第75話 愛情と執着。
きみが好きだ。
レオンはこともなげに言う。
そういえば以前も同じようなことがあったっけ。
(レオンってほんと強心臓よね。言い慣れてるのかしら……)
それとも心の中で確信があるから堂々としてるのだろうか。
でもどちらにしろ、これではっきりした。
私は救われたのだ。
あれほどに不安で仕方がなかったのに。レオンの一言で一気にネガティブな感情が消え失せてしまうなんて。
「事故に遭う前はフェリシアを利用するだけで良いと思っていたんだ。前も言ったけど、フェリシアにはヨレンテの落とし子であること以外に魅力はなかったからね」
レオンはやや目線を落としてはにかんだ。
「でも今は違うよ。全てが愛おしいんだ。きみはマンティーノスの女主人になる身。これからも僕と一緒にいてもらうことは難しいかもしれないけれど、きみを諦めるつもりはない。フィリィが他の男を選ぶことも嫌だ」
これは愛されているのでは?
(もしかしてすごく大切にされているのね、私……)
素直に嬉しい。喜んでいいのではないか。
「えっと……ありがとう?」
「フィリィ」
レオンは両手で自らの顔を覆う。
「僕もそれなりに勇気をもって話したんだけどなぁ。こんなこと女性に話したの初めてなんだけど。ねぇ、ありがとうって何?」
「べ……別に意味はないわ」
異性からの告白は初めてだ。
いや、他人からの裏のない好意を受けるなんて初めてだ。
エリアナは生馬の目を抜くかのような世界で生きていた。
自分に近づいてくる輩に裏心のない人物などいなかった。実のお父様でさえもエリアナを陥れるために策を企てていたのだ。
フェリシアもそうだ。
ルーゴの私生児として疎まれ虐げられて育ったのだ。
どう答えればいいのか正解経験則から導き出すこともできない。
「あの……一応、礼は言っておくべきだと思っただけよ」と私はなんとか冷静を装った。
ただ顔は熱い。
熱いどころかものすごく熱い。日焼けでもしているかのようだ。
きっと真っ赤になっているはず。
レオンがにやにやしてこっちを見ている。
(そんな風に見ないで……。恥ずかしい……)
好きな人に心を見透かされるのはどうしてこんなに恥ずかしいんだろう。
きっと気づいているはずだ。
「レオン、あの……」
「フィリィ、無理しなくてもいい」
「え、何が無理しなくていいの? ちょっ……」
レオンは私の手首を掴み顔を寄せ額をつける。
鼻の先が擦れ合うほど近い。
ヘーゼルの瞳にヨレンテの碧眼が映り複雑に混ざり合う。
「きみも僕とは離れられないさ。契約があろうがなかろうが。きみはもう僕の一部なんだから」
「一部?」
「僕の秘密を知っただろう? どっちにしろ死ぬまでそばにいてもらうつもりだよ。身も心も僕に縛られるんだ」
「え?」
背中に粟が立つ。
(これは愛情……なのかな?)
戸惑う私をせせら笑うかのような狂気じみた言葉を吐くとレオンは体を離した。
「さて。僕はそろそろ法廷に戻らなきゃいけないんだけど、きみはどうする?」
「裁判……」
いなくてもいいとは言っていたが、実のところはそうでもなかったようだ。私のことを案じて抜けてきてくれたのか。
私は首を振った。
「……私はタウンハウスに戻るわ。オヴィリオさんの裁判にセナイダ様そっくりな私が現れたら大騒ぎになっちゃうだろうし」
フェリシアと亡くなったお母様の容姿はよく似ている。
お父様と後妻そして前妻そっくりな私が揃うと、スーパーゴシップだ。裁判どころか最高のメロドラマになってしまう。
(それに人間は感情に引き摺られちゃうものよ)
裁判官も然り、だ。
私はオヴィリオに、実の父に厳刑を望んでいる。
フェリシアが現れることで裁判官の判断に影響があってはならない。
エリアナへのケジメをつけるために。
「どうなったか教えてね。気をつけて行ってね。レオン」
「うん。で?」
レオンは誘うように右の口角を上げる。何かが聞きたいらしい。
私はとても正面を向くことができずうつむいた。
「私もす……好きよ。レオン。一生そばにいてね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます