第48話 娘とお礼とエリアボス
可愛い妖精さんは私に抱きついてきました。黒髪長髪ツインテールに赤い花。マグチェリアの花は本来赤いんです。炎による浄化なイメージなのかしら。
「まま、お話できて、うれしいな」
「かかかか可愛いぃぃぃ!」
「落ち着いて。気持ち悪い」
素早く叩くスイ(毒舌)だって可愛いんだもの!
「えーと、なんで私がママなのかな?」
「わたしはね、マグチェリアとままの魔力でうまれた精霊だよ。だからマグチェリアとままのこだよ」
「…浮気、か?」
「植物との修羅場か」
いやいや、さすがに違います!私より先に素早くビネさんとミルラさんをどつくシュガーさん。ありがとうございます。鋭いツッコミ、素晴らしい。
「まぁま、お名前ちょうだいな」
チラッと私の精霊さん達に目線を送る。皆頷いた。
「マグチェリアの浄化属性の加護とか激レアだぞ、もらっとけ」
「ロザリンドは何があるか解らないから、護りの力は得た方がいいよ」
「なかまがふえるんだね」
全員賛成みたいですね。にっこり可愛い私の妖精さんに笑いかけて私は言った。
「貴女の名前はアリサだよ。よろしくね」
虹色の輝きを纏うマグチェリアの精霊・アリサは嬉しそうに笑ってまた私に抱きついた。ちなみに光で輝きを変える宝石・アレキサンドライトをもじりました。
「まま、ありがとう!かわいいお名前うれしい!」
「スイお兄ちゃん達と仲良くしてね」
「うん、おにいちゃんたち、よろしくね!」
お兄ちゃんと言われて、反応はそれぞれ。
「おー、よろしくな」
アッサリなハル。
「ぼく、お兄ちゃん?」
とっても嬉しそうなコウ。
「ま、まあ先輩として仲良くしてやらなくもないよ」
幼児?にツンデレを発揮するスイ。
私の精霊さん達は全員安定の可愛さです。しかし、エルフの長様に謝罪しに来ただけのはずが…どうしてこうなった。
家に帰ったら説明が大変そうです。
「ところでロザリンドちゃんや。この村を救ってくれて、孫も幸せにしてくれて、ワシはこの感謝をどうしていいやらわからん。何か欲しいものはないかのう?」
「んー、特にはありませんね。スイの事はむしろ私の方がお礼をしなきゃですし、私そもそも3歳のプレゼントでお祖父様に多大な負担をおかけしたことを謝罪しに来たのです。それを不問とすることがご褒美でいかがですか?」
「欲がないのぉ…」
呆れた様子のお祖父様。いや、特に思いつきません。ここで1番のレアアイテムは私の耳飾りですし。これ、本来はヒロインがユグドラシル回復イベントをこなしていただく品です。
「ふむ、ならばとっておきの魔法をかけてやろう」
ふわりと星がきらめいた。
「幸運の魔法じゃ。今日1日だけじゃが、欲しいモノが手に入ったり、ものすごく幸運になる。ふむ、でも足りぬな。ロザリンドちゃん、お金はどうかの。ワシ、依頼したんじゃし」
「一応公爵令嬢なんで不自由していません」
「「「えええええ!?」」」
絶叫するミルラさん、ビネさん、シュガーさん。
お祖父様とソールさんはキョトンとしている。
「姫さん、マジか!?」
「はい」
「こーしゃくって?」
「バカヤロー!王様の次に偉い貴族様だよ!俺ら全員不敬罪で処刑でもおかしくないんだよ!」
涙目でソールさんをガクガクするミルラさん。しないから、落ち着いて?
「姫さん、本当に本当か」
「…家に来ます?」
高速で首を振るビネさん。そんなに嫌か。別にお茶くらい出し…なんとなくだけどマーサが接客する時点でダメな気がする。
「私は公爵令嬢としてではなく、冒険者のロザリンドとしてここにいますから、不敬だなどと野暮な事は言いませんよ」
明らかに自由な風メンバーはホッとしたご様子。貴族関係で何か嫌な思いでもしたのかな?
