第15話 マービンシェパード

数日後

便利屋サムの事務室は静かな午後を迎えていた。

リタの写真が載っている新聞がテーブルの上にある。。

ソロモン博士が、新聞を広げながら、またコーヒーを飲んでいる。

「おいシド、リタはマスコミじゃあ、町の危機を救った小さな英雄として、えらい評判だが、実際のところ、いつここに帰って来られるんじゃ?」

シドが呆れ顔で答える。

「あの子もやってくれちゃいましたからねえ。国際警察の方から手を廻してはいるんですが……。どうも反省の色がまったく無いとか、検察官に暴言を吐いたとか、印象がよくないらしくてね。もうしばらくかかりそうですよ」

イネスがシドにコーヒーを運ぶ。

「リタらしいわね。それより博士、それとは別に、国際警察から依頼が来てますがどうなさいますか」

イネスが書類を見せる。

「こりゃあ、ツァイスのやつら、ついに動き始めたぞ。家電の修理は来週まで臨時休業じゃ。ここはイネスにまかせて、全員出動じゃ。いよいよエルンストの力も借りなければなるまい」

そこにモリヤが駆け込んでくる。

「おいおい、みんな、今そこで小耳に挟んだんだが、ちょっとテレビをつけてみてくれ」


同じころ、マービン家のリビングもドタドタしている。

大画面テレビの前にレベッカと母親のテレサが集まってくる。

「お母さん早く、始まっちゃうわよ」

「はいはい、ちょうどパイが焼けたところよ。ええっと、このチャンネルでよかったかしら」

「大丈夫よ。ほら、リーガンさんが後ろに映っているわ」

テレビの画面にスタジオの中が映る。地方局の主婦向けのワイドショーのようである。司会者がテキパキとあいさつをする。

「…ええ、それでは、今日のトップシークレット、画期的な新製品のおしらせです。今日はあのマービン電気の社長さんにスタジオまでお越し願いました」

マービン社長がニコニコしながら登場。カメラ目線でキャッチコピーからスタートする。

「新製品からリサイクルまで、暮らしの隣にマービン電気、社長のマック・マービンです」

「ようこそ社長さん。今日は素晴らしいものを持って来てくださったそうですね」

マービンが今度は深刻そうな顔をする。

「はい、今町を恐怖のどん底に陥れているクリーチャーボム、皆さんも心配なさっていることでしょ。でも、ご安心ください、わが社ががんばりました。あの恐ろしいクリーチャーボムから身を守る科学の番犬、警報機、名付けてマービンシェパードです」

「マービンシェパード?でも、あの爆弾は、あらゆるセンサーに反応しないというふれこみでしたが……」

「ハハハ、それではそのメカニズムを、技術部長のリーガンから説明させましょう」

リーガンが咳払いして進み出る。

「ええっと、そのですね。人間や動物の体についているときは、一体化していて、センサーに反応しないのは確かですが、一度体から離れて、キノコのように増殖を始める時にですねえ、特別なタンパク質を放出しまして…。これがそのタンパク質の組成です…」


便利屋サムでも、そのテレビ番組がついている。

ここでもみんな、テレビの前に集まって凝視している。

ソロモン博士が訝しげに画面を見る。

「あんな民間の電気会社がこんな代物をしかもこんな短期間で作るとは信じられん。だが、あの若い奴の説明を聞くと、どうも嘘っぱちでもなさそうだ」

イネスも首を傾げる。

「あのタヌキ社長,陰で何か悪いことでもしてるんじゃないの」

シドもうなずく。

「どうせ、そんなところだろうぜ」

だが、ソロモン博士が何かを発見する。

「おや、このみんなのうしろにいるアシスタントロボット、どこかで見たような……」

シドが笑う。

「どうせ着ぐるみじゃないんですかね。」

リーガンが次に、警報機を手に取り、中央情報局の司令室の映像を見せる。

「そして画期的なのは、この警報機の通信機能です。マービンシェパードが異常を感じた場合、その情報が、マービン電気研究所と中央情報局の司令室に送られ、集計され、すぐに災害対策に役立てられることです」

司会者が大きくうなずく。

「すばらしい。個人の安全と地域の安全対策に、同時に役立つのですね。すばらしい」

そこにすかさずマービンが進み出る。

「不可能と言われたクリーチャーボムを判別する最新の科学、そして地域に貢献するネットワーク機能、そしてコンパクトなデザイン、しかもシャンパンゴールドとルビーレッド、メタルブルーの三色のバリエーション、わが社の総力を結集しました。」

すると間髪を入れず、司会者が訪ねる。

「それだけの高機能となると、お値段も高そうですねえ。」

しかしマービンは胸を叩いてまたカメラ目線。

「ご安心ください、社会貢献の一環として、お値段も勉強させていただきました。さあ、マービン電気のマスコットロボット、カリバン君、値段表を持ってきなさい」

体をマービン電気のイメージカラーのオレンジに塗り替えられ、胸にマービンのロゴを入れられたカリバンが値札を持って前に出てくる。

ソロモン博士がテレビの前を離れる。手に先ほどの国際警察からの依頼書が握られている。

「よし、じゃあ出発だ、みんな、気を引き締めてかかってくれ」

メンバー、事務所を出て行く。机の上にリタの写真が残る。

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