第38話 もう一人の婚約者※ロザリア視点
夜の闇の中、彼女が幸せに眠った気配がした。
彼女が眠った後、いつも私はトレーニングしたり本を読んだりしている。彼女は今日の枕投げの時みたいに私が望めば代わってくれるだろう。だが、私はそれを望んでいない。
彼女に出会った時、私は繰り返される悪夢に精神が摩耗し、疲れていた。頑張っても頑張っても報われない。剣を極めようと、闇魔法を極めようと、王子との関係をよくしようと、結局私は18歳を越せない。未来は変わらない。役立たずな自分が嫌で夢の城に立て篭もり、現実も拒絶した。
そんな中、彼女は私にとって光となった。希望で、太陽だ。私に助けられたと笑い、私の味方になってくれると手を引いて、私の望みを一緒に叶えようと約束してくれた。
私よりずっと大人でありながら、私より子供らしくふるまい、見ていて飽きない。
私の悪夢を簡単に晴らしてしまった、私の半身。
未来を繰り返し見ることで精神的に成長し過ぎて、子供らしさを忘れた異端の私を笑顔で抱きしめてくれる姉のような人。
私の大切な者まで幸せにしてくれる魔法使い。
私への神様からの贈り物。
彼女と過ごす毎日は、あの暗い城の中で未来に怯えて閉じこもるよりずっと幸せだ。こんな未来は知らなかった。
家族から愛されていることを、人を愛することを教えてくれる、私の贈り人。
彼女と過ごす日々は、輝いている。
「ロザリンド?」
そんなことを考えながらうとうとしていると、闇の中でここ最近よく聞く声がした。
「ディルク…」
不器用に撫でる手を、私も気に入っている。試しにそっと耳に触れるとフカフカで、もふもふだっけ?彼女が夢中になるのも解る気がした。
「…君は、ロザリアかな?」
「ふえ?」
琥珀の瞳は私を見ている。慌てて引っ込もうとしたが、残念ながら彼女は熟睡している。
「は、はい。はじめまして?」
「うん」
彼は目を伏せた。私には彼が緊張している様にみえた。
「君は、この婚約を納得している?」
「はい」
この婚約はきちんと彼女と話し合って決めた。
「私と彼女は繋がっています。私は…いいえ、私達は貴方が大好きですよ。私と彼女で望んだことです」
彼女の幸せは私の幸せ。彼女の恋情は私にも伝わり、私に恋を教えてくれた。柔らかく彼に微笑んでみせる。他人に笑いかけるのは久しぶりで、ぎこちないかもしれない。
「…そう。俺を選んでくれてありがとう」
彼も微笑んでくれた。私も彼の笑顔は好きだと思う。
しばらく他愛もない雑談をしていたが、緊張した面持ちで彼が聞いてきた。
「あの、最初の頃にリン…彼女が俺を誰かに重ねていた気がするんだけど、何か知ってる?」
「ああ」
説明が難しいが、ゲームの彼と重ねていたのだろう。ちょっと悪戯心がわいて、からかってみた。
「リンはああ見えて25歳で亡くなりましたから、他に恋愛経験ぐらいあるでしょうね」
彼は固まった。目の前で手を振るが、無反応である。本当のことを話そうとしたところ、再起動した。
「にじゅうご?」
あれ、そこ?
「はい」
あ、そういえばリンは成人してると話すにとどめていたので、彼は知らなかったのだ。
「ええと、彼女にばらしたのは内緒にしてください。代わりに本当の事を教えますから」
「え」
私はゲームのことや、彼女は今、彼本人を好きなのでもう関係ないこと。彼女の恋愛遍歴までは知らないことを正直に話した。
「君達は本っ当に俺をからかうのが好きだよね…」
「あはは」
ぐったりする彼に自然と笑ってしまった。
「今後とも、よろしくね『ロザリンド』」
「はい。末永くよろしくお願いします」
そうして、今夜は私も眠りについた。夢は見なかった。
後書き編集
※補足情報
リンが寝た後2時間程度がロザリアの時間です。
リンは大体20時就寝7時起床+昼寝をしており睡眠はばっちりです。
ロザリアもマーニャから無茶は駄目と言われており、軽い筋トレ1時間、読書1時間て感じです。たまにマーニャと早朝訓練をしています。
ちなみにマーサは朝までぐっすりなのでこのことを知りません。
アークは最近気がつきましたが面倒になる予感しかしないので見なかったことにしています。
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