「まあ、比較的裕福な身の上なので、金銭も宝石もけっこうです。また遊びにきてもいいですか?」
「うむ、大歓迎じゃ」
「ふふ、楽しみにしています」
「大変だぁぁぁぁ!!」
私達の元にエルフの青年が走り込んできた。
「奴が、奴が目覚めた!!」
あ、これゲームでみたわ。強制イベント。
「ユグドラシルの魔力に惹かれたか…」
「倒してきます」
「ロザリンドちゃん!?さすがに無茶じゃ!」
「ディルク、撹乱して。策があるの。攻撃には当たらないで。貴方なら出来る」
「任せて」
「相手はSSランクだから、最初から獣化して全力でいって」
「了解」
言うが早いか、既に獣化するディルク。手をもふもふしつつ、作戦を話した。
結界をくぐり抜け、ディルクはわざと敵を引き付ける。本人は嫌がったが、念のため私の耳飾りを貸したから多分大丈夫だろう。
敵はエリアボス『グレートキングスラッグ』
蛇みたいな見た目に、腹に人の手っぽいのが無数に生えているえぐい魔物である。
毒を持っており、一撃でも当たると厄介なので遠隔攻撃と防御魔法が可能な2人、ミルラさんとシュガーさんのみ自由な風からは連れてきた。
この魔物は確かにSSランク…もしかしたらSSSランクだが、弱点がはっきりしている。
「アリサ、スイ、出番だよ」
「はいなー」
「了解」
「「森の恵み」」
緑の精霊魔法を受け、マグチェリアが再び急成長してグレートスラッグを覆い隠し、体液を吸っていく。さらに毒まで浄化し無力化するマグチェリアはもはやこの魔物の天敵とも言える。
いや、本来このグレートキングスラッグ、蛇な見た目だが実はなめくじである。こいつは粘液で魔法無効&物理無効するため当初は討伐不可モンスターと言われていた。鬼畜だチートだと幾人のプレイヤーが泣いたか知れない。私も泣いた。
しかもユグドラシルイベントでヒロインの魔力枯渇状態からの連戦。まさに鬼畜。
運営のワルノリなのかは知らないが、クエストで植物を急成長させるイベント魔法がある。それを使うと粘液を無効化し、ダメージが入るため倒せるのである。成長させる植物はなんでも可。
あまりの倒せなさにやけくそになった先人の知恵、ありがたく使わせていただく!ちなみに私もこの情報を知ったとき、わかるかぁぁ!とキレました。思わずコントローラーぶん投げましたよ。何回挑んで死んだことか…許さん!
私の怒りが炸裂したせいか、蛇もどきなめくじはカッサカサ。…アリサ、スイ、よく頑張りましたね。
「いっくよー!」
ロザリアとディルクに合図する。ロザリアにチェンジし、私は風魔法を準備。ディルクの退避を確認し、戦乙女の指輪を巨大な風属性両手剣に変える。私の魔法と共鳴させて威力を倍化させ、グレートキングスラッグを一刀両断した。綺麗に二等分である。
「ディルク、お疲れ様」
「ロザリンド、怪我はない?」
むしろディルクの方が危険な配置だったのに、私を1番に心配してくれる。
「ディルクのおかげで大丈夫。危険な役目だったのに、ありがとう」
「ありえねぇぇ…」
「……あ、あは、あはは…」
頭を抱えて力無く言うミルラさん。
引き攣った笑みのシュガーさん。
「いやもう、姫さんマジ何者!?なんなの?俺らなんのために居るの!?」
「護衛ですよね?」
「要らなかったよね!?」
「…まぁ、今回は上手くすれば私だけでもいけましたが…保険として不測の事態に備えて撤退をしてもらうかもとは思ってました」
「…なら、いい…のか?」
微妙な表情のミルラさん。別に彼等の実力は低くない。むしろベテランさんですから。
「私、村から人呼んでくる…」
ミルラさんはふらふらと村に行きました。
いや、なんか村人も残りの自由な風メンバーもポカーンって感じでした。
お祖父様がロザリンドちゃん祭じゃぁぁ!と言ってましたが、それはもうお腹いっぱいです。
グレートキングスラッグは討伐の証拠に首だけ持って、後は村にあげました。後でこの素材で凄いものを作ってやると魔法武器屋さんがいってました。これ以上のチートもお腹いっぱいです。
そうして、私達はエルフの村を後にしました。
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