第35話 4歳おめでとう。プレゼントがチート過ぎて涙目な件

 今日は私の…というかロザリアの4歳の誕生日です。色々と話し合ったのですが、誕生日は今日にしようということになりました。


 前回の誕生日で皆からプレゼントを貰ったので、今回はいらない。来年でと私は言いました。


 しかし、兄からは前回は間に合わせだった。今回はお小遣を貯めて用意したのにと叱られ、母からは今日に合わせて頑張ったのに…と涙目でじわじわ責められ、マーサはなんかえらくショックを受けていて…負けました。なんか、私が悪いみたいになっていました。気遣いのはずが…解せぬ。




 私は赤を基調にしたドレスに着替えました。調子に乗ってモフりまくったら服が毛まみれになったからです。そして母から貰ったリボンで髪を編み上げました。




 食堂に入ると、笑顔で皆からお祝いの言葉がありました。


 私も笑顔でお礼をいいます。




 私はいわゆるお誕生日席に座らされ、お隣りにはディルク様。家族団欒を邪魔するわけには…とお断りしていたのですが、婚約して息子(予定)になったのだからと母に説得されていました。さすがは母です。手際よく候爵邸に手紙を出し、お泊りまでさせることに。


 さすが過ぎますよ、母!グッジョブ、母!私の尊敬と感謝の視線を受け、茶目っ気たっぷりなウインクをいただきました。母可愛い!




「私、母様みたいになりたい…」




「…人間には向き不向きがある」




「ロザリンド、諦めて」




「奥様が2人になったら俺の胃が破壊されるからやめてください」




 どういう意味だ!特にアーク!父と兄はやめとけ無理だと言っているのだけど、アークは明らかに…母?アークの胃を痛める何かをしてるんですか?




「アーク?」




 にっこりと笑う母の目が笑っていません。母、怖いぃぃ!




「すんません調子のりました勘弁してください」




 ノンブレスでそこまで言いました。私も母の近くまで走り寄り、涙目で首をふりました。




「…もう、ロザリンドに免じて今日だけは許してあげる。次はないからね」




「はははははいぃぃ」




 どうやらお許しいただけたようです。アークは顔面蒼白になってました。マーサの折檻も恐れないアークがここまで怯えるなんて、母はなにをしたのでしょうか。知らない方がいい気がしました。




 さて、ダンのご馳走に舌鼓を打ちつつ…何やら不思議な食材がチラホラあります。




「お嬢様、たんと食べてくださいね。マーサが張り切っちまって、リヴァイアサンやら億千万バッファローやら狩ってきちまってよう」




 うちの常識人ことディルク様が青ざめています。兄は解らないようですが、ボスクラスモンスターです。しかも終盤に出てくるやつ。




「味わって食えよ、お嬢様ー。俺も頑張った」




「ありがたくいただいてます。美味しいです」




 そう。美味しい。億千万の方はほぼ牛さんだからともかく、リヴァイアサンは…考えないことにした。こないだの亀もどきよりも口でとろけるお肉。




「ディルク様と坊ちゃんもたんと食えよー。そしたら強くなれるからな」




「はい?」




「強い魔物の肉は食うだけで身体強化されるからな」




 まさかの効果です。




「解りやすいとこだと、飼育してる魔獣にこういう高レベルモンスターの肉やると進化したりする」




 あー、そういやゲーム内でやってたかもな…そこでハッとしました。あ、良かった。うちのコウは角が増えたりしてませんね。




 兄は珍しくお代わりまでしてました。肉はあまり好まないはずなのですが…強くなりたいとか?ディルク様は安定の大食漢でした。




 さて、プレゼントタイムです。前回同様兄からですが、何やら箱が豪華です。




「僕からはこれ」




 しゃらり、と涼やかな音色。可愛らしい鈴蘭モチーフのブレスレットには青い石がついています。




「これは、魔石ですか?」




 魔力を感じます。んー、守護系統かな?包み込まれるような感じがします。




「これは身代わりの魔石だよ。ロザリンドに危険が迫った時、身代わりに割れるんだ。石だけ交換できるようになってるから、常に身につけて。ブレスレットは魔法でぴったりになるから、ずっと使えるはず」




 私は兄に心配されているのですね。兄の優しさを感じました。




「毎日つけます。大事にしますね、兄様」




 早速つけました。おお、ぴったり。装身具としても可愛いです。




「私からはこれよ」




 母からはレース編みのショール。うわぁ、綺麗です。




「頑張って編んだのよ。防御の陣を編みこんであるから、魔力を通せば防具にもなるわ」




 なんと!しかし、夜会で使えそうなこのショール…母は私を何と戦わせるつもりなのでしょうか。夜会での魔法戦闘でも想定しているのでしょうか。




「ありがとうございます、母様。大切に使いますね」




「僕らからハ、これだヨ」




「大変だったぜー」




「え?」




「これ、僕も見たことないよ」




 兄すら知らないレアモノ。柔らかな燐光を放つ複雑に絡み合った苗木。葉っぱに見覚えがあり、即座に理解した私は叫んだ。




「返してきなさぁぁぁい!」




「ロザリンドは何だか解ったの?」




「世界樹…ユグドラシルの苗木ですよ!流石に育てたらまずい!」




「冗談、冗談。流石はロザリンド」




 スイはけらけら笑っている。いや、持って来ないで。こんなレア過ぎる代物は。




「本物はこれな。材料は俺が探して、スイがエルフの長を脅し…お願いして一緒に作ったんだ」




「聞き捨てならない単語がありましたが、エルフの長に何したんですか?」




「ロザリンドの精神衛生上、聞かないほうが身のためだヨ」




 本当にうちの子は何をやらかしたのでしょうか。




「はイ、森の賢者の耳飾りだヨ」




 手の平には可愛い小さな耳飾り。青色の宝石に蔦が絡まったデザインだ。ん?森の賢者の…ゲーム終盤、最終戦必須装備!全異常無効アクセサリー!?




