第21話 撤退

繁華街の巨大モニターに緊急放送が流れる。

狙撃のあったビルの前から救急車が走り去る様子が映し出される。

市長と、警察署長が、並んで市民に訴えかける。

「暗殺は失敗しました。狙撃した銃弾は背中に命中しましたが、情報局長は生きています。今、医療センターの集中治療室で治療を受けています」

警察署長の言葉に続き、もう一つの事実を市長が伝える。

「画面をご覧ください。テロ組織の仕掛けたクリーチャーボムがあちこちで増殖し、市内の広範囲で反応が出ています。今、北部の住宅地を中心にして、とても危ない状況だということが判明しました。我々は、市民の命を最優先に考えなければならない」

警察署長が大きく息を吸って一気に続けた。

「報復措置は一時凍結します。これからの説明に従って、市民の皆さんは速やかに避難を始めてください」

立ち止り、繁華街の巨大モニターを見つめるたくさんの人々。

その同じニュースを、事務所のテレビで見ながらソロモン博士がつぶやく。

「暗殺は失敗か。言い方にもいろいろあるものじゃのう」

イネスも首を振る。

「意識不明の重体であることには変わりません。それに、最初から狙撃としか予告されていませんよね」

「北部・西部全域、および、中央駅周辺の完全封鎖。その他にも完全避難地域を含めると、市の約七割が無人地域となる。危険なのは分かるが、報復措置もすることなくすぐ避難してしまったのう……」

「情報局長があんなことになって、市長たちはすっかり腰砕けみたいね」

「爆弾の撤去もしないで逃げ出して、あとでどうなっても知らんぞ。この便利屋は避難地域には当たらなかったが、複雑な気持ちじゃな。」


市の外へ、脱出する車でいっぱいのハイウェイ。

避難する市民たちの行列。誘導する警察官、バリケードが作られ軍の車両が行き来する。

その時、遠く、街の中心部の方で爆発音が響く。避難民そちらを一斉に振り向く。ビルが、ゆっくりと崩れて、キノコ雲が登っていくのが見える。

それにつれて、あと2箇所ほど、爆発がおこる。避難民、顔をひきつらせて、駆け足で移動を始める。怒声や、子どもの泣き声も聞こえる。

その同じキノコ雲をマンションの窓から眺めている男がいる。避難をしないでなぜか残っているカノウである。

「ハハハ、みんないなくなっちまえ。ああ、すっきりする。せいせいするぜ」

カノウの後ろでは、巨大化した怪物が、叫び声をあげる。

がらんとした動物園、爆発があったらしく、建物が崩れ、一部から煙が立ち上っている。

オランウータンのおりが映る。

鉄格子がねじ曲げられ、中には何もいない。

風がゴミを舞い上げて吹き抜けていく。

そして、人影の絶えた死の街だけが、広がっていた…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る