第85話 新しい村民3
「エレナさん、一度俺と王都へ行きませんか?」
もうそろそろ、焦れて来る頃だと思う。シュナイダーさんもいるんだし。
「……開拓村は、今が一番忙しいんですよ? でも、まあ……、種蒔きが終わったら行ってもいいかな」
エレナさんも、噂が気になるようだ。
ヴォイド様の配慮だったけど、噂が独り歩きしていて、エレナさんにも被害が出ている。
それと、エルフ族との条約だ。ダニエル様に直接聞きたいことがあがある。
交易品となる、ポーションとエリクサーもまだ持っている。それと、王城のエルフの件……。シュナイダーさんも連れて行かないといけないし。
そう言えば、期限はどうなっているんだ? 催促が来ないのはなんでだ?
最後に、忘れてはいけないのが、戦争の話だ。いや、旧王都の復興になったんだっけ。
もう開拓村にだけ、いるわけにもいかない。
「俺は、エルフ族の件もあるので、遠からず行かなければなりません。エレナさんは、同行をお願いしますね」
「……言っておきますけど、シュナイダーさんも連れて行きますからね? 変なことは、考えないでくださいね」
……これは、セリカさんの入れ知恵だな。自分で言っていて、エレナさんは顔を赤くしている。
しかし、俺の信用も地に落ちているみたいだ。
冬場には、二人旅でなにも悪いことなどしなかったのに……。いや……、裏の意味を取るべきか?
周囲は、笑っているし。エレナさんが、墓穴を掘っている。
その後、土壌の改良が行われる。
区画を区切って、腐葉土と砂が撒かれた。それと、肥料と思われる物もだ。
俺は、資材の運搬だけを手伝った。
「腐葉土とか壊していいのであれば、俺の収納魔法も使えるんだよな……」
考え方次第かもしれない。もう少しでなにか出て来そうなんだけど……、思いつかない。
夜となり、歓迎会を兼ねた夕飯となる。何時もの倍の量の食事が振るわれてるな、これ。
エレナさんとセリカさんは、料理人として優秀だな。再確認する。
「今日は、肉もあるのか……。魚もあるし豪華だな」
パンも好きなだけ食べていいとのこと。
この開拓村で、初めてだな、こんな豪華な料理は。
皆は、ホットドックを好んで食べている。
俺は、わさびをすり下ろして、焼き魚を選んだ。
食べてみるけど、やっぱり合わない。生か、半生の刺身が欲しいな……。寄生虫が怖くて口にできないけど。
「それと、白米が欲しいな……」
食に拘る気はないけど、もう異世界に来て一年近い。日本食が恋しくなって来た。
たまにでいいので、食べたい。
夕食は、川魚一匹とパンを一個食べてお腹一杯になった。ハクレンもどきの魚は、大きすぎるな。欲張り過ぎた。
その後、宴会から離れて自分のあばら家へ。
腰を下ろして、寝そべった。
「種蒔きを終わらせて、王都へ……。王都でなにするかで、未来が大きく変わるんだろうな」
未来の情報を貰っていると、逆に不安になって来る。岩瀬さんは、忠告のつもりだったんだと思う。
シュナイダーさんはいいけど、エレナさんを連れて行くのは、少し怖い。
気の触れた俺は、王都を破壊し尽くすのだし……。
「まあ、なんとかするか」
できる限りの準備だけはしておこう。
その後、満腹なのですぐに眠りに就いた。
◇
数日後、種蒔きが始まった。こうなると、俺に手伝えることはなくなる。
そうなると、次の依頼が来た。
俺は、水汲み場の川の改造を依頼されたんだ。
「ここを池にするんですか?」
「うむ。釣り道具もいいんだけど、やはり罠の方が効率がいい。安定して獲れるしな」
その後、言われるまま川幅を広げた。収納した土砂は、対岸で川底に沈める。
川の一部が、細くなったので渦ができるようになった。
これに意味があるのかな?
「定期的に、川の改造を頼むね」
まあ、効果判断は釣果次第だな。
「分かりました」
その後、しばらく見ていると、渦に巻き込まれた川魚が集まっているのが分かった。水量次第だけど、こんなのでも罠になるのか……。
渦に飲まれて、動けなくなっている魚に、村民が釣り針を垂らす。どんどん釣り上げて行った。これは、良さそうだ。
「俺は、開拓村に戻りますね」
それだけ言って、その場を離れた。
「罠……、か」
◇
シュナイダーさんは、果物を食べ出した。まだ実は小さいけど、嬉しそうに食べている。
果樹園を作ってもいいかもしれないな。いや、シュナイダーさんは、王都へ行くんだった。
「後すること……。海での漁くらいか」
優秀な人が来たので、俺の収納魔法の出番が減って来ている気がする。
まあ、いいんだけど。
ここで、セリカさんが来た。
「王都には、何時行くの? 余り遅くなると印象が悪くなるわよ? シュナイダーさんのことも忘れないでね」
忘れてはいないんだけど……。どうしようかな。
「エレナさんに相談してみます」
「ふふ。いい傾向だわ」
行動の制限。自慢の魔法の披露機会の減少。エルフ族のこと……。
少し、不満が溜まって来たかな。
だけど……、不満を言える立場でもない。
逃げる気もないし。
この先どうなるのか、少し不安なだけか。
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