「だ、大事にします。ありがとう」




 やたら防具が続くのは、何か意味があるんだろうか。怖いんですけど。




「俺からはこれなー」




 アークからは…なんだこれ。




「携帯テントだよ。普段は丸まって手の平サイズだけど、魔力を通すと…まぁ、大人2人は入れるな。自動で結界が張られるから、便利だぞ」




「おお、ありがとう」


 暫く使うことはないだろうけど、普通に便利グッズですね。さすがは常識人枠のアークです。




「私からはこれですわ」




 見覚えがありますよ…これは確か…




「転移の魔石…」




 美しくカットされた手の平サイズの三角錐の魔石。それに何やら文様が刻まれている。


 ゲーム終盤必須アイテム。日数かけずに移動出来る優れモノですよ。行ったことがある場所に一瞬で転移できます。


 確か限定イベントでエルフの長様からいただけるお品です。またエルフの長様か!




「…マーサもエルフの長様になんかしたんですか?」




「私はお願いしただけにございます」




 マーサは目を逸らして明後日を向いた。見たことも会ったこともないエルフの長様すいません。うちのメイド長と精霊さんがすいません




 私がそっと魔石を撫でると、ハルがくれた宝石のブローチに吸い込まれてしまった。




「え?」




 ハルがくれた宝石には先程の文様が更に細かくなり浮かんでいる。




「…これ普通のサファイアじゃなく魔宝石だったの?」




「うん!エルフの涙?だっけ」




 エルフの涙は宝石を基にした魔法を封じておける特殊なアイテムである。どうやら魔法が入ってなかったせいか、転移の魔法を吸ってしまったようだ。




「持ち運びが便利になってようございましたね、お嬢様」




「う、うん…」




 マーサは気にしていないようだ。確かにブローチの方が持ち運びは容易ではある。しかも、普通こんな小さなブローチに転移魔法を仕込むキチガイは居ない。この魔宝石自体、相当チートである。




「いや、しかしスゲーもんばっかだな。お嬢さん、俺からはこれだ」




 ダンからは野外調理キット。コンパクトに片付けが出来る上に各種調味料も揃っている。実に実用的な品である。




「うわぁ、ありがとう!」




「わしからは、これを」




 トムじいさんからは可愛らしいポプリ。庭の薔薇から作ったらしく、とてもいい匂いがする。




「ぼくもかわかすの、おてつだいしたよ~」




 コウとの合作だったようです。ベッドに置こうかな。




「私からはこれだ」




 おお、父自信ありげ…えええええ!




「これ、戦乙女の指輪!?」




 ゲーム終盤、特殊なイベントをこなさないと手に入らないゲーム内最強武器。使用者の使いやすい形状に変化する品で普段は指輪になっている。




「使えそうか?」




 ゲーム内ではヒロインだけが使用可能な専用武器だったが…そっと指輪を右手中指にはめる。指輪はぴったりになった。指輪に魔力を流し込む。一瞬で双剣に変化した。




「うん、使えそう」




 弓、斧、槍、フレイル、鞭…次々と姿を変えていく。ロザリアが扱い慣れているという双剣で固定しようとして、ふと思い付いた。防具…一体型の武器付きの防具はどうだろうか。




 結論から言おう。成功した。全身プレートメイル+グローブが出現した。


 しかも軽い。テンションが上がり、つい壁に軽くパンチなんかしたのがいけなかった。壁に穴があいた。私の手の形に。謝罪しようと手をついたら、床に穴があいた。手加減、というただ一点において多大な問題があることが発覚した。




 怖いから使いたくないと言う私に、父、兄、ディルク様が何があるか解らないから持っておけと言われ、多勢に無勢でもらうことになった。




 いや、最強武器なの忘れて試した私が1番悪いんだろうけどね?


 戦乙女の指輪を見つめる私に、聖獣様が鼻をふんふんさせながら寄ってきた。戦乙女の指輪は繊細な薔薇の花を中心に二重の茨が絡まる凝った意匠をしている。




『ふむ、面白い武器だな。我からの祝いはこれに魔力付与をしてやろう』




 魔力付与とは、剣なんかに精霊が祝福を与えて魔法剣とすること。そもそも魔法剣の類であるこの指輪に魔力付与なんて大丈夫なのか。




「我もやるぞ!」




「ア、じゃあ僕モ」




「俺も」




「ぼくも~」




「えええええ」




 結果。


 戦乙女の指輪に精霊達のイメージカラーと思われる小さな宝石が5個ついた。


 あああ、最強武器がさらにチートに…どうも魔法属性強化がついたらしく、属性切替可能な魔法武器となった。




「本当に何と戦わせるつもりなの…」




 更に闇様が英知のサークレット(索敵・遠見効果)をくれました。




 私、なんというか…戦争が起きても生き延びることはできる気がしてきました。いや、起こさせないけど、何があっても生きていけそうです。




 とりあえず、来年からは頼むからこんな凄すぎる代物ばかり持って来ないでくださいと真剣に懇願しました。

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