第40話 テュフォン

中央公園

鋭い牙とトゲを持つ巨大なバラが襲いかかる。

すると、エルンストの後ろから、カニのような怪物が、ガシャガシャとよろいを震わせながら現れた。

ソロモン博士とシドとモリヤが自動車の陰で見守っている。

シドが博士に尋ねる。

「博士、これは、いったい」

「もともと汎用細胞がもとになって、エルンストもボムモンスターも生まれた。だから、同じバイオコンピュータで制御できると考えたわけじゃ」

「じゃあ、あの怪物は……?」

「あのよろいの怪物ガルシムの中には、長時間の手術を経て、エルンストの体細胞と、バイオコンピュータの受信装置が移植してある。。今、エルンストとガルシムは、同じ意思を持って動いているのだ。シンクロ率は92パーセント、初出動じゃ」

ガルシムが、鎧を鳴らしながらモンスターローズに突進していく。

迎え撃つ赤いバラと白いバラ。まずはとげのついた鞭のような敦賀左右から叩き付ける。だが、体制を低くして進むガルシムの固い甲羅がすべて跳ね返し、さらに下から突き出す鋭いハサミが葉やつるを切断していく。

全身を震わせ、巨大なトゲを逆立て、引き裂こうとする白いバラ。

だがその時、ヤゴのような伸び縮みする大あごが一直線に伸びたかと思うと、白い花びらが辺りに散る。

「キキキー」

後ずさりする白バラ。だがすぐに赤バラが逆転を狙う。つるを伸ばし、ガルシムをグルグル巻きにし、締め上げる。

危険を感じたガルシムは、よろいを丸めて、衝撃に耐える。


シドが心配そうにつぶやく。

「二対一で、ガルシムは勝てますかね」

ソロモン博士が答える。

「ガルシムは、防御形態、攻撃形態、特殊形態と体を組み替えられる。今は、防御けいたいじゃ。あんな攻撃、なんでもない」

ガルシムは隙を見て体を起す。すると、よろいとよろいの間が一瞬拓き、無数の針が伸びる。

つるが切断され、たくさんの葉がちぎれ舞う。

「ほうら見ろ、攻撃形態にチェンジじゃ」

ガルシムは、東部の角を立てて、正面の白バラををぶっ飛ばし、さそりのような長い尾を伸ばし、後ろの赤バラをなぎ倒した。

「ほれ、見ろ、やつを甘く見るなよ」

だが、モンスターローズたちも黙ってはいない。

甲高いうなり声をあげると、大輪の花の真ん中にある牙の並んだ口をいっぱいに広げた。花が倍以上の大きさに膨らみ、ズラリと並んだ牙の奥にトゲだらけの巨大な口が開く。消化液をしたたらせながら、赤いバラと白いバラが迫ってくる。

