第78話 交渉の行方2

「それと、亜人族との戦争の話も聞いている。君にも知って貰いたいと思う」


 エルフ族が優秀なのは分かったけど、早過ぎないか? 今は、雪解けした直後だぞ? 行軍に同行したエルフがいる?

 魔法のある世界なんだ。俺の常識では、計れないかもしれない。


「……旧王都に亜人族はいなかった。戦端は開かれずに、そのまま旧王都の占領に成功したのだそうだ。今は、復興を行っているみたいだ」


「俺もそう聞きました」


 この話は、ヴォイド様と同じだ。これは、裏の取れる話だな。

 そうなると、亜人族には、その旧王都は合わなかったのかな? 気候の問題や、食料が得られないとかが考えられるな。


「この地や、人族の王都よりもかなり温暖な土地なんだ。農地も拡大できるかもしれないらしい。我々の中からも移住者を募りたいほど、魅力的な土地となる」


「……温暖ですか。雪が降らないってことかな? この地域は、雪が降ると止まりましたからね」


 いや……、土地を増やしても人口が足りてないんじゃなかったの?

 召喚魔法を、また発動させそうだな。


「それとだが……、王家は今回の戦争を功績として認めなかった……、と伝わっている」


「あ……、えっ?」


 そうだった。意外としか言いようがない。

 遠征して土地を奪還したのに、功績を認めない?

 王家は、なにを考えているんだ……。


「王命は、戦争から復興へ変更になったのだそうだ」


「それも聞いています……」


 ……契約を途中で変えた? この世界は口約束なのかな?

 王家……いや、王様やっている人は、なにかを欲している……。

 それを、得られなかった……、としたら。


 世間一般的には、『戦争による土地の奪還』だけど、『他に目的』がありそうだな。そして、それを亜人族が持っている。


「まあ、行軍に参加した者は多いそうだ。移住者も多いだろう。数年先には、功績も認められるんじゃないのかな?」


 それは、亜人族に攻められない前提での話だな。

 開拓村が認められたら、俺も行った方がいいかもしれない。

 重機の代わりになるし、亜人族が攻めてきたら盾にでもなれる。いや、力を見せつければ、交渉くらいはできるかもしれない。

 もう、ヴォイド様の開拓村は、結構発展しているし。

 ヴォイド様が新しく村民を連れて来てくれれば、秋には税も取れると思う。


 戦争への参加は、俺に話が来ない様に止めてくれたみたいだけど、旧王都に行く依頼が来れば、受けてもいいかもしれないな。


「ちなみにですけど、戦争に同行しているエルフ族がいるのですか?」


「ハーフエルフは、分るかな? その者達は、戸籍を得ている。人族領で少数だが生活しているよ。迫害も受けていない。いや、むしろ優遇されているな」


 ダメだ。情報過多だ。エルフとハーフエルフの違いが分かんない。

 排他的な人族が、なんでハーフエルフを受け入れてんだ?

 こればかりは、王都に行って聞いてみないと、理解できない。この世界を知れば知るほど、調べることが多いな。


「貴重な情報と交易品、ありがとうございます。これで、交渉してみます。それと、ハーフエルフの協力もお願いしたいですね。援護射撃があると、助かるかもしれません」


 孤独に生きていた、前の世界の俺では、出なかった発想だな。

 この世界で、他者との繋がりの必要性を痛感した。

 どんなに強大な力を持っていても、手は二本しかない。


「うむ、よろしく頼む」


「急いでいたので、今日は手ぶらで、すいません。今度来るときは、俺もお土産を持って来ますね。アルコールがいいのかな?」


「……果物の種を頼めるかな? 品種改良は、こちらで行う」


 そうか……。王都で、エレナさんとパフェを食べた。

 果物は、豊富にあったのを覚えている。

 確か、南の温暖な島を手に入れたとか言っていたな。今度行ってみたいな。


「……俺が王都に行ければ、手に入れられそうですね。時間をください。何時行けるかは分かりませんが、集めておきます」


「荒事にしないでくれれば、頼みたいね。穏便に頼むよ」


 俺って、荒くれ者と思われている!? 結構壊したけど……。

 こうして、エルフ族と別れた。





 開拓村への帰路に着く。

 馬車の中で、エルフ族との経緯をエレナさんに説明する。


「ポーションとエリクサーを貰って、戦争の話を聞いたのですね……。この後は、トールさんが王城に行くのが決まっているような話し方ですね」


「当事者だし、呼び出されるんじゃないんですか? 王城に幽閉されているエルフがなんとかしてくれると思います。それと、果物の種をどうするか……。イチゴ、バナナ、ブドウ、パイナップル……。なにが好みなのかな。なんでもいいけど、寒冷地でも栽培できる物を探さないと」


 『交易』なんだ。こちらも、品物を用意しないといけない。


「確認しますが、例えばイチゴの栽培方法を知っていますか?」


 ……知らないな。イチゴの種ってどこだ? 表面の粒?

 いや、野イチゴなんてのもある……、と思う。種じゃない?


「……分かりません」


「はぁ~。植物の知識がなさ過ぎますね。私も行くしかないみたいです」


 ここで、シュナイダーさんが笑った。


「はは。また3人での移動となりそうだね。でも、私はお邪魔かな?」


 ……エレナさん。本気で怒らないでください。





「……襲撃はなしか」


 開拓村に、変化はなかった。

 俺の不在の間に襲撃を行えば、半壊くらいはさせられただろうに。本当に友好関係を望んでいるんだな。

 ここで、セリカさんが来た。


「おかえりなさい。でもなんで馬が増えているの?」


「馬は、交易品として頂きました。他にもあります。これからヴォイド様に説明したいと思います」


「まあいいわ。今回は、エレナも一緒なのだし。トールさん一人だと、分からない話も今回は大丈夫でしょう。私は馬を繋いでおくわ。話をして来て」


「……分かりました」


 俺って、信用ないんだな。前回のエルフ領での行動が、問題だったのかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る