第52話 私とジェンドと聖獣様と騎士の皆様

 聖獣様とジェンドのブラッシングが終了した辺りで、聖獣様からお話がありました。




『そういえば、今日は騎士達が模擬試合をするからディルクは遅れると言っていたぞ』




「え、見たい!カッコイイディルクが見たいです!」




「あー」




 くいくい私の手を引くジェンド。なら行こうと言ってるようだ。




『ふむ、ならば急ぐか』




 獣人姿になった聖獣様に私とジェンドは担がれました。嫌な予感しかしません。




「みぎゃぁぁぁぁ!!」




「あー」




 恐怖で叫ぶ私。楽しそうなジェンド。普段怖がりなのに絶叫系的なものは平気なようです。


 現在3階から落下中。騎士の訓練所は1階なんで、近道だと飛び降りた聖獣様に巻き込まれている私達です。




 訓練所に到着すると私はぐったりしていましたが、




『お、ディルクだな』




 という聖獣様の一言でアッサリと復活。




「きゃぁぁぁ!ディルク素敵ー!!」




 私の変わり身の早さに呆れる聖獣様。ちょっと驚いてるジェンド。


 そしてびっくりして相手を投げ飛ばしてしまったディルク。無駄のない動きですね、素晴らしい。




「おーい、たまには混ざるか?嬢ちゃん」




 私を見つけたルドルフさんからまさかのお誘い。




「え、マジですか?」




 ざわつく騎士さん達。ロザリアが超やる気です。実戦に優る訓練はないそうな…いやいや、ジェンドを見知らぬ大人達の中に置いて行けません。え?聖獣様が面倒みるから大丈夫?聖獣様の心くばりに色んな意味で涙が出そうです。


 ジェンド…そのジェスチャーはいってらっしゃいですか、そうですか。




 というわけで…ロザリンド、飛び入り参加決定です。




 さすがにドレスでの参戦は…できなくはないがしたくないので騎士見習いの服に着替えて準備万端!




「あ、ルドルフさんに質問です。魔法は使用可能ですか?」




「おお、魔法主体な相手との戦闘経験も必要だろうからな。加減はしてくれよ?」




「了解しました!死なない程度に痛めつけます!」




 周囲の騎士さん達に怯えられました。…誰だ、魔女王超怖いとか言ったの。いまだに言う人が居たんだね。




 初戦はロスワイデ候爵子息でした。




「よろしくお願いします」




「手加減はせんぞ」




「望むところです」






 向かい合い、武器をさらす騎士の所作をとる。私の武器は素早さ重視の双剣。対するロスワイデ候爵子息はロングソード。




「では、始め!」




 既に身体はロザリアが制御している。合図と同時に加速の魔法を展開。ロザリアは一瞬で距離をつめ、双剣の柄でロスワイデ候爵子息をしたたかに打ち付けた。




「かは…」




 お腹をおさえて倒れるロスワイデ候爵子息。そして動かない。




「あや?」




「し、勝者ロザリンド嬢」




 勝ちました。あ、すいません。痛いですよね。治癒魔法を使います。治ったーと思ったら、怒鳴られました。




「普通魔法を使うだろう!」




 え?怒るとこそこ??




「使いました」




「は?」




「加速、しました」




「……そうか」




 なんかうなだれてしまいました。次は負けないからな!と言われましたが、次はないといいなと思います。


 あの人、騎士団の中ではかなり強いんで、奇襲しようとロザリアと作戦たてて挑んだんですから。




「いやあ、さすが嬢ちゃんだな!アイツはなかなかの腕なんだが、魔法も使わずとは思わなかったぜ!」




 私をバシバシ叩くルドルフさん。ちょっと、痛いです!




「魔法は使いましたよ」




「は?でも詠唱とかなかったよな?」




「詠唱なんて実戦でつかえねーとの賢者様からの教えです。前衛無しなら詠唱無しは基本ですよ」




 確かに遠隔系統で距離を稼ぐやり方はあるが、今回みたいな中~近距離では自殺行為。戦闘では詠唱なしが基本ですは、賢者の少ないまともかつ私が納得できる教えのひとつである。




「はー、嬢ちゃんは賢者のジジイに弟子入りしてたのか。さすがだな」




 何やら納得されました。さすがはダメ人間でも賢者様。帰りに甘味でもあげようかな。








 2戦目は、獣人部隊の隊長さん。レオニードさんという獅子の獣人さんです。なんか私、やたら強い人にばかり当たっていませんか?


