…!はい!」




 理解したらしく、ゲータの瞳に光が戻った。




「細かい設定は後で詰める。ジェラルド公爵とその一派を罪に問える書類を全て出しなさい!」




「はい!」


「解りました!」




 あれ?ラビーシャちゃんも?ラビオリさんはポカーンとしてる。


 待つ間、ラビオリさんからぽつぽつ話を聞いた。彼は貧しい子供達を預かり、孤児院もどきをしていた。ゲータが金策をしてくれて、最近はかなり上手くいってた。多分ゲータが脅されていたのはその辺りからだろう。


 孤児院もどきはボランティアで儲かるものではない。だが、息子も娘も賛同してくれて自分達も食うに困っても文句を言わなかったと泣きながら語った。




 ラビオリさんの話が終わる頃、2人が戻ってきた。両手に抱えた書類を私に渡す。


 ざっと目を通したが、すごいわこれ。無言でマーサに渡す。肉食獣の笑みをこぼすマーサ。迫力がすごい。


これなら確実に罪に問えるね。




「わ、私も私なりに証拠を集めておりました。いかがですか?」




「上出来よ」




 恐る恐るラビーシャちゃんは言った。私の言葉に嬉しそうにしている。可愛いが、恐ろしい。この年齢でこれだけのモノを出せるなんて…敵に回したくないわ。




 私は魔力をこめ、電話もどき、改良版魔具を発動した。




「待機中の騎士団ならびに獣人部隊の皆様にお知らせします。証拠を確保しました。特に第一部隊…カーティスはジェラルド公爵邸を優先で捜索。他の部隊の皆様はあらかじめお渡ししたリストの貴族邸宅の強制捜索をお願いいたします。変更はありません。よろしくお願いいたします」




 次々と各部隊から返答が来る。証拠隠滅されたら困るんで、あらかじめ騎士団からカーティスの超直感で選別した部隊に今回の強制捜査を依頼し、待機してもらってました。


 暗殺失敗したら、貴族は保身に走るよね。証拠隠滅なんてさせる暇は与えない!!




「ただいまー」




 アークが帰って来ました。ざっと経過を説明。




「んーじゃ、契約書作るか。時期は貴族どもの接触前な」




 さすが、できる従者・アークです。素晴らしい。




「そんじゃ私も捜索に参加するかな、ジェンドにもお手伝いしてもらって。ジェンドは多分超直感もちだから捜索はかなり得意なんじゃないかな」




「ならジェンドは僕とアリサとで行動したらいいよ。ハルだけでもこの屋敷ぐらいなら結界は充分だよ。念のため護衛にコウもいいかな?ロザリンドをいじめようとする奴は、僕らが絶対許さない」




 ジェンド⇒多分超直感


 アリサ⇒罠の呪い解除


 スイ⇒指示・参謀


 コウ⇒護衛




 見事な布陣ですね。そして、参謀スイが超やる気。むしろ殺る気。レオニードさん達の隊に行ってもらいました。




 私はディルクとジェラルド公爵邸です。カーティスとサクッと合流。




「ロザリンド、これは」




「押収」




「これは?」




「押収」




 怖いな、超直感!的確に見られたらヤバいものを発見しまくってます。しかも証拠だけではなく昔の恋文やらポエムやら、黒歴史もガンガン発掘してます。捕縛された公爵が哀れなほどです。




「ロザリンド、これは?」




「魔力認証の箱ですね」




 魔力認証は個人の魔力を認識して持ち主以外は開けられないって奴です。箱の魔力を解析、同調…




「あいた」




「ば、馬鹿な!それは私にしか開けられないはずだ!」




「このタイプは同調出来れば意外に簡単ですよ。私は全属性だから、魔力の調節さえ出来れば理論上この箱は誰が持ち主でも私は開けられます」




「ば、馬鹿な…」




 うなだれるジェラルド公爵。中身は…私の暗殺に関する契約書か。私の暗殺依頼ですね。実行者は虫の中の誰かかな。




 めぼしい証拠はあらかたゲットしたんで後はカーティスやルドルフさん達に任せ、私はディルクとレオニード隊に合流。レオニードさんどうした?遠い目になってる




「スゲーなぁ、あんたのとこの。適確に貴族の心を折るわ、ヤバいもん見つけるわで」




 たくましいうちの子達は、しっかりお仕事してました。特にスイ。彼は嫌がらせのスペシャリストです。


 ジェンドもやはり超直感もちだったらしく、次々とヤバいものを発掘。そして黒歴史で敵の心を折る連携プレーは見事です。


 私はそっとレオニードさんの隊を後にしました。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る