戦いは互角のまま長期戦にはいるかと思われたその時だった。

その時、緊急通信が入る。

「こちら特殊処理班の機動ロボット、メタルタイタン、テュフォンです。私は隊員のルーク。そちらに今巨大生物反応が集まっていますが大丈夫ですか」

ソロモン博士が応答する。

「おお、これはよいところに、こちら生物科学研究所から派遣された、生態兵器ガルシムじゃ。今、怪物2匹を相手に苦戦しておってのう。応援を頼む」

ルークが答える。

「了解。あと数分でそちらに到着します」

ソロモン博士、飛び出して叫ぶ。

「エルンスト、一度引いて、大勢を立て直すんじゃ」

するとガルシムは、体の数か所から、一度に熱放射を噴き出す。

「キキキーア。」

苦しがって、のけぞるモンスターローズ。

「よし、今だ、逃げろ」

ガルシム、ささっと引き上げて行く

モンスターローズがふらふらしながら追いかけるが、何かを見つけ緊張が走る。そう、テュホンがやってきたのだ。

シドが驚きの声を上げる。

「で、でかい、トロルの倍はあるぞ」

ケンの声が響く。

「ガルシムは本機の後ろに移動してください。テュフォン、始動します」

金属的な、雄たけびが響き渡り。三本首の巨竜が進み出た。

ケンが叫ぶ。

「ハリケーンカッター発射」

胸が開き、金色のカッターが数十個打ち出される。

「キキキーウィ」

悲鳴とともに、、太い茎や根のあたりから熱放射が吹き出し、つるが、葉が、花弁が切り刻まれ、風に舞う。

ルークが決断する。

「よし、サイクロンドリルだ」

三つの首から巨大なドリルが出て、それが、それぞれに回転しながら、突進。トゲだらけの茎を粉砕し、さらに白い花びらを巻き込んで引きちぎる。

ロビンがとどめの合図を出す。

「よし、とどめのサターンバイト」

すると体の両サイドから、ロボットムチが伸び、赤いバラの怪物をを巻きこっみ、引き寄せ、強力な三つの大あごでバラバラに引きちぎり、噛み砕いた。

地面に降り積もった白い花びらの上に赤い花びらが、吹雪のように降り注いだ。

ソロモン博士が息をのむ。

「すさまじいのう」

シドが目を見張る。

「テュフォン、台風の語源になった最強の怪物化…よく名づけたもんだぜ」

ケンが降りてきて、博士に挨拶する。

「やあ、助かった。どうもすまんのう」

「お役に立てて光栄です。ソロモン博士ですね。リタ隊員からよく話は伺っておりました」

「そういえば、君たちもリタを探しに来ていたのではなかったかね」

「はい、実はすぐ近くでジャイアントを見つけたのですが、リタもハンドもそばにいませんでした」

「そんなばかな。おい、イネス、リタとの緊急回線はどうなっておる」

イネスが困惑した声で答えてくる。

「それが、少し前に切れたままです。電波障害なのか、何かあったのかわかりません」

ソロモン博士はいてもたってもいられなかった。

「いったい何が、今どこにいるのかのう」


ミノタウロスと巨大ワームの戦いは熾烈を極めていた。

激突する両者、ミノタウロスの強力な角がワームの頭を下から突き上げ、その巨体を突き飛ばす。キノコの森をなぎ倒し、転がるワーム。すぐに体制を立て直すと。ワームは全身を震わせ、距離を取りながら、触手でミノタウロスの動きを止めようとする。

ワームの触手が一斉に伸びて、ミノタウロスの体に巻きつこうとする。

左手の大あごでそれを受け止め、右手の角でそれを切り裂く、ミノタウロス。

別の触手の先から、ベトベトした液を吐き出し、動きを止めようとするワーム。

何発ものベトベトをよけたが、一発が足に当たり動きが止まる。

そこを逃さず、巨大な口を開けて押し寄せるワーム。

角を使って巨大な口は封じたが、無数の触手に絡め取られ、ミノタウロスの動きが完全に止まる。

リーガンは見ていられない。

「ミノタウロス、危ないですねえ」

レベッカが悔しがる。

「あんな芋虫、なんで強いのよ」

マービンはなぜかボクシング通の親父のような余裕を見せる。

「まだ、やつは本気を出してない。きっとやってくれるぞ」

カリバンも元気づけてくれる。

「そのとおり、彼はやってくれますよ」

だらだらと粘液をたらしながら、巨大なワームの口が迫り、牙が何度も空を切る。

すると、ミノタウロスは大きく叫び、体中に力をみなぎらせた。

マービンがここぞと力をこめる。

「ほれみろ、本気の逆襲が始まるのさ」

なんと、体のあちこちから、凄まじい熱放射が一気に噴出し、からまった触手をひきちぎった。リーガンが感嘆の声を上げた。

「す、すごい。熱放射を自分でコントロールしている」

マービンはいけいけムードだ。

「やった、いけ、とどめじゃ!」

最後の逆転を狙って、空中に飛び上がり、巨大な口をいっぱいにあけて、おそいかかるワーム。

だがミノタウロスはあわてず、低い大勢から、思いっきり角を突き上げた。

斜め後ろに、大きく弧を描いて跳ね飛ばされるワーム。

大地が割れんばかりの衝撃があたりを揺さぶる。

リーガンがハンドルにしがみつく。

「す、すごいぞ」

仰向けになったワームの腹に容赦なく突き立てられる鋭い腕の角。

ものすごい熱放射が真上に吹き上がる。ワームの体は、バラバラにちぎれ、もう動くことはなかった。

ミノタウロスはさっそくワームを貪り食い、体の傷はどんどん再生していく。

この人間たちと一緒に行けば、食料が必ず手に入ると確信していく。

レベッカがマービンの手をとる。

「やったあ。牛さーん。お父様の言ったとおりだわ」

「よっしゃあ、次だ。今度こそ、リタさんを助けるぞ」


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