3歳・必然の出会い編

第23話 騎士様と私

 ディルク様ことディルク=バートン。彼はゲームの攻略対象ではない。もう一度いいます。攻略対象ではないのです。




 ゲーム中の彼はモブ。しかし会話で2人の王子のイベントを起こす際に何回か通わなければならないし、他の獣人攻略対象のキーキャラであった。近衛騎士で、実力者という設定。王子の護衛でした。ゲーム中は26歳。素晴らしい細マッチョでした。ロザリアとは10歳差。今は13歳のはずです。




 隻眼で困ったように微笑む姿に見とれ、ションボリして耳がぺしゃんこになる姿に悶え、こんなオッサンをからかうなと口元をおさえた姿に転げ回った。




 なんで攻略させてくれないんだと叫んだ私は間違ってない。そして通い過ぎてノーマルエンドになったのも仕方ない。




 とりあえず、彼と仲良くなるべきだろう。元々私が父に騎士団の訓練見学をおねだりしたのは彼に会うためと回復魔法の修練のためである。診療所なんかだと警備的に問題があるし、先ずは軽傷治癒の経験を積んでおきたい。 


 彼と仲良くなれば私が騎士団に出入りしても不自然ではない。


 また、彼と私が仲良くなることがもたらす周囲への効果を期待している。




 とりあえずロザリアに確認したところ異論なしとのことだった。彼女に獣人差別の意識は無いようで、むしろモフモフにはまりそうとのことだった。モフ仲間ゲット。彼女は本当に良いパートナーである。










 さてさて、今私が何をしているかというと、差し入れ持参で聖獣様とディルク様探しである。


 大魔神・兄は午後勉強のため、すでに帰宅。超優秀な諜報マーサにより、今が昼休憩なのは確認済み。


 仕事は午前中でほぼ終了。父から休憩許可はいただいてます。私に抜かりはありません。




 ハル経由で聖獣様にコンタクトを取り、面白そうだからという理由で捜索に協力していただきました。




『いたぞ』




 ディルク様は庭園の片隅に隠れるように座っていました。


 周囲に人は居ない。チャンスです!




 あら?お耳がこっちを向いてませんか?




「ディルク様、こんにちは」




 急に立ち上がり私を見るディルク様。なんでそんなにビックリしているのかな?尻尾ピーンとしてますが。


 聖獣様は何がツボなの?何笑ってるの?




 挨拶したもののディルク様が固まっているので、もう一度声をかけようとしたらンゴゴゴ~と激しいお腹の音がした。




「お、男らしいお腹の音ですね?」




 聖獣様、気の毒ですよ。笑いすぎ。


 ディルク様、真っ赤で涙目ですよ。生きてればお腹ぐらい鳴りますよ。私も言葉のチョイスを間違ったかなとは思ったけども。


 あ、ディルク様、やっと動いたと思ったら体育座りで顔隠しちゃった。




「あの、差し入れをお持ちしましたのでよろしければいかがですか?」


 お腹が空いてるなら丁度いい。元々そのつもりで探していたのだから。




 聖獣様に運んでもらったバスケットには大量のサンドイッチとお茶が入っている。私の手作りである。イチ押しは照り焼きチキン。ダンに太鼓判を押されました。朝から頑張ったよ!




「え」




 そっと彼の手を取りサンドイッチを渡した。




「嫌いなものはありますか?種族的に食べられない物とか」




「…いや、ない」




「ではどうぞ」




 彼はサンドイッチを一口食べ…早っ!2個、3個と詰め込んでいく。慌てて自分と聖獣様の分を確保して食べ始めると、既に彼は食べ終わっていた。


 ダンから獣人はめちゃくちゃ喰うからな!とこれ残ったらどう始末しようと心配するほど持ってきたサンドイッチが全て無くなった。獣人スゴイ。




「その…ごめん、俺…腹減ってて、美味かったから夢中で…」




「それはよかったです。足りました?こちらもどうぞ」




 バスケットから手作りクッキーとお茶を差し出した。




「あ、ありがとう」




 空腹が満たされたのか、先程とは違いゆっくりクッキーをかじっている。




「うま…」




「初めて作りましたが、口に合ったならよかったです」




『え?』


「は?」




『汝が作ったのか?』




「はい。こちらの調理器具に慣れず苦戦しましたけどね」




「あ、の」




 ディルク様から話しかけてきました。何かなー?やたら緊張してる様子だけど、何が怖いの?




「はい?」




「なんで、俺に?」




「昨日は失礼いたしました。お詫びのつもりで作りましたが、いかがでした?」




「美味かった、です」




「では、また明日もお作りします」




「は?」




「更に言えば、下心もありましたけど。私、ディルク様と仲良くなりたいです」




「へ?」




「明日、この時間にこの場所でよろしいですか?」




「え?え?」




「他に、何かご予定はおありですか?」




「ない、です」




「では、また明日お会いしましょう」




 丁度私も食べ終わったし、彼の休憩も終わりだろう。空のバスケットを載せ、聖獣様と父の執務室に戻ってお仕事をしました。 明日何を作ろうかなぁとウキウキしつつ、明日も聖獣様に付き添いをお願いしました。 

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