 え?途中参加だから強いのが残ってた?…なんてこった。




 今回もあらかじめ作戦は決めてある。さあ、吉と出るか凶と出るか…




「では、始め!!」




 あらかじめ用意していた術が発動した。ディルクとジェンド達には影響がないよう発動前に遮音結界をサービス。




「うがぁぁぁぁ!!」




 効果は抜群だ!めちゃくちゃ苦しんでる!


 何をしたかと言えば、獣人の耳の良さを逆手にとりました。耳がいい=耳が敏感。では、不快な音を大音量でぶつけたら…ああなる。




 もはや戦闘不能になって悶え苦しむレオニードさん。ちなみに不快な音は窓ガラスにきいいいいって奴。練習したら風魔法で使えるように。他にもバリエーションはあるけど、ディルク曰くこれが1番不快だそうです。


 こんなアホな発想したのは私だけらしく、賢者も呆れる嫌がらせ魔法だったのですが…




「えい」




 もはや戦えないレオニードさんの喉に剣をつきつけた。


 あれ、審判…審判も涙目でうずくまってました。すまぬ。


 魔法解除したら復活しました。ロザリアに勝ったけど不完全燃焼だと文句言われました。すまぬ。




「勝者、ロザリンド嬢!」










「嬢ちゃん」




「はい」




「あの魔法は使用禁止で」




 案の定、ルドルフさんから不快な音魔法は使用禁止となりました。ロザリアにも怒られたし、もうしません。




「はーい」




「しっかし、変な魔法だな」




「オリジナルなんですよ」




「…嬢ちゃんが規格外なのはよくわかった」








 私は途中飛び入りでしたので、次が準決勝らしいです。お相手はカーティス=ブラン!相手に不足なし!超直感対策を見せてやるぜ!と超絶私はやる気…むしろ殺る気です!!




「では…始め!」


「まいりました」




「…は?」




「…カーティス=ブラン…棄権…ですか?」




 一応確認する審判さん。




「嫌な予感しかしない!棄権します!」




「ふざけんな、カーティス!私のこの殺る気はどうしたらいいの!?」




「怖いよ!やる気じゃなく殺す気と書いて殺る気になってる気がする!俺は自分の身がかわいいです!!棄権させてください!!」




 結局本人に戦闘の意思がないので受理されちゃいました。後で見てなさい、カーティスめ!絶対実験してやる!










 さて、決勝はディルクが相手でした。




「俺も棄権したら…」




「しばらく口きかない」




「…が、頑張る」




「よし」




 審判プルプルして…よく見たらカーティスじゃないか。シバきますよ。




「…始め!」




 火花が散る。ディルクも私も基本は速度重視で手数を稼ぐタイプ。しかしディルクは体格が良くなり、速度と重さを両立させた。彼の今の武器は槍。正直懐に入る隙がない。




 そこで、私の出番である。普段は物理のみで手合わせしてるから、私は身体強化を使うぐらいだったが、今日は違う。ちなみに、戦績は50戦48敗2分け。負け越してます。普通にディルクは強い。


 しかし、私はディルクをずっと観察してきた。ディルクの癖も熟知している。




「うわ!?」




 ディルクが右足で踏みこもうと重心をかけた瞬間、私の落とし穴魔法が発動した。バランスを崩した一瞬の隙をロザリアが見逃すはずもない。




「はあっ!」




 槍を弾き、空いた懐に滑り込み、喉元に刃を当てた。




「勝者、ロザリンド!」










「…はあ、負けた」




 ディルクは耳も尻尾もぺちゃんこです。ジェンドを回収するために、客席方面に歩いているのですが、ディルクのあまりのしょんぼり具合に慰める私。




「仕方ないよ、実質は2対1だし」




「んー」




 しゃがんだディルクをナデナデすると、気持ちが浮上したのか尻尾が足に絡んできた。




「見事な戦いだった。次があればぜひ手合わせしたいものだ」




 レオニードさんがいつの間にか背後にいて、頭をガシガシされた。気配なかったよ!そしてちょっと力が強すぎ…!




