第59話 作戦決行

 皆様、こんばんは。ロザリンドです。ただいま私は誘拐されております。これからどうしてこうなったかお話します。




 私はまず、情報収集と同時進行で情報操作をしました。


 皆様はワルーゼの紹介の話の時に、おかしいと思いませんでした?王子のお気に入りを害するなんて自殺行為ですよね。いくら贈り人が珍しいからって、平民扱いだからって、普通しません。




 なら、話を逆転させたらいい。しようと思ったではなく、せざるをえなかった…ならどうだろう。


 その線で調べたら出るわ出るわ…要は、このワルーゼは捨て駒だったんですよ。貴族が甘い汁を吸うための汚れ役。国境付近の収賄とかも、ワルーゼを仲介させていた。ばれても、ワルーゼを切ればいいわけ。まだ奴隷売買には手を出してなかったけど、時間の問題かな。預かった子供達は低賃金で過酷な労働をさせていたよう。調べたらジェンドはワルーゼがというか、働き先で暴行されたと本人からも証言があった。あと、少し気になることがあったんですよ。今回の件でわかるとは思いますが。




 証拠は充分なんだけど、せっかくなら汚れ役より大物を釣りたいじゃないですか。というわけで今回の作戦です。




 さて、私はさらに情報を流しました。




『ワルーゼは公爵家の不興をかった』




『ワルーゼは近いうちに捕まる』




 大まかな噂はこの2つ。嘘ではない所がミソ。実際ジェンドのことがあるし、ワルーゼは脛に傷がある。探られればまずい。




 さらに商会としてこの噂は致命的。顧客は減り、信用はがた落ち。しかも、私がこの噂を流しているとの情報もだせば…まあ、私を消そうとするよね。


 更に私を消したい派閥がいるのよ。




 皆様、覚えてますか?私の死亡エンドその1です。


 その1は、処刑なんですが父がそんなの許すと思います?愛しの母の忘れ形見ですよ?勘当して見殺しにしますか?


 ロザリアとも話したんですが、これ他の貴族がウルファネアと繋がってて、私が邪魔だったせいもあるんじゃないかって話しが浮上。そもそもゲームのロザリアは結構微妙な立ち位置にいて、逆にウルファネアとの間者疑惑でもかけられ、余力のない父が拷問されるよりはとせめてもの情けで処刑を選択したのではという結論に。3年ありましたからねー、怪しい奴はピックアップ済み。そして、それがワルーゼと繋がってるのも確認済み。




 そして、仕上げにワルーゼと繋がってる騎士さんにディルクが愚痴を言う。




「ロザリンドはランクが上がって天狗になってしまい、護衛なしで冒険者ギルドに顔を出している」




「仕事の関係で行く日が定期的だが、自分がどうしてもついていけない日があり、心配だ」




 結果、見事誘拐されました!釣り成功ですよ!ちなみに発信機的魔具と録音・録画魔具も持ってます。ディルク、アーク、マーサが隠れてついて来ています。マーニャは念のため公爵邸の護りとしてお留守番。




 ちなみに誘拐の手口は、私が冒険者ギルドを出てしばらく行った辺りで路地裏に引き込まれ、何か薬品をかがされて誘拐されたわけです…私の全異常無効耳飾りのおかげで、効かず寝たふりをしています。相手がなかなか手慣れてまして、私は素早く馬車かなーに積み込まれ、隠された状態でどこかに運び込まれました。




 なんか私、ベッドに寝かされてる?んん?扱い丁寧すぎないか?




「まだ目覚めないのか?」




「多分そろそろ…」




 そんな声が聞こえたので、起きてみることに。令嬢らしく怯えた様子を見せるのも忘れない。




「ここはどこ?」




「申し訳ありませんでしたああああ!!」




「は?」




 いや、さすがに素になりました。モーニング土下座はキツイ…って、土下座?何故土下座??




「…誰?」




 目の前の頭には兎耳。ションボリすんな。慰めたくなります。兎耳のおじ様が土下座をしておりました。平凡・痩せ型、気弱そう。え?私に何が起きたから、私は土下座されているの?そして最近よく土下座される気がするのは気のせい?




「私はラビオリ=ワルーゼ、この町で商人をしております」




「は、はあ…」




「ジェンドのこと、私の管理不行き届きが招いたことにございます。誠に申し訳ございません。どうか、どうかお気を鎮め、許してはくださいませんか」




「許すと言えば、帰していただけますか?」




「もち「信用出来ねぇな」




 ラビオリさんは同意しようとしたが、背後にいた柄の悪そうな…蛇?いや鰐かな獣人が遮った。




「貴方は?」




「名乗る必要はない」




「ゲータ!失礼だろう!申し訳ございません、息子が失礼を…」




「…息子?」




「妻が鰐の獣人でして」




 おうふ、実の息子でしたか。えええ、凄いなぁ…




「親父は黙ってろ!」




 ラビオリさんはゲータとやらにつまみ出され、扉を叩いていたが…やがて泣き声が…弱いな、ラビオリさん!




