第10話『隣人は静かに微笑んだ-②-』
「微量ではありますが、魔力の流れを感じます……でも……」
如何にも怪しげな雰囲気漂う古い札に思う所があったステラだったが、彼女には解読できなかった。
けれど部屋に呼び戻された藤四郎はそれを見るや否や、慣れた手つきで懐からルーペを取り出し、床に伏せては時折シオンに向けて言葉を発していく。
(凄いな、こういうの解るんだ)
藤四郎とシオンが一体何を話しているのかアスターには分からなかった。
そして暫くして藤四郎が立ち上がり「多分」と前置いて言葉を続ける。
「封印処理が施してありますね。でもせっかくですし開けちゃいましょうか?」
「「えっ⁉」」
(せっかくとは!?)
アスターとステラはあまりの事に思わず声が出てしまった。
誰かが何かを封じたとなれば確実に良くないものがそこにいるという事だ。それを承知で封印を解こうとは正気の沙汰ではない。
「そう悪いモノでは無いような、そんな気がするんですよねー」
「えぇ……」
(軽いなぁ)
流石のシオンも呆れ顔である。
「……まったく」
それは突然の事だった。
シオンはアスター達に下がるように言うと次の瞬間には“姿”を変えていた。
白い
「シオン君は、
「!」
驚くアスターを横目に藤四郎は自分の元へアスターを引き寄せ部屋の隅へ移動した。
それを確認したシオンは刀を構え、ステラは支援魔術を発動させた。
杖から白く柔らかな光が辺りに漂い、皆みなの体を覆っていく。
「自分が前に出ます、援護を」
「はい!」
「それでは参ります」
周囲の空気が一気に張り詰める。
シオンから放たれた鬼火はあっという間に
「っ!!」
灰が
「え――」
アスターは驚きのあまりつい声を漏らす。
放出された煙が瞬く間に姿を変え、長く伸びた金の髪の上等そうなドレスを着た少女になったからだ。
「……」
少女がゆっくり目を開ける。
「!」
ステラはハッと我に返り壁際に置いていた鞄を急いで引き寄せた。
「ぐぇっ!」
けれど彼女が鞄に手を突っ込みいれた瞬間、しゃがれた声が中から漏れ部屋に響く。
「ミスター!?」
なんでそんな所にと慌てるステラ。
しかしミスターはお構いなしに、彼女の頭めがけ這い上がっていった。
(見ないと思ったら……)
呆然とする皆をよそに頭上に到着したミスターは何を思ったか眼前の少女めがけ飛んだ。
「んびゃああぁ! 美少女発見ーんんっ!」
「☆△♭※ー!!」
(ブレねぇな)
しかしそんな変態ガエルの事なぞ知らぬ少女は狂ったように驚きそして嫌がった。
超音波のような声が大音量で少女から発せられるがミスターは動じない。
「そんな嫌がらんでもぉ~、なぁ~仲良ししようやぁ~」
「△※☆ー!!」
なおも続く抵抗。
加速するミスターの変態行為。
「うわぁ……」
この異様な光景に
その後藤四郎は店へ戻りシオンは変身を解いていた。
アスターとステラはというと窓に身を乗り出し二人そろって遠くを見ていた。
「平和だなあ」
「そうですねぇ」
※彼等の後ろでは修羅場が続いています。
「なあなあ! せめてお茶だけでもよぉ!」
「△♭※☆〇――!!」
「……アレはいつもああなのか?」
「そうですね。概ねあんな感じです」
「そっかあ~」
(大変だなぁ……)
使い魔というのは交代や解雇ができないのだろうかと思っていたその時だ。
鼓膜を破りそうな勢いの一際大きな超音波が発せられたと同時に二人の体がふわりと宙に浮いた。
「「!」」
激しくブレる視界。
そして全身に走る鈍い痛み。
「ってぇー」
「いたたた……」
アスターは訳も分からず半身を起こした。
彼が窓から外へ放り出されていた事に気がついたのは周りを確認してからだった。
「ご無事ですか!?」
難を逃れていたシオンが裏口から二人に駆け寄った。アスターは差し出された手を取り立ち上がる。
アスターには別段怪我は無かったが、うつ伏せに倒れ込んでいたステラが起きると何処かで切ったのか頬に一筋の血が流れた。
「だっ大丈夫か!?」
「大丈夫ですよ」
少し切っただけで大したことは無いと笑うステラに傷が残っては大変だとアスターがドアノブに手を伸ばす。
「!!」
ノブはバチッと音を立て伸ばしたその手を勢い良く弾いて拒絶した。
「アスターさん!?」
「な、なんだ静電気にしては何か……?」
何が起きたのか分からずもう一度手を伸ばすが、また弾かれた。
「どうなってんだ……?」
「多分……」
あの少女に関係があるかもしれないとステラは呟く。
「タイミング的にそうとしか……」
「ですね」
「どうする?」
「裏口が無理なら正面に行きましょう。店側ならシロウさんがいるはずです」
「それもそうだな」
表に回った一行であったが……。
「駄目だ」
ドアを叩いて知らせようにも叩く前に弾かれてしまい何も出来なかった。
せめて目が合えばと窓から覗き込むが、藤四郎は気付かない。
棚から雑貨類の在庫を出しては首を傾げ、また在庫棚に手を伸ばす。
それも入り口に背を向けた状態で行われている分望みは薄かった。
「電話はどうだ?」
カウンター横の電話機に気付いたアスターが提案する。流石に電話を鳴らせば確実だろうとその案に二人も同意するが……。
「シオン君、お願いできますか?」
「いえ、自分は持ちません。申し訳ありませんがステラ様お願いします」
「あっ、私もそういうのは持ってなくて」
とても残念な事が判明しただけだった。
「じゃあ公衆電話は? その辺で見たぞ」
「そういえば近くにありますね」
「流石に店の番号位……」
「申し訳ありません……ショップカードは店の中です」
「どうすんだよ。つかこれだけ騒いでるってのに全然気付かないぞ」
「もしかしたら、音やこちら側の景色も遮断されてる可能性もありますね」
「ええ……」
「あっ、でもカレンさんなら知ってますよ、シロウさんとメル友だって言ってました!」
「分かった。協会に戻ろう」
「はい!」
そんなこんなで一行は協会へと急ぐ――。
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