「すいません、正直あんなに効果があるとは…」




「負けは負けだ。次は負けん」




 おお、なかなか男気がある方ですな。




「はい、私も負けませんよ」




「…ところで、いちゃつくなら2人きりにしたらどうだ?」




「ああ…」




「は?え…あああああもおおお…ロザリンド、本当にごめんなさいぃ」




 尻尾に気がついたらしく土下座しかねないディルク。大丈夫!今回はふくらはぎだからセーフだよ!




「まあ、いつもなんで。私愛されてると実感してます」




「くはっ。良かったな、ディルク。理解ある嫁で」




「うー、はい。まだ婚約者ですけどね」




 涙目のディルクは青年でも天使だと思います。




「あ、あー」




 ジェンドが聖獣様とやって来ました。ジェンド、目がキラッキラですよ?どうした?




「お姉ちゃん、かっこいい…だって」




 コウ、通訳ありがとう。




「レオニードさん…獣人って強い=かっこいいですか?」




「ん?まあ、強い=魅力的ではあるな。雄も雌も、強いモノが好まれる風潮はある。特にその子供は狼の獣人だろう。アンタをさっきの戦闘で上位か自分のボスと認識したんじゃないか?」




「おうふ…違うと言ってくれ、ジェンド…」




「うー、あ」




「大体あってるって」




「…マジで!?いや、どっち!上位かボスかで私の心的ダメージは大幅に違うよ!?」




「あれ?ロザリンドその子供どーした?ついにディルクのもふもふに飽きたか?」




 カーティスや他の騎士さんもわらわら来ました。あっという間に取り囲まれる。




「あ…ああああああ!」




 騎士さん達に囲まれたことで、パニックを起こしたのかジェンドが叫び、怯える。騎士さん達もえ?何?とびっくり。




「だ、大丈夫!お姉ちゃん強いから!こわくないよ!」




 私の必死の説得も虚しく、ジェンドはビビりすぎて聖獣様の上でおもらしをしてしまいました。




















「誠に申し訳ありません」




 私は日本古来より伝わる謝罪…土下座をしております。聖獣様の奇跡の毛皮におもらしさせてしまうなんて…既に聖獣様は騎士さん達に洗われて、私に乾かされもふふわを取り戻しています。いや、浄化あるけど、気分的に微妙ですよね。


 ちなみに汗をかいたディルクもジェンドとお風呂です。ジェンドは獣人も平気らしく、彼らに任せることにしました。




『…仕方ない。我の配慮も足らなかった。アレは人に虐げられたのだな。恐怖が伝わった』




「…はい」




『叱るな。我も怒っておらん』




「ありがとうございます」




『うむ』




 優しい聖獣様、本当に大好きです。さりげなくもふる私に仕方ないなぁと好きに触らせてくれます。最近はデレ期なのか、人前では…と言いません。諦めたのかもしれませんが、私は幸せです。


 私がもふもふを堪能していると、ジェンドが走ってきました。




「あー!あ!あ!」




『怒っておらぬ。男が泣くでない』




 ジェンドは多分、泣いて謝っているのでしょう。聖獣様は優しく涙を舐めとっています。




「あ、あ」




 ジェンドも頷いて泣き止もうとしています。




『うむ。偉いぞ』




 聖獣様はジェンドにスリスリしています。羨ましい…いや、ここは空気を読みますけどね。




「ロザリンド嬢」




 レオニードさんが神妙な表情で私の側に来た。




「あの子供…ジェンドから事情は聞いた。かなり過酷な目にあわされたようだ」




「…はい」




「ジェンドをどうするつもりだ?」




「当面我が家で保護ですね。母が居るはずなので向こうの出方次第ではありますが、関わった以上あの子は私が守ります。約束しましたしね」




「ふむ。ロザリンド嬢、貴女は魅力的だな」




「…はい?」




「その情の深さ、強さは好ましい。実に獣人好みだ」




「はあ…」




「俺もあと数年若ければ放っておかない所だが…」




 なんかレオニードさん変なフェロモン出してない?ディルク!ヘルプ!悪気はなさそうだからどつきにくい!いやぁぁ、顎クイ止めて!




「…何をしている」




 あ、ディルク!助かった…とあからさまにホッとする私。しかしディルクを見て硬直した。怖い!ディルクの顔超絶恐ろしい!!