「あの、お父様がかわいそうなんですが」




「うるさい」




 ゲータは私を縛り上げ、魔封じの首輪をはめ、シーツで包み窓から夜の町に出た。路地裏を通り、郊外の空き家で投げ落とされた。




「あたた…」




「いい格好ですな、ロザリンド嬢」




 私を見下ろす…誰だっけ?多分貴族だな。格好的に。誰かの取り巻きだな…多分。さすがの私もここでどちら様?とは言えない。


 知ってる風でいきます。




「…このような無体が許されると?」




「貴女は派手に動きすぎた。あの方に目をつけられたのが運の尽きですね」




「あの方…私はここで死ぬのでしょう…私を殺す方は、どなた?」




 私のか細い声(演技)にノリノリな多分貴族。




「冥土の土産に教えてさしあげます。私に貴女を殺すよう命じたのはジェラルド公爵ですよ」




 うあ、ガチで大物だわ…思い出した。この貴族、ジェラルド公爵の取り巻きで夜会に行ったときディルクを悪し様に言ったから口でコテンパンにした奴だ。




 貴族の男が私に銀のナイフを振り上げる。必要な情報は得た。頃合いだ。合図をしようとする私より速く、貴族を殴り倒したのは銀色。




「お姉ちゃんをいじめるなぁぁ!!」




 銀色…ジェンドは泣きながら、貴族を殴り倒してゲータに向かう。




「ディルク!」




 私の愛しい漆黒が意図を悟り、天井から現れてジェンドを援護する。天井からって、忍者!?今日は槍は室内戦には向かないとの判断で短剣を使っている。




 私は魔封じの首輪をしているが、耳飾りの効果で無効になっているらしく、魔法も問題なさそう。でも、戦乙女の指輪のみ発動させ、双剣に変える。




 貴族はジェンドの一撃でのびているので私を縛っていた縄を抜け、縛っておく。ウエストポーチタイプの大容量鞄から自作の魔封じの首輪を取り出し念のためつけておく。




 さすがにジェンドとディルク相手ではもたず、ゲータも地に伏した。




「お姉ちゃん!」




 危険はないと判断してか、私に駆け寄るジェンド。




「ジェンドはどうしてここに?」




「…いやなよかんがしたの。お姉ちゃんが…お姉ちゃんになにか危ないことが起きるきがして、僕お姉ちゃんの匂いを追いかけたら、お姉ちゃんをおじさん達がいじめようとしたから…」




「お姉ちゃんを助けてくれたのね?ありがとう、ジェンド」




「僕、お姉ちゃんをたすけられた?」




「うん。ところでジェンド、喋れるようになったの?」




「ん?…あれ?しゃべれてる」




 ショック療法だったのか、本人も無自覚だったご様子。




「ロザリンド!怪我は?」




「この通りありません…って、ディルク!手!血!」




 ディルクの両手は流血している。慌てて回復魔法で癒す。




「…我慢するために握りしめすぎたかな…」




 あー、なんかゴメン。逆の立場なら私もきついもんね。作戦とはいえ、我慢したんだね。血まみれの手に口づけた。








「…殺せ」




 ほんわかムードをぶち壊す低い声がした。ゲータだ。




「殺せ!俺が今回の首謀者だ!」




 ん?いや、首謀者は別ですよ?




「ゲータ、わるぶるのやめなよ。僕、ゲータはわるいやつじゃないって知ってるよ?」




「うるせぇ、黙れジェンド!」




「お姉ちゃん、ゲータはたすからないの?」




 ジェンドの話によると、もともとラビオリさんは優しい人だが商談でウルファネアに行った辺りから貴族が来るようになり、扱いが酷くなった。ゲータも脅されて従っていて、子供達にこっそりご飯を持ってきたりしていたらしい。




 やっと繋がったわ。ワルーゼの悪評は情報操作か。いくらお嬢様とはいえ、子供を信頼できない人間に預けるだろうか。ラビオリさん自体は善人で、他の獣人に介入する気を起こさせないための悪評ね。うん、徹底的に捨て駒扱いですね。




「うーん、無罪放免は無理だけど、抜け道はあるよ」




「ぬけみち?」




 キラキラしたジェンド…うう、汚れない瞳…




「お嬢様、ご指示通り虫は全て駆除いたしました。闇の精霊様の魔法で朝までは目覚めません」




 ひー、ふー…6人かあ。結構いたね。




「お疲れ様、マーサ、アーク」




 潜んでる暗殺者または連絡要員がいるはずとあらかじめ2人に捕縛指示をしてありました。




「取りこぼしは無いはずだぜ」




「ありがとう。アーク。とりあえず、全員ワルーゼ邸に戻ろうか。証拠隠滅に放火されても困るし」




「はぁ!?」




 驚愕するゲータ。説明をしてやる。




「貴方は捨て駒なんだから、失敗したら証拠隠滅するに決まってるじゃない。暗殺なんか仕掛ける輩なんだよ?手っ取り早いのは火でしょう」




 うなだれるゲータ。




「それに、無関係な方々が巻き込まれて殺害される恐れもございます。さすがはお嬢様」




「あ…あ…」




 なんか絶望してるゲータ。だからさせないって。でも説明が面倒だったし時間もないので、全員まとめてワルーゼ邸に転移しました。


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