第13話『ともだちができました-①-』
藤四郎の一件から二日が経った。
今日はステラが仕事を入れていたため留守番をする事になったアスター。
今は一日共にいれないからと出掛けにステラの熱烈な魔力供給を受け、やっと落ち着きを取り戻したところである。
(毎日あんなのされてたら身が持たない)
思い出すだけでまた身体が火照るほどステラの魔力供給は気持ちが良いものなのだ。
(いかんいかん、平常心平常心……)
「掃除しよう」
といっても家の中は掃除が行き届いているため庭の木の葉掃除くらいしかやる事がなかった。
(確か……ホウキは)
「ぶぎゃ!」
「⁉︎」
玄関を開けてすぐグニグニした物を思いっきり踏みつけてしまい、慌てて足をどけるとそこには潰れたミスターがいた。
「うわっ! だっ大丈夫か⁉︎」
すぐに拾い上げるがぐったりしていて動かない。
(心臓は……動いてるな、よしよし)
ステラにあれだけされてもしぶとく生きているのだ。とりあえず安置させておこうと、しばらく様子を見ることにした。
(なんなんだ)
昼時になってもミスターは飯に手を付けず、怒ることも泣くこともなく、打ちどころが悪かったのか虚ろな瞳で時々空を見つめては、深いため息をついていた。
「……はぁ」
またため息をついて、おぼつかない足取りで自分の小屋に戻っていく。
(はっ、もしかして……!)
アスターはやっと思い出した。
先日のドタバタでミスターを藤四郎の店の庭に置いたまま、まる二日放置していたということを。
(やっべ……すっかり忘れてた)
店からここまでバスを使って約四十分の道のりだが、それは人間、ましてや大人の歩幅での話だ。
ミスターのような小さな体で帰ってくるとなると相当時間と体力が必要だろうとアスターはゾッとすると同時に同情してしまった。
(うーん)
そう思うと気まずくなってしまう。
(よし、庭掃除しよう!)
アスターは現実から目を背ける事にした。
「はぁ……」
空は相変わらずの曇天模様。
気分転換に庭に出たものの、ある程度終わらせていた為これといってやる事がない。
無理やり仕事を探そうにも、できる事といえばこの数時間で散らかった落ち葉を掃く位だった。
「あれ?」
落ち葉を軽く掃いたところで、ふと顔を上げると家の前を見知った顔が横切りった。
アスターは慌ててその人物を呼び止める。
「シオン!」
「?」
声に気づいたシオンが辺りを見る。
そして彼に気が付き会釈した。
こんな所で何をしているのかと訊ねると、配達を始めたのだと言う。
「回復まで時間が掛かるので、折角なので新しいこともやってみようと
「優秀な自宅警備員もいる事だしなぁ」
「そうですね。頼もしい限りです」
(おぉ)
アスターは初めてシオンの微笑を見た。
今までのシオンはどれも硬い表情ばかりだったこともあり距離を感じていたアスターだったが、こんな顔も見せてくれるようになったのかと少しうれしく思った。
「そういえば、魔具の調子はどうですか?」
「んー? あー俺には適正無いみたい」
「え? まさかそんなはずは……魔具を見せて貰ってもよろしいでしょうか?」
「ん? ああいいよー」
アスターは今やファッションの一部と化しているネックレスとそのチェーンに通した指輪を首元から取って見せた。
「これは……」
魔具を見た途端シオンは顔を
「どうした?」
「……申し訳有りません。どうやらこの魔具は粗悪品だったようで」
「粗悪品?」
「つい先日入荷したばかりだったのですが、この魔具からは力を感じられません」
シオンは本当に申し訳ないと謝り新しい物と交換すると言う。折角貰った物だしこのままでいいとアスターは断るが、それでもでも……しかし……と気に病むシオン。
《~♪》
そうこうしている内にシオンの鞄から音がが鳴る。藤四郎からの電話だった。
(真新しい携帯にあのストラップ)
シオンが持つ端末には黒薄紫黄色の三匹の猫のストラップが付いていた。
(あんな事があった後だし、買って貰ったんだろうな)
なんて自己分析しているとシオンの様子がおかしい事に気がついた。
「おっ、お待ちください主様っ、仰っている意味がわかりかねっ!」
あまりの慌てっぷりにどうしたのだろうと彼が思っていると、電話を切られたのか泣きそうな顔をしたシオンがアスターを見た。
「ぬ……主様が夕方まで遊んでこいと……」
「う、うん?」
それがどうしたと不思議でたまらなかったアスターだったが理由はすぐに判明した。
「自分は……主様にとって不要な存在になってしまったのでしょうか……」
この世の終わりが来たようなそんな顔で嘆く。
「ぶっ! ないない!」
アスターはつい吹き出してしまった。
「いきなり何を言い出すかと思えば。あれだよあれ藤四郎さんはきっとお前にもっと外を見て欲しいんじゃないかな? それにナズナが居るからってすぐにお前を切り捨てるような人だと思うか?」
「主様はそんなお人ではありません!」
と少しムッとしてシオンが答えたのでアスターも「そうだろう?」と同意する。
「さて許しも出た事だ。何をするって事も思い浮かばないけど、俺もたまには童心に返って遊んでみるのもいいかもな」
「は……はぁ……」
(子供の頃、何をして遊んでいただろう?)
アスターはふと思う。
けれどこれといって思いつかなかった。
「アスター様?」
「シオンは小さい頃何して遊んでたんだ?」
「自分ですか?
「けまり」
「はい」
「かいあわせ」
「はい」
アスターには想像がつかなかった。
シオンはなかなかハイレベルな遊びをしていた。
「……ま、とりあえずどっか行くか!」
結局何も思い浮かばず、その辺をブラブラする事にした二人であった。
しかし流石に何も言わずに行くのも如何なものかと小屋に引き篭ったままのミスターに声を掛けて行く事にした。
返ってきたのはアスターが思っていたものとは違う反応だった。
「お前にだけは頼みたくなかったが……もうお前でいい」
「喧嘩なら買わんぞ」
「違うわい!」
彼が説明を求めるとミスターは
「友達になってほしい」
「え、嫌です」
「ファァー!!」
逆に何故いけると思ったのか。
小一時間問いつめたいと思った。
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