ロザリンド7歳・もふもふ従姉弟編
第51話 私とジェンドと朝とお城
ジェンドはほとんど喋れないらしい。はいがあい。いいえがうー。彼の意思表示は基本それだけ。
朝、よく寝ていたので起こさずいたら、またしても叫び声が聞こえた。
「あああああああ!」
「こわい、ここどこ…だって」
またコウが通訳してくれる。
「おはよう、ジェンド」
「あ…」
昨晩とは違い、ジェンドはすぐ私に気がついた。走って私にしがみつく。ぐは、結構力がある。
「ここはお姉ちゃんのおうちだよ。おきがえして、ごはんにしよう」
ジェンドに服を着せる。ボタンが難しいみたい。服は兄のおさがりである。なかなか似合うが尻尾が窮屈そうなので、針仕事が得意なメイドに穴をあけてもらった。尻尾はふさふさだが毛艶が悪い。栄養状態が良くなれば綺麗になるかな?ブラシをかけるとサラサラになり、したぱたと尻尾が揺れた。ブラシしにくいが、喜んでいるらしい。
「ごはん、いこう」
手を伸ばすと、素直に手を重ねてきた。昨日と違い、手は震えていなかった。
さて、朝ごはんです。予想していたが、ジェンドは昨日同様いわゆる犬食い。私がスプーンをわざとカチャ、といわせて興味を引く。
スプーンですくい、口に運ぶ。多少空腹が満たされ落ち着いたのか、私の動きを見たジェンドは真似をした。
「わあ、ジェンドはおりこうさんね。上手よ」
少しおおげさに褒めつつ頭を撫でると、尻尾がブンブン揺れまくる。
「あい!」
「うふふ、おりこうさんね」
「…えらいな」
「…うん。いい子」
母や父、兄からも褒められ、ジェンドはドヤ顔で尻尾をブンブンしている。兄のナデナデにも嬉しそうだ。ちゃんと私達のテーブルマナーを真似しだした。手先も器用だし、賢そう。褒められるたびに尻尾が勢いよくパタパタしていて…犬っぽい。毛艶もないせいか、灰色の犬っぽい。可愛い…。
ジェンドは食後口がべとべとだったので丁寧に拭い、服もべとべとなので着替えさせた。
兄は学校なので一緒にお見送りをする。
「兄様、いってらっしゃい」
ジェンドは兄がどこかに行くことを理解したらしい。
「フー、キューン、キューン、キューン」
切なげな声で鳴きはじめた。固まる兄。その鳴き声はまさに、段ボールで捨てられた子犬。
兄がUターンして戻ってきました。
「僕、帰ったらたくさん遊んであげるからね。ロザリンド…お姉ちゃんといいこで待ってて。ちゃんと帰るよ。約束するから」
「…あい」
耳も尻尾もションボリとへたりながら、ジェンドはちゃんと返事をした。
今日は父の仕事を手伝う予定。一緒に城に行くのだが…ジェンドどうしよう。
「…連れて行くぞ」
「いいんですか?」
「かまわん。それにロザリンドが居ないとジェンドも不安だろう」
「父様大好き!!」
勢いよく飛びつく私に、びくともせず私を抱きとめる父。
「あー、あ!」
ジェンドも飛びつき父にスリスリしている
右手に私、左手にジェンド。父、私は重いのに力持ちです。
「…よかったな」
何かをかみしめる父。なんとなく喜んでるみたいです。呆れたアークと、ニコニコしてる母。
母から行ってらっしゃいのキスをもらってお城に向かいました。母には少し慣れたのか、ジェンドは昨日と違い母を怖がりませんでした。
さて、今日もお仕事です。ジェンドにはエルフの村でもらったおもちゃで遊んでもらい、触っちゃダメなものを教えておきました。ジェンドは竹?トンボがお気に入りらしく、何度も飛ばしています。
「ロザリンド!遊びに来てやったぞ」
「仕事中です」
バカ殿来ちゃいました。あ、でも丁度いいかもしれない。
「アルディン様、よくおいでくださいました」
普段と違い帰れと言わない私にドン引きな主従。失礼な。
「お勉強はしてきたんですよね?」
「は、はい!最近のアルディン様はきちんとお勉強されてます」
必死に返答する従者のリンクさん。小柄で中学生ぐらいに見えるが実は成人している。ハーフエルフなんですごい年上だったりする。
「では、暇を持て余して私の所にいらした、と」
「というわけで遊べ」
「私は仕事中なので無理ですが…この子は私の従兄弟でジェンドと言うのです。寛大でお優しいアルディン殿下、ジェンドと遊んでもらえませんか?」
「し、仕方ない!遊んでやる!」
ちょろいな、バカ殿。なんか、最近俺様ではなく普通の子供なんだよね。私にかまわれたいんだよね。暇がないから基本塩対応だけど。
「あ?」
ジェンドもバカ殿が悪意がないのと子供なんで警戒がない様子。