「しいて言うなら口説いていたかな」




 殺気!殺気が痛いです!仕方ない!ここは私が捨て身で特攻するしかありません!




「ディルク!」




 レオニードさんを振り払い、ぎゅっとだきつく。スリスリとディルクに身体をこすりつける。




「…私は誰のもの?」




「…俺の」




「ですね。というわけですので、余計な手出しはやめてください。ロリコンとして社会的に抹殺します」




「ろり…」




「幼児性愛者、子供に性的に興奮する変態だと噂を流します。こういうネタは女性好みなんで、瞬く間に広まって、城中の女性から絶対零度の瞳で蔑まれます」




「…す、すいませんでした!」




 レオニードさんは頭を下げました。ディルクも若干引いている気配。これ以上面倒なのはごめんです。




「いや、相変わらず仲いいな。こないだの夜はどうだった?」




「え、あ…」




 微妙な場の雰囲気を改善しようとしたカーティスが爆弾を投げてきた。反応して顔を赤らめるディルク。




「んー、楽しみました」




「…念のためお伺いしますが、どっちの意味?」




 ディルクの反応でまさか…的なカーティス。何故敬語?




「…このような場所では申し上げられませんわ」




 口元に手をあて恥じらう。ぎぎぎ、とカーティスといつの間にか来てたロスワイデ候爵子息がディルクに詰め寄る。




「「何をした」」




「ロザリンド!わざと誤解を拡大しない!」




 というか、この場所じゃ言えませんて言ったのに。




「誤解?私にあんな…激しくなさったのに?忘れてしまわれたのですか?」




 激しかったですよ、キスがね。ディルクは固まって動かない。まあ、本人も記憶が曖昧らしいし助け舟を出してやる。




「ディルクはお酒で記憶が曖昧でしたから、聞いてもわからないと思いますよ」




「…大丈夫だったのか?」




 ロスワイデ候爵子息は結構本気で心配してるようなので、ぼかしつつ返事をしておく。




「…痛いことはされませんでした」




「…大体わかった」




 さすがだな、超直感。カーティスがニュアンスを正確に読み取ったらしく、ロスワイデ候爵子息に伝えた。




「…ディルク、後ほど話がある」




 うん、お説教だな。仕方ない。フォローしとこう。




「あの、私もうかつな部分がありましたし、朝散々腹いせにからかい倒したんで叱らないでくださいね?」




「…何をしたから腹が立ったんだ」




「寝落ちしました」




「…本当か?」




「本当です」




 カーティスが爆笑している。ロスワイデ候爵子息は脱力した模様。そして、キレた。




「紛らわしい!」




「すいません、ちょっとふざけすぎました」




「いや、お嬢さん本当に年ごまかしてないか?わざと誤解させただろう」




 呆れた様子のレオニードさん。




「あはは、贈り人は成人してますから、精神的には年上ですよ」




「ロザリンド…」




 私にぐったりもたれ掛かるディルク。ごめんね、遊びすぎた。




「ま、とにかく私は身も心もディルクのモノなんで、余計なちょっかいはかけないほうが身のためですよ」




 にやり、と悪い笑みを浮かべた。




「社会的に抹殺されたくないならね」




「残念、こんないい女はなかなかいないんだがな。フラれては仕方ない」




 レオニードさんは苦笑すると離れていった。ディルクが私をギュッと抱きしめる。




「レオニードさんて、かっこいいよね」




「え?はあ、そうね」




「…男らしいよね」




「うん?」




「ロザリンドは、ああいうの…好み?」




「いいえ。私の好みは黒髪サラサラ、筋肉は細すぎずつきすぎずの細マッチョ、可愛くてからかいやすくてかっこいい人が好みです。獣耳と尻尾があって、獣化できればなおよしです」




「…つまり」




「私の好み=ディルクです」




「ロザリンド…」




「で、ディルクは胸はどのくらいのサイズがお好みですか」




「だからなんでそこに最終的に着地するの!」




 ディルクのヤキモチが嬉しくて、普通に照れ臭かったのですよ。素直に教えませんけどね。


 そしてディルクの男前な腹の虫が叫んだため、私達はお昼ご飯を食べに行きました。あ、体格が大きくなったせいか、彼の腹の虫もパワーアップしていて、ディルクはとても恥ずかしそうでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る