「俺はアルディンだ。何して遊ぶ?」
おお、バカ殿相手が年下だから気を遣ってる!えらいえらい。
「あーう!」
ジェンドが竹?トンボを飛ばしてみせた。ジェンドは器用にキャッチしたバカ殿に拍手している。バカ殿はジェンドに竹?トンボを返すとリンクさんに少し遊んでやれと告げて神妙な表情で私のほうに来た。
「…あいつ、喋れないのか?」
「だいぶ酷い扱いをされたようで、来た時は傷だらけで手当もされておらず、空腹で雨の中放置されておりました」
「…そうか」
苦しげな表情になったあと、彼は表情を切り替えてジェンドの所に行った。
「おい、ジェンド!俺が友達になってやるからな!意地悪されたら言うんだぞ!」
だから喋れないんだって。でもバカ殿…アルディン様の心配りは嬉しいものだった。父もアークも優しい目で見ている。微笑ましい。
「あれ?追い返されなかったの?」
私の仕事を妨げる奴がまいりました。腹黒殿下…アルフィージさんです。
「兄上!」
腹黒殿下に駆け寄るアルディン様。
「あのな、友達が出来たんだ!兄上も優しくしてやってくれ」
「あー?」
アルディン様が嬉しそうなので危険はないと判断したらしく、ちょっとずつ近づくジェンド。
何を思ったか、急にパァン!!と手を叩いた腹黒殿下。大きな音にびっくりして安全な場所…私の机の下に緊急避難するジェンド。
何してくれるんだ、腹黒め!!怯えて尻尾を股に挟んでプルプルしてるじゃないか!
「ジェンド、大丈夫だよ。悪いお兄さんにはお姉ちゃんがお仕置きするから」
「まてまて、俺が謝る!すいません、ごめんなさい、許してくださいお願いします!!」
かなりガチなアルディン様の謝罪で仕方なく引き下がる私。
「兄上も謝ってください」
「いや、ごめんね?なんか小動物みたいにチラチラ見てて警戒してたから魔がさした」
アンタいつも魔がさしてばっかりだろうが。むしろさす分なくて貯まってないか。
「お詫びにこれあげる」
ジェンドにマドレーヌを差し出した。クンクン匂いを嗅いで、大丈夫と判断したようだが私に何故か渡してきた。食べていい?と許可を求められている気がした。
「…アルフィージ殿下、これの出所は?」
「あー、知らないご令嬢から」
無言でマドレーヌを腹黒に返し、私がおやつ用に持ってきたお菓子をジェンドにはあげました。
ジェンドは幸せそうにクッキーを食べています。
「ロザリンド…」
「…わかりましたよ…」
某CMのチワワに匹敵する瞳でアルディン様におやつをねだられ負ける私。
「僕には?」
「そのマドレーヌを食べろ。乙女の好意を無下にした挙げ句、うちの従兄弟に得体のしれないモノを与えようとする輩に分ける菓子はない」
「えー」
「あ、兄上!俺のを」
「あげたら今度からアルディン様にもやらん」
アルディン様、涙目。どうやっても腹黒にダメージはないな。涙目な弟みてまた笑ってるし。この鬼畜。
結局、エルフ製おもちゃは結構珍しい品だったようで王子2人はジェンドと仲良く遊んでいった。ジェンドは腹黒をかなり警戒していたが、正しい反応だと思う。彼はもっと猫をかぶった男だったはずなのだが、断罪の件以降私とアルディン様には隠さなくなった。いいような、悪いような…
王子達が勉強の時間だと呼び出されて帰ったあと、聖獣様が迎えに来てくれた。
『迎えに来たぞ』
「もう少しだけ待ってくださいねー」
慌てて机の上を片付ける。聖獣様に興味津々なジェンド。
『ふむ、獣人の子か。汝も来るか?乗るがよい』
「あい!」
喜んで聖獣様に乗り、もふもふを楽しむジェンド。ああああ、羨ましい!私も!私も!!大きくなってから乗ってない!そして私ももふりたい!!
『…ロザリンドは何故、泣きそうに我をみておるのだ』
「聖獣様、ナデナデの許可をください。ジェンドばっかりずるいです!私も!私も、もふりたいぃぃ!!」
「あい」
乗っていいよ、と場所を譲るジェンド…うう、なんかいたたまれない…
『…好きにするがよい』
呆れたご様子で横になり、お腹も差し出す聖獣様。遠慮なく!今日は買ってきたブラシも持参ですよ!素晴らしいふわもふを堪能しつつのブラッシング…至福です。聖獣様もうっとり、私も幸せ…いいことずくめですね!
おや?ジェンドが…ブラッシング希望ですか?尻尾と髪にブラッシングしてあげると満足そうでした。
ジェンドは毛がぱさぱさなので、今日帰ったらトリートメントしようと思います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます